ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
朝の通学路に、不釣り合いな轟音が響いた。
俺は足を止め、空を見上げる。希望ヶ峰学園の正門まであと数十メートルというところで、最原と赤松も同じように立ち止まっていた。
「何だ、今の音…」
最原が帽子のつばを押さえながら呟く。
空はまだ青い。雲ひとつない快晴のはずが、校舎の向こうから何かが迫っていた。黒い点が、みるみる大きくなる。鳥ではない。飛行機でもない。それは――
「何かが、落ちてくる…!」
赤松の声が震えた。
俺のスマホが、ポケットの中で震える。取り出すと同時に、画面が勝手に切り替わり、聞き慣れた声が飛び出した。
「万津、緊急事態よ」
アイボゥの声は、いつも通り冷静だった。でも、その冷静さがかえって事態の深刻さを物語っている。
「今、希望ヶ峰学園上空に飛来しているのはNAIXの攻撃ドローン。数は十二。目的は不明だが、キャンパス内への侵入を許せば大規模な被害が出る」
「NAIX…」
「すぐに避難して。学園の地下に、緊急用のシェルターがある。伊達さんはすでに中で避難誘導を始めているわ」
俺は空を見上げる。黒い点はもう、はっきりとドローンの形を取っていた。銀色の機体が太陽の光を反射し、不気味に輝いている。
「万津くん!」
最原が俺の腕を掴む。
「急ごう。赤松さんも、走れるかい」
「うん!」
三人は同時に走り出した。正門を駆け抜け、校舎へ向かう。上空では、ドローンが旋回を始めている。まだ攻撃はしてこない。でも、いつ撃ってきてもおかしくない。
「アイボゥ、NAIXって何だ?」
俺は走りながらスマホに叫ぶ。
「現実をシミュレーションと考える過激派の思想団体よ。以前、テコから説明があったはずだけど」
「聞いてたけど、まさか本当に攻めてくるとは…」
「彼らは本気よ。世界に混乱を起こせば、現実の外側に出られると思っている」
校舎の入り口に、伊達さんの姿が見えた。手を振りながら、俺達を誘導している。
「こっちだ、急げ!」
俺達は伊達さんの指示に従い、地下への階段を駆け下りた。最後に俺が入り口をくぐった瞬間、遠くで爆発音が響く。
俺は地下シェルターへの階段を駆け下りながら、もう一度スマホを耳に押し当てた。
「アイボゥ! 状況は!」
『現在、学園上空のドローンから散布されているのは、TC-PERGEのエアロゾル型よ』
アイボゥの声が、いつもよりわずかに早くなる。
『有機ナノマシン型の感染物質。吸引するだけで感染する。潛伏期間は不明。発症すれば幻覚、認識障害、異常行動――最悪の場合、神経系が完全に破壊される』
「そんなものを…学園に撒いてるのか!」
俺は思わず叫んだ。最原が青ざめた顔で振り返る。
「でも、さっきの爆発は…」
赤松が不安そうに天井を見上げる。確かに、ドローンの爆発音は派手だった。窓ガラスが割れるような音も聞こえた。けれど、校舎そのものは無事だ。大きな損傷はない。
『爆発は陽動よ』
アイボゥが冷静に分析する。
『注目を集めて、その隙にウイルスを散布する。古典的な手口だけど、効果的ね。今、学園の空気中には高濃度のナノマシンが漂っている。屋外にいるだけで感染するわ』
「じゃあ、俺達は…」
『すでに吸引している可能性が高いわ。シェルターの中は空気清浄システムが稼働しているから、これ以上の感染は防げる。でも、外にいた時間が長かった分、リスクはある』
俺は自分の掌を見下ろした。
今のところ、体に異常は感じない。頭もクリアだし、幻覚も見えていない。でも、それは潛伏期間だからだ。いつ発症するか分からない。
「最原、赤松、体調はどうだ」
「今のところは…大丈夫です」
最原が帽子を深くかぶり直しながら答える。声は震えていない。さすがは超高校級の探偵、肝は据わっているようだ。
「私も、大丈夫。ピアノを弾く手は震えてないよ」
赤松が両手を広げて見せる。確かに、彼女の指は微動だにしていなかった。
「でも、ウイルスが撒かれたってことは…まだ学園に誰か残ってるかもしれない」
彼女の声が強張る。
「私達のクラスメイトとか、他の生徒とか…」
『すでに伊達さんが避難誘導を始めているわ』
アイボゥが応答する。
『でも、全員の安否が確認できるまでは、ここを動かない方がいい』
俺はシェルターの壁にもたれかかり、天井を見上げた。
爆発は陽動。本当の目的はウイルス散布。
NAIXの連中は、俺達を殺したいわけじゃない。感染させて、混乱を引き起こしたいのだ。シミュレーションの外側へ出るために、世界そのものを壊そうとしている。
「万津くん」
最原が俺の隣に立つ。
「君は、これからどうするつもりだい」
「決まってる」
俺は拳を握る。
「NAIXの連中を止める。そのために、俺はここに来たんだ」
「でも、ウイルスが…」
「潛伏期間があるなら、発症する前に片をつける」
俺はスマホを握り直し、アイボゥに呼びかける。
「テコに連絡を。TC-PERGEの解析と、対抗手段の開発を急いでほしい。それから、まんじにも。警備省の部隊を学園の周辺に配置して、これ以上のドローン侵入を防いでくれ」
『了解。でも、万津――』
「分かってる」
俺はシェルターの出口を見据える。
「無理はしない。でも、やらなきゃいけないこともある」
最原が、小さくうなずいた。
「僕も手伝う。探偵として、NAIXの狙いを推理する」
「私も!」
赤松が拳を握る。
「みんなを守るために、私にできることがあるはずだよ」