ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
基地には静かな緊張が漂っていた。パソコンの画面には教祖の顔が映し出されている。意識が回復したばかりの彼は、まだ少し青白い顔色だったが、その瞳には確かな光が宿っていた。
「皆さん、ご無事で何よりです」
教祖の声は、スピーカー越しでも穏やかだった。
「こちらこそ、無事に目を覚まされて良かった」
最原が帽子を軽く上げて応じる。
「最終決戦の前に、どうしてもお話ししておきたかったんです。戦いが終わった後に、皆さんは何をしたいですか?」
教祖の問いに、俺は少し考え込んだ。戦いが終わった後のことなど、正直なところ考えたこともなかった。だが、その沈黙を破ったのは伊達だった。
「そうだなあ……」
伊達はわざとらしく顎に手を当て、天井を見上げる。
「俺はまず、六本木の高級クラブで一晩中飲み明かす。もちろん、周りは全員美人のママさんたちだ」
「伊達、あなたはもう少し真面目に答えなさい」
アイボゥが左目から冷たい声を発する。
「真面目だって。俺はいつだって真面目だろ」
「その真面目が曲がってるのよ」
「曲がってない。ちょっとカーブしてるだけだ」
「それを曲がってるって言うの」
俺は思わず口を挟んだ。
「伊達さん、一応これから最終決戦なんですけど」
「分かってるよ。だからこそ、だ」
伊達はニヤリと笑う。
「死ぬ前に言っておきたいことがあるんだよ。俺が死んだら、俺のハードディスクは絶対に開くなよ。特に『資料』ってフォルダは」
「資料って、どんな資料なんですか」
最原が恐る恐る尋ねる。
「聞くな。聞いたらお前も共犯だ」
「共犯って…僕は探偵ですよ」
「探偵なら、なおさら開けるな。証拠隠滅で逮捕されるぞ」
教祖が小さく笑った。
「伊達さんは、相変わらずですね」
「そういう教祖はどうなんだ」
伊達が画面に向き直る。
「教祖は復活して、これから何をするんだ? やっぱり終末を祝うパーティーか?」
「いえ、私は……」
教祖は少し考えてから、微笑んだ。
「私は、まんじと一緒に桜を見に行きたいんです」
「桜?」
「はい。終天教国にも、桜の木が一本だけあるんですよ。毎年、誰にも見られずに咲いて、散っていく。それを、一度だけでいいから、まんじと一緒に見たいんです」
その言葉に、基地が静かになった。
伊達は黙って教祖を見つめ、それから小さく笑った。
「そりゃあ、いいな。酒はいるか?」
「伊達さん、桜に酒は似合いませんよ」
「何言ってるんだ、花見と言えば酒だろ」
「教祖は未成年に見えるんですけど」
俺が冷静にツッコミを入れると、伊達は大げさに肩をすくめた。
「じゃあ、ジュースで我慢するか」
「そうしてください」
「お前は何なんだ、万津。戦いが終わったら、何をする」
俺は少し考えてから、口を開いた。
「俺は……日菜さんと、脱出ゲームに行く約束をしてます」
「おお」
伊達がニヤニヤしながら身を乗り出す。
「ついにデートか」
「違います。謎解きです」
「謎解きデートだ」
「デートじゃないです」
「最原、お前はどうなんだ」
突然話を振られ、最原が帽子を深くかぶり直す。
「僕は……赤松さんに、ちゃんと話そうと思ってます」
「お、告白か」
「ち、違います! 話です! 話!」
「何の話だ」
「それは……その……」
最原の耳が真っ赤になっている。アイボゥが冷静に分析を始めた。
「最原終一の心拍数が急上昇しています。おそらく、赤松楓への好意を自覚していることに対する動揺でしょう」
「アイボゥさん!」
「正確な分析をしたまでです」
「正確でも言わなくていいことがあるんです!」
教祖が、画面の向こうで静かに笑った。
「皆さん、それぞれの『戦いの後にしたいこと』があるんですね」
「そうみたいだな」
伊達が椅子にもたれかかる。
「ま、でも、こういう話ができるってことは、生きて帰る理由があるってことだ」
「伊達にしては、たまにはいいことを言うじゃない」
「たまには、って言うな。俺はいつもいいことを言ってる」
「そのいいことが、いつも下ネタで台無しになるのよ」
「それは『いいこと』に含まれないのか」
「含まれません」
俺と最原の声がハモった。
教祖が、微笑みながら俺たちを見つめる。
「では、約束しましょう。戦いが終わったら、それぞれの『したいこと』を必ず叶えましょう」
「そうだな」
伊達が立ち上がる。
「俺は高級クラブで飲み明かす。万津は日菜ちゃんとデート。最原は赤松ちゃんに告白。教祖はまんじと花見。アイボゥは……」
「私は伊達のハードディスクを解析します」
「おい」
「『資料』フォルダの中身、興味がありますので」
「やめろ。本当にやめろ」
「戦いが終わった後のお楽しみです」
伊達が頭を抱え、俺と最原が思わず笑った。
画面の向こうで、教祖も声を立てて笑っている。
最終決戦の前の、ほんの少しの穏やかな時間。
俺はこの光景を、絶対に守ろうと心に誓った。