ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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悪夢 Part7

両腕の刃が、闇を裂いて迫る。

 

俺は長剣で曲刀を受け流し、短剣で長剣を弾く。四本の刃が交差するたび、火花が散り、金属音が地下空間に響き渡った。

 

まんじの攻撃は衰えない。いや、むしろ激しさを増している。

 

「どうした、万津!」

 

曲刀が肩をかすめ、長剣が腿を裂く。装甲の隙間から血が滲んだ。

 

「さっきまでの大口はどうした! その程度の覚悟で、教祖様に会おうってのか!」

 

まんじの叫びに、施設全体が応える。壁や床から黒い波紋が集まり、彼女の刃をさらに重く、さらに鋭く変えていく。

 

俺は歯を食いしばり、両方の剣で受け止め続けた。

 

確かに、まんじは強い。

 

前より、ずっと。

 

でも、だからこそ分かることがある。

 

彼女が強くなればなるほど、背負っているものの重さが伝わってくる。守れなかった過去。奪われた痛み。二度と繰り返さないという誓い。

 

そのすべてが、彼女の刃を重くしている。

 

「まんじ」

 

俺は長剣で彼女の曲刀を受け止めながら、短剣を手放した。

 

「何の真似だ!」

 

短剣が宙で止まる。龍の尾が巻きつき、彼女の背後へ回り込む。

 

まんじが振り返ろうとした瞬間、俺は空いた左手をゼッツドライバーへ伸ばした。

 

「罪は消えない」

 

俺の指が、パニッシュカプセムの表面をなぞる。

 

「だから、抱えて生きる。お前の痛みも、お前の怒りも、全部受け止めた上で」

 

カプセムが、深紅の光を放つ。

 

「それでも、お前の鉄格子は叩き割る!」

 

俺はカプセムを押し込んだ。

 

『パニッシュ!』

 

ドライバーが高らかに宣言する。全身のエネルギーラインが一斉に輝き、マゼンタ色の光が装甲の表面を駆け巡った。

 

「この…!」

 

まんじが曲刀を振り下ろす。

 

俺は長剣を放り、両手をドライバーへ集中させる。光が収束し、全身のエネルギーが胸部から両腕へ、両腕から拳へと流れ込んでいく。

 

「お前の強さは、お前が背負ってきたものの重さだ」

 

俺は拳を握り、腰を落とす。

 

「その重さごと、俺はお前を止める!」

 

まんじもまた、両腕の刃を交差させた。

 

「止められるか!」

 

彼女の装甲から、黒い波紋が一斉に噴き上がる。施設全体の赤い照準が彼女の刃へ集まり、蝶の紋章が刃の表面に幾重にも浮かび上がった。

 

「警備省全部の力を、この一撃に込める!」

 

まんじの両腕の刃が、黒い光を放つ。

 

「これがあたしの罪の重さだ、万津!」

 

『パニッシュ・バニッシュ!』

 

『ダークネス・バニッシュ!』

 

二つの声が重なった。

 

ドライバーが叫び、施設が唸る。

 

俺は右拳を引いた。深紅の龍が拳へ巻きつき、その口を大きく開く。

 

まんじは両腕の刃を振りかぶった。黒い蝶の群れが刃の周囲を舞い、空間そのものを切り裂こうとしている。

 

「うおおおおおおおお!」

 

「はああああああああ!」

 

二人、同時に踏み込んだ。

 

俺は腰を落とす。

 

足を大きく広げ、四股を踏むようにして構えた。右手は開いて大きく広げ、左手は拳を握りしめて腰の辺りで固める。深紅の光が、全身のエネルギーラインを駆け巡り、足元の床にひびを走らせた。

 

向かいでは、まんじもまた必殺の構えを取っている。

 

両腕の刃を交差させ、全身の黒い粒子を一点に集めていく。施設の赤い照準が彼女の刃へ吸い込まれ、蝶の紋章が幾重にも浮かび上がった。

 

「てめぇの罪の重さ、見せてみろ!」

 

まんじが叫ぶ。

 

「見せるさ」

 

俺は静かに答えた。

 

体をゆっくりと沈み込ませる。太腿の筋肉が悲鳴を上げ、膝が軋む。それでも、俺はさらに深く腰を落とした。深紅の龍が俺の周囲を旋回し、その口から黒い炎を吐き出す。

 

両足を合わせる。

 

床を蹴った。

 

「うおおおお!」

 

左手と右膝を突き上げ、真上へ跳ぶ。地下空間の天井が迫り、赤い警報灯が俺の身体を断続的に照らした。

 

「はああああ!」

 

まんじもまた、床を蹴って跳び上がる。

 

彼女の両腕の刃が、黒い光の尾を引いて迫ってくる。

 

空中で、俺は身体を捻った。

 

一回転。

 

ムーンサルトの動きで体勢を整え、右脚を前に、左脚を後ろに引く。ライダーキックの姿勢。深紅の龍が俺の背中で大きく口を開き、黒い炎を噴き出した。

 

『パニッシュ・オーバーバニッシュ!』

 

ドライバーが叫ぶ。

 

黒い炎が俺の右脚へ巻きつき、装甲を覆っていく。深紅と黒が混ざり合い、龍の鱗のような紋様が脚全体に浮かび上がった。

 

『ダークネス・オーバーバニッシュ!』

 

まんじのドライバーも応える。

 

彼女の両腕の刃が一つに融合し、巨大な黒い剣と化した。蝶の群れが剣の周囲を舞い、空間そのものを切り裂くように唸りを上げる。

 

「これで、終わりだ!」

 

まんじの声が、仮面の奥で響く。

 

「ああ」

 

俺は右脚をまっすぐに伸ばし、彼女の巨大な刃へ向けて突き出した。

 

「終わらせるために、俺はここに来た!」

 

深紅の龍が咆哮する。

 

黒い炎が右脚から噴き出し、俺の身体を弾丸のように加速させた。

 

互いの必殺が、地下空間の中央で激突する。

 

俺の右脚と、まんじの黒い刃。

 

深紅の炎と、黒い蝶。

 

二つの力がぶつかり合い、衝撃波が四方へ走った。壁がひび割れ、天井から破片が降り注ぐ。赤い警報灯が一斉に砕け、地下空間が暗闇に包まれた。

 

それでも、俺達は押し合う。

 

「うおおおおお!」

 

「はあああああ!」

 

力と力が拮抗する。互いの罪が、互いの覚悟が、火花を散らしてぶつかり合う。

 

まんじの刃が、俺の右脚を斬り裂こうとする。

 

俺の右脚が、まんじの刃を打ち砕こうとする。

 

黒い蝶が俺の装甲を食い破り、深紅の龍がまんじの刃を焼き尽くす。

 

視界が、白く染まっていく。

 

その時、鉄格子の奥から光が溢れた。

 

白い人影が、両手を差し伸べている。

 

――まんじ。

 

声なき声が、確かに聞こえた。

 

まんじの刃が、一瞬だけ揺らぐ。

 

「教祖…様…」

 

その隙を、俺は見逃さない。

 

「だああああああ!」

 

背後の龍が、最後の咆哮を上げた。

 

黒い炎が右脚へ集中し、まんじの刃を一点で打ち破る。ひびが走り、黒い蝶が砕け散り、ゼッツダークネスの装甲が内側から崩れていく。

 

まんじの身体が、空中で弾け飛んだ。

 

俺は右脚を突き出したまま、彼女を見送る。

 

彼女は壁へ激突することなく、ゆっくりと床へ落ちていった。白い粒子が彼女の身体を包み、着地の衝撃を和らげている。

 

鉄格子の奥から、光の手が差し伸べられていた。

 

俺は床へ着地し、深く息を吐く。右脚からはまだ黒い炎が立ち昇り、装甲の表面には無数の傷が走っていた。

 

けれど、立っている。

 

まんじは、床に膝をついている。

 

彼女の装甲はあちこちが砕け、黒い粒子が静かに空気へ溶けていった。

 

「…なんでだ」

 

まんじが、うつむいたまま呟く。

 

「なんで、てめぇは…」

 

「言っただろ」

 

俺は拳を解き、彼女へ歩み寄る。

 

「お前の痛みも、お前の罪も、全部受け止めるって」

 

まんじの肩が、小さく震えた。

 

彼女の背後では、白い鉄格子が静かに光を放っている。閉じ込められていた人影が、初めてはっきりとその姿を見せ始めていた。

 

俺は、片膝をつくまんじの前に立った。

 

ゼッツダークネスの装甲はあちこちが砕け、黒い粒子が傷口から静かに溢れ出している。それでも彼女は顔を上げず、床に落ちた仮面の破片を見つめていた。

 

「…あたしは」

 

まんじの声が、かすれる。

 

「教祖様を、守りたかっただけなんだ」

 

俺は黙って聞いていた。

 

「教祖様は、人間の罪を全部受け止めて、それでも誰も罰そうとしなかった。誰かを罰するくらいなら、自分が檻の中に入るほうを選んだ」

 

彼女の拳が、床を叩く。

 

「なのに、あたしは…守ろうとするたびに、誰かを傷つけてきた。教祖様に近づく奴を、全員敵だと思って、力で追い返して…」

 

声が震えている。

 

「こんなの、教祖様が望んでる守り方じゃない。分かってた。ずっと前から、分かってたんだ」

 

鉄格子の奥から、白い光が差し込む。

 

それはさっきまでの強い輝きではなく、静かに、優しく、まんじの背中を照らしていた。

 

「教祖様」

 

まんじが顔を上げる。

 

白い人影が、鉄格子の向こうで微笑んでいるように見えた。

 

「教祖様は、それでもあたしを罰さなかった。檻の中から、いつも同じ言葉をくれるんだ」

 

彼女の声が、涙で濡れている。

 

「――『まんじは、それでいいんだよ』って」

 

俺は膝をつき、まんじと同じ目線になる。

 

「教祖は、お前のそのやり方を、間違いだとは言わなかったんだな」

 

「ああ。だから、余計に苦しかった」

 

まんじが、仮面の下で笑った気がした。

 

「正しい守り方なんて、教祖様は望んでなかった。ただ、あたしが教祖様を思う気持ちそのものを、肯定してくれてた。なのに、あたしは…」

 

「その気持ちに、縛られてたのか」

 

俺の言葉に、まんじは小さくうなずく。

 

「守らなきゃって思えば思うほど、やり方を間違えた。間違えるたびに、教祖様は『それでいい』って言ってくれる。その言葉に甘えて、もっと間違えた」

 

彼女の装甲が、さらに崩れていく。

 

「もう、どうすればいいのか分からなかった。教祖様を守りたい気持ちは本物なのに、その気持ちがいつも、誰かを傷つける結果になる」

 

俺は、右手を差し出した。

 

「まんじ」

 

彼女が顔を上げる。

 

「お前の教祖を守りたいって気持ちは、間違ってない」

 

「でも…」

 

「その気持ちが強すぎて、一人で背負い込みすぎただけだ」

 

俺は装甲を解除し、素顔で彼女を見つめる。

 

「教祖に会わせてほしい。会って、伝えたいことがある。お前が背負ってきたものも、お前が守ろうとしてきたものも、全部ひっくるめて」

 

まんじの赤い複眼が、俺を見つめ返す。

 

「その上で、別の道を探そう。お前が一人で背負わなくてもいい道を。教祖を守りながら、誰も傷つけずに済む道を」

 

「そんな都合のいい道が、あるわけ…」

 

「あるかどうかは、一緒に探さないと分からない」

 

俺は手を差し伸べ続ける。

 

「一人で探すから、見つからない。でも、お前の気持ちを肯定してくれる人がいるなら、その人と一緒に探せば、きっと見つかる」

 

鉄格子の奥で、白い人影がうなずいたように見えた。

 

「だから、手を取れ」

 

俺は言う。

 

「教祖を守りたいお前の気持ちは、俺が受け止める。お前が間違えそうになったら、俺が止める。一人で抱えきれなくなったら、俺が半分持つ」

 

まんじの手が、ゆっくりと上がる。

 

「…てめぇ、やっぱり変な奴だな」

 

「よく言われる」

 

彼女の手が、俺の手を掴んだ。

 

装甲越しでも分かるほど、その手は震えていた。それでも、彼女は俺の手を握り返す。

 

「教祖様」

 

まんじが鉄格子の奥へ向かって言う。

 

「あたし、この馬鹿と一緒に、別の道を探してみる」

 

白い光が、彼女の身体を包み込む。

 

それは祝福のように、あるいは見送りのように、静かにまんじの装甲を溶かしていった。

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