ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
両腕の刃が、闇を裂いて迫る。
俺は長剣で曲刀を受け流し、短剣で長剣を弾く。四本の刃が交差するたび、火花が散り、金属音が地下空間に響き渡った。
まんじの攻撃は衰えない。いや、むしろ激しさを増している。
「どうした、万津!」
曲刀が肩をかすめ、長剣が腿を裂く。装甲の隙間から血が滲んだ。
「さっきまでの大口はどうした! その程度の覚悟で、教祖様に会おうってのか!」
まんじの叫びに、施設全体が応える。壁や床から黒い波紋が集まり、彼女の刃をさらに重く、さらに鋭く変えていく。
俺は歯を食いしばり、両方の剣で受け止め続けた。
確かに、まんじは強い。
前より、ずっと。
でも、だからこそ分かることがある。
彼女が強くなればなるほど、背負っているものの重さが伝わってくる。守れなかった過去。奪われた痛み。二度と繰り返さないという誓い。
そのすべてが、彼女の刃を重くしている。
「まんじ」
俺は長剣で彼女の曲刀を受け止めながら、短剣を手放した。
「何の真似だ!」
短剣が宙で止まる。龍の尾が巻きつき、彼女の背後へ回り込む。
まんじが振り返ろうとした瞬間、俺は空いた左手をゼッツドライバーへ伸ばした。
「罪は消えない」
俺の指が、パニッシュカプセムの表面をなぞる。
「だから、抱えて生きる。お前の痛みも、お前の怒りも、全部受け止めた上で」
カプセムが、深紅の光を放つ。
「それでも、お前の鉄格子は叩き割る!」
俺はカプセムを押し込んだ。
『パニッシュ!』
ドライバーが高らかに宣言する。全身のエネルギーラインが一斉に輝き、マゼンタ色の光が装甲の表面を駆け巡った。
「この…!」
まんじが曲刀を振り下ろす。
俺は長剣を放り、両手をドライバーへ集中させる。光が収束し、全身のエネルギーが胸部から両腕へ、両腕から拳へと流れ込んでいく。
「お前の強さは、お前が背負ってきたものの重さだ」
俺は拳を握り、腰を落とす。
「その重さごと、俺はお前を止める!」
まんじもまた、両腕の刃を交差させた。
「止められるか!」
彼女の装甲から、黒い波紋が一斉に噴き上がる。施設全体の赤い照準が彼女の刃へ集まり、蝶の紋章が刃の表面に幾重にも浮かび上がった。
「警備省全部の力を、この一撃に込める!」
まんじの両腕の刃が、黒い光を放つ。
「これがあたしの罪の重さだ、万津!」
『パニッシュ・バニッシュ!』
『ダークネス・バニッシュ!』
二つの声が重なった。
ドライバーが叫び、施設が唸る。
俺は右拳を引いた。深紅の龍が拳へ巻きつき、その口を大きく開く。
まんじは両腕の刃を振りかぶった。黒い蝶の群れが刃の周囲を舞い、空間そのものを切り裂こうとしている。
「うおおおおおおおお!」
「はああああああああ!」
二人、同時に踏み込んだ。
俺は腰を落とす。
足を大きく広げ、四股を踏むようにして構えた。右手は開いて大きく広げ、左手は拳を握りしめて腰の辺りで固める。深紅の光が、全身のエネルギーラインを駆け巡り、足元の床にひびを走らせた。
向かいでは、まんじもまた必殺の構えを取っている。
両腕の刃を交差させ、全身の黒い粒子を一点に集めていく。施設の赤い照準が彼女の刃へ吸い込まれ、蝶の紋章が幾重にも浮かび上がった。
「てめぇの罪の重さ、見せてみろ!」
まんじが叫ぶ。
「見せるさ」
俺は静かに答えた。
体をゆっくりと沈み込ませる。太腿の筋肉が悲鳴を上げ、膝が軋む。それでも、俺はさらに深く腰を落とした。深紅の龍が俺の周囲を旋回し、その口から黒い炎を吐き出す。
両足を合わせる。
床を蹴った。
「うおおおお!」
左手と右膝を突き上げ、真上へ跳ぶ。地下空間の天井が迫り、赤い警報灯が俺の身体を断続的に照らした。
「はああああ!」
まんじもまた、床を蹴って跳び上がる。
彼女の両腕の刃が、黒い光の尾を引いて迫ってくる。
空中で、俺は身体を捻った。
一回転。
ムーンサルトの動きで体勢を整え、右脚を前に、左脚を後ろに引く。ライダーキックの姿勢。深紅の龍が俺の背中で大きく口を開き、黒い炎を噴き出した。
『パニッシュ・オーバーバニッシュ!』
ドライバーが叫ぶ。
黒い炎が俺の右脚へ巻きつき、装甲を覆っていく。深紅と黒が混ざり合い、龍の鱗のような紋様が脚全体に浮かび上がった。
『ダークネス・オーバーバニッシュ!』
まんじのドライバーも応える。
彼女の両腕の刃が一つに融合し、巨大な黒い剣と化した。蝶の群れが剣の周囲を舞い、空間そのものを切り裂くように唸りを上げる。
「これで、終わりだ!」
まんじの声が、仮面の奥で響く。
「ああ」
俺は右脚をまっすぐに伸ばし、彼女の巨大な刃へ向けて突き出した。
「終わらせるために、俺はここに来た!」
深紅の龍が咆哮する。
黒い炎が右脚から噴き出し、俺の身体を弾丸のように加速させた。
互いの必殺が、地下空間の中央で激突する。
俺の右脚と、まんじの黒い刃。
深紅の炎と、黒い蝶。
二つの力がぶつかり合い、衝撃波が四方へ走った。壁がひび割れ、天井から破片が降り注ぐ。赤い警報灯が一斉に砕け、地下空間が暗闇に包まれた。
それでも、俺達は押し合う。
「うおおおおお!」
「はあああああ!」
力と力が拮抗する。互いの罪が、互いの覚悟が、火花を散らしてぶつかり合う。
まんじの刃が、俺の右脚を斬り裂こうとする。
俺の右脚が、まんじの刃を打ち砕こうとする。
黒い蝶が俺の装甲を食い破り、深紅の龍がまんじの刃を焼き尽くす。
視界が、白く染まっていく。
その時、鉄格子の奥から光が溢れた。
白い人影が、両手を差し伸べている。
――まんじ。
声なき声が、確かに聞こえた。
まんじの刃が、一瞬だけ揺らぐ。
「教祖…様…」
その隙を、俺は見逃さない。
「だああああああ!」
背後の龍が、最後の咆哮を上げた。
黒い炎が右脚へ集中し、まんじの刃を一点で打ち破る。ひびが走り、黒い蝶が砕け散り、ゼッツダークネスの装甲が内側から崩れていく。
まんじの身体が、空中で弾け飛んだ。
俺は右脚を突き出したまま、彼女を見送る。
彼女は壁へ激突することなく、ゆっくりと床へ落ちていった。白い粒子が彼女の身体を包み、着地の衝撃を和らげている。
鉄格子の奥から、光の手が差し伸べられていた。
俺は床へ着地し、深く息を吐く。右脚からはまだ黒い炎が立ち昇り、装甲の表面には無数の傷が走っていた。
けれど、立っている。
まんじは、床に膝をついている。
彼女の装甲はあちこちが砕け、黒い粒子が静かに空気へ溶けていった。
「…なんでだ」
まんじが、うつむいたまま呟く。
「なんで、てめぇは…」
「言っただろ」
俺は拳を解き、彼女へ歩み寄る。
「お前の痛みも、お前の罪も、全部受け止めるって」
まんじの肩が、小さく震えた。
彼女の背後では、白い鉄格子が静かに光を放っている。閉じ込められていた人影が、初めてはっきりとその姿を見せ始めていた。
俺は、片膝をつくまんじの前に立った。
ゼッツダークネスの装甲はあちこちが砕け、黒い粒子が傷口から静かに溢れ出している。それでも彼女は顔を上げず、床に落ちた仮面の破片を見つめていた。
「…あたしは」
まんじの声が、かすれる。
「教祖様を、守りたかっただけなんだ」
俺は黙って聞いていた。
「教祖様は、人間の罪を全部受け止めて、それでも誰も罰そうとしなかった。誰かを罰するくらいなら、自分が檻の中に入るほうを選んだ」
彼女の拳が、床を叩く。
「なのに、あたしは…守ろうとするたびに、誰かを傷つけてきた。教祖様に近づく奴を、全員敵だと思って、力で追い返して…」
声が震えている。
「こんなの、教祖様が望んでる守り方じゃない。分かってた。ずっと前から、分かってたんだ」
鉄格子の奥から、白い光が差し込む。
それはさっきまでの強い輝きではなく、静かに、優しく、まんじの背中を照らしていた。
「教祖様」
まんじが顔を上げる。
白い人影が、鉄格子の向こうで微笑んでいるように見えた。
「教祖様は、それでもあたしを罰さなかった。檻の中から、いつも同じ言葉をくれるんだ」
彼女の声が、涙で濡れている。
「――『まんじは、それでいいんだよ』って」
俺は膝をつき、まんじと同じ目線になる。
「教祖は、お前のそのやり方を、間違いだとは言わなかったんだな」
「ああ。だから、余計に苦しかった」
まんじが、仮面の下で笑った気がした。
「正しい守り方なんて、教祖様は望んでなかった。ただ、あたしが教祖様を思う気持ちそのものを、肯定してくれてた。なのに、あたしは…」
「その気持ちに、縛られてたのか」
俺の言葉に、まんじは小さくうなずく。
「守らなきゃって思えば思うほど、やり方を間違えた。間違えるたびに、教祖様は『それでいい』って言ってくれる。その言葉に甘えて、もっと間違えた」
彼女の装甲が、さらに崩れていく。
「もう、どうすればいいのか分からなかった。教祖様を守りたい気持ちは本物なのに、その気持ちがいつも、誰かを傷つける結果になる」
俺は、右手を差し出した。
「まんじ」
彼女が顔を上げる。
「お前の教祖を守りたいって気持ちは、間違ってない」
「でも…」
「その気持ちが強すぎて、一人で背負い込みすぎただけだ」
俺は装甲を解除し、素顔で彼女を見つめる。
「教祖に会わせてほしい。会って、伝えたいことがある。お前が背負ってきたものも、お前が守ろうとしてきたものも、全部ひっくるめて」
まんじの赤い複眼が、俺を見つめ返す。
「その上で、別の道を探そう。お前が一人で背負わなくてもいい道を。教祖を守りながら、誰も傷つけずに済む道を」
「そんな都合のいい道が、あるわけ…」
「あるかどうかは、一緒に探さないと分からない」
俺は手を差し伸べ続ける。
「一人で探すから、見つからない。でも、お前の気持ちを肯定してくれる人がいるなら、その人と一緒に探せば、きっと見つかる」
鉄格子の奥で、白い人影がうなずいたように見えた。
「だから、手を取れ」
俺は言う。
「教祖を守りたいお前の気持ちは、俺が受け止める。お前が間違えそうになったら、俺が止める。一人で抱えきれなくなったら、俺が半分持つ」
まんじの手が、ゆっくりと上がる。
「…てめぇ、やっぱり変な奴だな」
「よく言われる」
彼女の手が、俺の手を掴んだ。
装甲越しでも分かるほど、その手は震えていた。それでも、彼女は俺の手を握り返す。
「教祖様」
まんじが鉄格子の奥へ向かって言う。
「あたし、この馬鹿と一緒に、別の道を探してみる」
白い光が、彼女の身体を包み込む。
それは祝福のように、あるいは見送りのように、静かにまんじの装甲を溶かしていった。