ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
両腕が、刃に変わる。
まんじの黒い装甲が形を失い、先端から鋭く伸びていく。右腕は長剣、左腕は曲刀。異なる形状の刃が、赤い複眼の光を反射して不気味に濡れていた。
「その龍、飾りじゃねぇんだろ」
まんじの声が、仮面の奥で低く響く。
「だったら、斬り合って確かめようじゃねぇか。てめぇの覚悟ってやつを」
彼女が床を蹴った。
黒い残像が視界に残る。さっきまでよりも速い。施設の照準が彼女の動きを追いきれず、赤い光が壁を無秩序に走っていた。
俺は両手を広げる。
深紅の光が掌から溢れ、実体を持ち始める。握り込むと、ずっしりとした重みが腕へ伝わった。
ブレイカムドォーン。
パニッシュカプセムと共に現れた、二振りの剣。長剣と短剣を同時に構える。
長剣を正眼に構え、短剣を逆手に持ち替える。
「来い」
右の曲刀が、横薙ぎに迫る。
俺は長剣で受け流した。金属音が地下空間に響き、火花が闇を裂く。衝撃を腕で殺す間もなく、左の長剣が袈裟懸けに振り下ろされる。
短剣で軌道を逸らす。
刃が肩の装甲をかすめ、銀色の表面に浅い傷が走った。
「一撃目は挨拶だ」
まんじが踏み込む。
「二撃目からは、違うぞ!」
曲刀が突きに変わる。喉元を狙った鋭い刺突。俺は半身で躱し、長剣をまんじの脇腹へ流す。
彼女は曲刀を引き戻さず、左の長剣で俺の一撃を受け止めた。刃と刃が噛み合い、互いの体重が正面からぶつかる。
近い。
ゼッツダークネスの赤い複眼が、手を伸ばせば届く距離にあった。
「龍はどうした!」
まんじが叫び、頭突きを放つ。仮面と仮面が激突し、視界に火花が散った。
体勢を崩した俺の足元へ、曲刀が滑り込む。
まずい。
脚を狙った一閃。俺は後方へ跳んで躱したが、着地の瞬間にまんじが距離を詰めていた。右の曲刀が逆袈裟に跳ね上がり、左の長剣が上段から落ちる。
二方向同時。
俺は長剣を上段の受けに回し、短剣を逆手のまま曲刀の軌道へ差し込む。四本の刃が交差し、耳をつんざく金属音が響いた。
「いい反応だ」
まんじが押し込む。
「だが!」
彼女の両腕から、黒い波紋が刃へ流れ込む。剣の表面に蝶の紋章が浮かび、重さが倍に跳ね上がった。
膝が沈む。
「ぐっ…!」
「教祖様に近づく奴は、全員斬り刻んででも止める!」
まんじの怒声と共に、刃の圧力がさらに増す。床のタイルが俺の足元から放射状に割れ、破片が宙を舞った。
パニッシュドラゴンが、背後で唸る。
今だ。
俺は短剣を手放した。
「何…」
まんじの曲刀が、抵抗を失って俺の肩口へ食い込む。装甲を裂き、下の強化被膜まで届く。痛みが左腕を走った。
それでも、俺は倒れない。
手放した短剣が宙で止まる。龍の尾が巻きつき、意思を持つかのように回転した。短剣は弧を描き、まんじの背後へ回り込む。
「しまっ…」
まんじが振り返ろうとした瞬間、短剣が彼女の右の刃を側面から叩いた。
曲刀の軌道が逸れる。
押し込まれていた圧力が一瞬緩み、俺は長剣をまんじの左の刃から滑らせる。火花が散り、互いの武器が外れた。
俺は一歩踏み込み、長剣を横一文字に振り抜く。
まんじは両方の刃を交差させて受けた。衝撃で彼女の身体が数歩後退し、床に黒い靴跡が残る。
龍が短剣を俺の手へ戻した。
「今のは…」
まんじが小さく呟く。
「一人で戦ってるわけじゃねぇってことか」
「そうだ」
俺は双剣を構え直す。左肩からはまだ血が滲んでいたが、龍のエネルギーが傷口を覆い、出血を止め始めている。
「俺の背中には、仲間がいる。お前が背負ってきたものを、一緒に受け止める奴らが」
「仲間、ね」
まんじは両腕の刃を、ゆっくりと構え直した。
「だったら、その仲間ごと斬り刻むまでだ」
彼女の装甲から、さらに濃い黒い粒子が溢れ出す。粒子は刃へ吸い込まれ、切っ先をより鋭く、より重く変えていく。
「教祖様を守るためなら、あたしはどこまでも強くなる」
「分かってる」
俺は長剣を前に、短剣を腰の高さに構える。
「だから、俺も強くなる。お前の強さを受け止められるくらい、な」
二人、同時に床を蹴った。
四本の刃が、地下空間の闇の中で火花を散らす。
両腕の刃が、闇を裂いて迫る。
右の曲刀が喉元を狙い、左の長剣が胴を薙ぐ。二方向同時。さっきまでなら受け止めるだけで精一杯だった。
俺は長剣で曲刀を弾き、短剣で長剣の軌道を逸らす。四本の刃が交差し、耳をつんざく金属音が地下空間に響いた。
「その罪は消えねぇ!」
まんじが叫ぶ。彼女の声は仮面の奥で歪み、怒りと痛みが混ざり合っていた。
「奪ったものも、奪われたものも、全部が夢の中で繰り返される! 目を覚ましても、犯した罪はなくならねぇんだ!」
彼女の曲刀が、俺の肩口を浅く斬る。銀色の装甲が裂け、下の強化被膜まで傷が走った。痛みが左腕を駆け抜ける。
それでも、俺は下がらない。
「分かってる!」
俺の長剣が、まんじの脇腹をかする。黒い装甲に深紅の火花が散り、彼女が一瞬だけ体勢を崩した。
「罪は消えない! 犯したことは取り消せない! 奪ったものは戻らない!」
俺の声が、地下空間に響く。
「それでも!」
短剣を逆手に持ち替え、まんじの曲刀を下から跳ね上げる。彼女の右腕が上がり、胸元が空いた。俺は踏み込み、長剣を彼女の胸部装甲へ突き立てる。
まんじは両方の刃を交差させて受けた。
刃と刃が噛み合い、互いの体重が正面からぶつかる。
「それでも、なんだ!」
まんじが叫び返す。赤い複眼が、すぐ目の前で揺れていた。
「罪を背負って、どうする! 犯した側はいつも忘れる! 犯された側だけが苦しみ続ける! なら、そんな罪に何の意味がある!」
俺は歯を食いしばり、彼女の刃を押し返す。
「意味なんてなくても!」
俺の叫びに、背後の龍が応えた。マゼンタ色の光が全身を駆け巡り、腕の力が跳ね上がる。
「罪を背負うことに、意味なんて必要ない!」
まんじの刃が、少しだけ押し戻された。
「俺は、自分が奪ってきたものを忘れない! 自分が傷つけてきた相手を忘れない! 生きている限り、この罪を背負って生きる!」
「ふざけるな!」
まんじが頭突きを放つ。仮面と仮面が激突し、視界に火花が散った。
「罪を背負って生きるだと? そんな綺麗事で、奪われた側の痛みが癒えると思ってるのか!」
彼女の声が震えている。
「教祖様は、人間の罪から逃げなかった! なのに、人間は教祖様を利用して、傷つけて、最後には檻の中へ閉じ込めた! これが現実だ! これが人間の罪の末路だ!」
曲刀が俺の右腕を斬る。
長剣が左の腿を裂く。
それでも、俺は倒れない。
「それでも!」
俺は両方の剣を握り直し、まんじの刃を受け止め続ける。
「教祖は逃げなかったんだろ! なら、俺も逃げない! 罪からも、痛みからも、この現実からも!」
「なんでそこまで…」
まんじの声が、一瞬だけ弱まる。
「なんでてめぇは、そこまでして教祖様に会おうとする…」
「会って、伝えたいことがある」
俺はまっすぐ、赤い複眼を見つめる。
「俺は、お前が背負ってきたものを知ってる。夢の中で見た。奪われる痛みも、守れなかった悔しさも、全部」
まんじの刃が、わずかに揺らいだ。
「だから言える。お前の痛みは、俺が受け止める。お前の罪も、俺が一緒に背負う。生きている限り、俺はこの罪を背負って生きる」
「…なんで」
まんじの声が、かすれる。
「なんで、てめぇがそこまで…」
「お前が、一人で背負わなくていいようにだ」
俺の言葉に、まんじの装甲から黒い粒子が溢れ出した。
それはさっきまでの攻撃的な波動とは違う。ただ、静かに、止めどなく、彼女の身体から流れ落ちていく。
背後の龍が、静かに唸った。
鉄格子の奥で、白い人影が両手を胸の前で組んでいる。
まんじの赤い複眼が、ゆっくりと揺れた。
「…てめぇ、本気で言ってるのか」
「本気だ」
俺は剣を構え直す。