ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「ちょっと待ってください」
俺はモニターの前に立ち、画面の中のテコを睨みつけた。
「キーボを改造するって、どういうことですか」
「言葉通りの意味だよ」
テコは研究所「龍宮」のラボから通信を繋いでいるらしい。背後には無数の工具や計器類が並び、青白いホログラムが空中に浮かんでいた。彼は平然とした顔で、手元の端末を操作しながら続ける。
「ゼッツエクストリームのボディを現実世界で再現するには、既存の機械装甲では限界がある。だが、彼のフレーム構造と成長型AIは、理想的なベースになり得る。だから改造するんだよ」
「だからって…」
俺は振り返る。
基地の中央で、キーボが拘束台に固定されていた。手足は金属製のベルトでがっちりと抑えられ、胸部の装甲パネルが外されて内部機構がむき出しになっている。
「ボクは、その…大丈夫です、万津さん」
キーボが、無理に明るい声を出した。
「テコさんの設計図は、事前に確認しました。理論上は、危険はありません」
「理論上は、な」
俺は拘束台に歩み寄る。
「そもそも、なんで拘束されてるんだ」
「それはですね…」
キーボの声が、少しだけ小さくなる。
「改造中に動くと危ないから、という説明でしたが、多分、入間さんが楽しんでるだけだと思います」
その瞬間、拘束台の向こうから高笑いが響いた。
「ひゃーっはっはっ! 天才のオレ様に任せりゃ、こんな改造は朝飯前だぜ!」
入間美兎が、両手に工具を抱えて現れる。腰まである金髪を振り乱し、ゴーグルを額に押し上げた彼女の顔は、興奮で紅潮していた。
「見ろよこの内部フレーム! 軽量なのに剛性が高くて、しかも自己修復機能まで搭載してやがる! こいつをベースにすりゃ、ゼッツエクストリームの装甲を完全再現できるぜ!」
「入間さん、工具が近いです。それ、多分ボクの顔面スレスレです」
「細かいことは気にすんな! 天才の仕事に口出しするんじゃねえ!」
彼女はキーボの警告を完全に無視し、むき出しの内部機構へドライバーを突っ込んだ。キィン、という金属音と共に、何かが外れる音がする。
「あ、今の、多分外しちゃいけない部品です」
「大丈夫だって! 予備は三つある!」
「予備がある前提で作業しないでください!」
俺は深いため息をつき、モニターのテコへ向き直る。
「テコさん、あんたが監督するって話じゃなかったんですか」
「僕は設計と指示を出す。実際の作業は入間が担当だよ」
「なんでよりによってあの人を…」
「彼女は超高校級の発明家だ。技術力は本物だよ。作業の正確性とスピードを両立できる人材は、彼女しかいない」
テコの声は冷静だが、口元がほんの少しだけ歪んでいる。あれは、面白がっている時の表情だ。
「それに、万津くん」
彼は眼鏡を押し上げながら、淡々と言った。
「NAIXとの戦いに備えて、より強いエクスドリームの変身だけでは足りない場面が、必ず出てくる」
「それは…」
「だったら、必要な改造だよ。多少のリスクは許容するべきだ」
「多少、で済めばいいんですが」
俺が呟いた瞬間、背後で大きな火花が散った。
「ぎゃああっ! なんでこの配線、逆に繋がってんだ! おいテコ、設計図が間違ってんじゃねえか!」
「設計図は完璧だよ。君が左右を間違えたんだ」
「うるせえ! 天才が間違えるわけねえだろ!」
入間が喚きながら、何かを力任せに引き抜く。キーボの全身がビクンと跳ね、緑色のランプが一斉に点滅した。
「ボクの、ボクの運動制御系が、一時的に、切断されまし、た」
キーボの声が途切れ途切れになる。彼の頭部の機械ユニットが、カチカチと不規則な音を立てていた。
「大丈夫だって! すぐ繋ぎ直すから!」
「入間さん、信用していいんですか!」
「あったりまえだろ! オレ様を誰だと思ってんだ!」
彼女は新しいケーブルを掴み、むき出しの端子へ勢いよく差し込んだ。
瞬間、基地全体が震えた。
すべての照明が一瞬消え、非常灯だけが赤く点滅する。パソコンの画面が乱れ、テコの映像がノイズに飲まれた。
「な、なんだ!?」
「あー…」
入間が、首を傾げる。
「もしかして、電源系統と動力系統をクロスさせちまったかも」
「かも、じゃないです!」
俺は拘束台へ駆け寄ろうとして、足を止めた。
キーボの全身から、白い煙が噴き出している。胸部の装甲がカタカタと震え、内部から異様な光が漏れていた。
「万津さん」
キーボが、静かに言った。
「多分、爆発します」
「え」
「爆発します。ボクの自己診断プログラムが、そう言ってます」
「ちょっと待て、入間! なんとかしろ!」
「無理だ! もう臨界点超えてる! 全員伏せろ!」
俺は反射的にその場に伏せた。
次の瞬間、轟音が基地を揺るがした。
煙が晴れた時、キーボは拘束台の上で真っ黒に煤けていた。頭部の機械ユニットからは、細い煙が細々と立ち昇っている。入間は壁に背中を預けて座り込み、ゴーグルがずり落ちていた。
モニターの中では、テコが平然と端末を操作している。
「ふむ。想定の範囲内だね」
「どこがだ!」
俺は思わず叫んだ。
「大丈夫。データは取れた。次は成功するよ」
「次があるんですか!」
「もちろん。僕は諦めないよ」
テコの口元が、確かに笑っていた。