ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「あいつら、本っ当に頭沸いてやがる!」
まんじの怒声が、基地のスピーカーを震わせた。モニターの向こうで、警備省最高幹部は足を机に投げ出し、握り潰した空き缶をゴミ箱へ叩き込む。缶は見事に外れて壁に当たったが、彼女は気にする様子もない。
「TC-PERGEを体内に埋め込んで、捕まりそうになったら自爆だぁ? 自分の命を何だと思ってやがる。だいたい、シミュレーションから脱出したいなら、一人でさっさと死ねばいいんだよ。なんで他人を巻き込む」
「まんじ、声が大きい」
俺がマイク越しに注意すると、彼女はさらに声を張り上げた。
「うるせぇ! 警備省の管轄で起きてることだぞ! あたしが怒るのは当然だろ!」
「いや、それは分かるけど」
「分かってねぇ! お前は分かってねぇよ万津! 昨日だけで三件だぞ、三件! 感染者の保護に向かった隊員が、そいつが突然発症してな、幻覚で味方を敵だと思い込んで襲いかかりやがった! こっちは非殺傷で取り押さえようとしてるのに、向こうは本気で殺しにかかってくる! おまけに死んだら死んだでナノマシンが撒き散らされて、二次被害が――」
「まんじ、ちょっと落ち着け」
「落ち着いてられるか!」
缶がもう一つ、壁に当たった。
その隣のウィンドウで、黒四館仄が小さく咳払いをする。文部省最高幹部は相変わらずマスクとヘッドホンで顔の大半を覆い、露出した片目だけが静かに光っていた。
「まんじさんのご苦労はよく分かります。ですが、今は別の話をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「あ? なんだよ黒四館、お前はいつもそうだな。人の話を遮りやがって」
「遮っておりません。まんじさんのお話は、最初の三〇秒で要点を理解しましたので」
「この野郎…」
黒四館はまんじの反応を無視して、俺へ向き直る。モニター越しでも分かるほど、彼女の片目は異様な輝きを帯びていた。
「万津さん。先日の戦闘記録を、すべて確認させていただきました」
「ああ、はい」
「ゼッツ・パニッシュの変身時に出現した龍型エネルギーの実体化、及びエクスドリームにおける願望現実化の原理――あれは、言葉による世界構築の一種です」
黒四館の声が、普段よりわずかに早くなる。
「言葉とは本来、現実を後追いする記号に過ぎません。ですが、あなたのエクスドリームは、言葉を現実の先行指標として機能させている。これはつまり、私が長年研究してきた『言の葉の魔術』の理論を、物理現象として実証できる可能性があるということです」
「はあ…」
「例えば、あなたが『守る』と発声した時、エクスドリームはその言葉を現実化するために最適化されたエネルギーを放出する。ならば、より複雑な構文――『感染者の体内からナノマシンのみを除去する』といった条件付きの言葉も、理論上は現実化できるはずです」
彼女の片目が、さらに輝きを増す。
「もちろん、現時点では仮説に過ぎません。ですが、検証の価値は十分にあります。万津さん、ぜひ一度、私の研究室で詳細なデータを取らせていただけませんか。具体的には、変身時の脳波パターン、発声とエネルギー放出のタイムラグ、願望内容と現実化精度の相関関係――」
「おい黒四館、抜け駆けすんな!」
まんじが画面の向こうで立ち上がる。
「万津は今、警備省の案件を手伝ってんだ! てめぇの研究に付き合わせてる暇はねぇぞ!」
「NAIXの事件は文部省の管轄にも関わります。情報統制と世論誘導は私の仕事ですので」
「んだと! 現場で血を流してんのは警備省だ!」
「現場の犠牲を最小限にするのが、情報統制の役目です」
二人が言い争う声が、基地のスピーカーから同時に流れ出す。
俺はそっとマイクをミュートにし、椅子の背にもたれかかった。
振り返ると、いつものメンバーが同じように固まっている。
赤松楓は、両手を口元に当てて目を丸くしていた。
「すごい…警備省の人も文部省の人も、こんなにキャラが濃いんだね…」
「私には理解できない」
春川魔姫が、いつも通りの無表情で呟く。ただし、その視線は明らかにモニターから逸らされていた。
「んあー…めんどい人たちじゃのう…」
夢野秘密子は、とんがり帽子を目深にかぶり直し、椅子の上で小さく丸まっている。
「お二人とも、これが平常運転なんですか!? だとしたら、転子が合気道で心を落ち着かせて差し上げます!」
茶柱転子が、なぜか柔軟体操を始めながら叫んだ。彼女の首元の鈴が、勢いよく鳴る。
俺はミュートを解除し、マイクに向かって言った。
「とりあえず、二人とも落ち着いて――」
「万津は黙ってろ!」
「万津さん、今は私の話をしています」
二人の声が完璧にハモり、俺は再びミュートを押した。
赤松が、苦笑いを浮かべながら俺の肩を叩く。
「万津くんって、いつもこんな人たちと戦ってるんだね」
「…まあ、慣れました」
「慣れるようなことなのか、それは」
春川の冷静なツッコミが、妙に心に沁みた。
一方、モニターの向こうでも、似たような状況が起きているらしかった。
「おい黒四館、万津の後ろにいるの、誰だ」
「まんじさん、今は私の研究の話を――」
「研究より、あの帽子を被った小さいの、何だ。魔法使いか? 魔法使いなのか?」
「…あれは、超高校級のマジシャン、夢野秘密子さんですね」
「マジシャン!? 手品師じゃねぇか! なんで手品師が基地にいるんだ!」
「まんじさん、声が大きいです」
「うるせぇ! それから、あの体操してるのは何だ!」
「超高校級の合気道家、茶柱転子さんです。男子を『男死』と呼ぶことで有名な」
「男死!?」
まんじが画面の向こうで二歩下がった。
「なんだそのメンバー、濃すぎるだろ…万津、お前、いつもこんな奴らと一緒にいんのか」
俺はミュートを解除し、短く答えた。
「まあ、慣れました」
「慣れるな!」
今度は、まんじと黒四館の声がハモる番だった。