ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
外の轟音が、基地の壁を伝って震えてくる。
ドガッ、ガシャン、ギャイン! と、まるで巨大な金属塊同士がかち合うような衝撃音が、昼夜を問わず響き渡っていた。終天教団の五人のロードたちが、NAIXのパワードスーツ部隊と激突しているのだ。俺達はその戦いを、安全圏であるモニター越しに見守ることしかできない。
「外、すごいことになってるっすね……」
天海が、顔を青くしながらモニターを覗き込んでいる。画面の中では、まんじのロードツーが蝶のマントを翻しながら敵を切り裂き、丑寅のロードファイブが赤い拳でパワードスーツを粉砕している。派手だ。頼もしい。だが、このままではジリ貧だ。NAIXの連中はTC-PERGEをばら撒きながら、自爆まで辞さない狂気じみた戦い方をしてきている。
「如何にも、派手にやっとるのう」
夢野が、とんがり帽子の下から小さく呟く。
「でも、外で戦ってる人たちが頑張ってくれてる間に、私達はどうするんですか?」
赤松が、不安そうに俺を見上げた。
「感染の拡大を止めるのが先決だ」
伊達が、いつもの軽口を叩かない真顔で端末を操作している。
「だが、どうにも嫌な予感がする。ただの空気感染じゃねえ気がするんだよな」
俺も同じ違和感を抱いていた。
アイボゥの解析データを改めて眺める。TC-PERGEに感染した被験者たちの脳波パターン。そこには、単なる神経損傷のデータとは思えない、奇妙な同期現象が記録されていた。
「アイボゥ、この波形の乱れはなんだ?」
俺がモニターの一点を指差す。
『現在解析中よ。……興味深いデータが出たわ』
アイボゥの声が、スピーカーから冷たく響く。
『TC-PERGEに感染した被験者の脳波、その周期が完全に一致しているの。まるで、同じ夢を見ているかのようにね』
同じ夢。
その言葉に、俺はハッとした。
ソムニウム。深層世界。Psync装置を使って潛行する、夢の世界。
もしや、このウイルスは単なる生物兵器なんかじゃない。脳の深層領域に干渉し、感染者のソムニウム同士を強制的にリンクさせ、現実世界へと侵食させているのだ。
「まさか、NAIXの連中が言ってた『シミュレーションの外側へ脱出する』ってのは……」
最原が、帽子のつばを強く握りしめた。
「現実を、夢の世界で上書きするつもりじゃないか!?」
図星だ。
ウイルスによって媒介されたナノマシンが、脳内で偽の現実を構築する。それが伝播し、人々の認識を歪め、やがては物理法則すらも狂わせて、現実世界そのものをソムニウム化してしまう。それこそが、NAIXが目論む「現実の外側」への脱出。狂った論理だが、ウイルスの拡散パターンと脳波のリンク現象が、それを裏付けていた。
「だったら、ウイルスを物理的に除去するだけじゃ足りないってことか」
伊達が舌打ちする。
「外で戦ってる連中に申し訳ないが、これじゃあ兵隊の数を減らしたって、根本解決にはならねえ」
俺は、自分の手を見下ろした。
ゼッツの力。深層世界へ潛行し、夢の理を歪める力。
現実側の防衛線は、まんじたちに任せればいい。
だが、この侵食を止めるには、ソムニウム世界の内部から干渉する必要がある。
「俺が行く」
俺は顔を上げ、皆を見回した。
「ソムニウム世界へ。感染源となってるリンクの中心を、叩き潰す」
「万津くん、そんなの自殺行為だよ!」
赤松が叫ぶ。
「ウイルスに感染した状態で深層潛行なんてしたら、二度と戻ってこれないかもしれない!」
「それでも、行かなきゃならないんだ」
俺はゼッツドライバーに手を添える。
「現実を守るために、夢の中で戦う。それが俺達のやり方だ」
「ソムニウム世界へ。感染源となってるリンクの中心を、叩き潰す」
「万津くん、そんなの自殺行為だよ!」
赤松が叫ぶ。その瞳が揺れている。ピアニストの指先が、胸の前で強く組み合わされていた。
「ウイルスに感染した状態で深層潛行なんてしたら、二度と戻ってこれないかもしれない!」
「それでも、行かなきゃならないんだ」
俺はゼッツドライバーに手を添える。冷たい金属の感触が、掌を通して覚悟を呼び覚ます。
「現実を守るために、夢の中で戦う。それが俺達のやり方だ」
伊達が、椅子に深く沈み込みながらニヤリと笑った。
「無茶するガキだぜ。ま、お前がそう言い出すのは分かってたけどな」
「伊達さん! 止めてくださいよ!」
「止めて聞くタマかよ。こいつは昔っからそうだ。理屈より先に身体が動くんだ」
伊達は軽く肩をすくめ、それから真剣な目で俺を見た。
「だが、一人で行くのは許可しねえぞ。相棒」
俺が何か言い返そうとした時、静かな声が割って入った。
「僕も行くよ」
最原が、一歩前に出る。
彼は帽子のつばをグイッと持ち上げ、俺を真っ直ぐに見据えた。その眼差しには、もう迷いも怯えもなかった。才囚学園でコロシアイに脅かされながらも、真実を追求し続けた探偵の目だ。
「最原くん…」
赤松が息を呑む。
「ウイルスに感染したままソムニウムへ潛る。それは危険だ。万津くん一人じゃ、深層の迷いに飲み込まれるかもしれない」
最原は言い聞かせるように、淡々と続ける。
「それに、NAIXが仕掛けた罠の種類や場所。それを推理し、暴くのは探偵の仕事だ」
彼は腰元に手を伸ばす。
そこには、見慣れないベルトが巻かれていた。
黒と紫のラインが走る、ノクスドライバー。
ノクスの変身ベルトだ。
「まさか、最原くんも…」
俺が呟くと、彼は小さく頷いた。
「以前、伊達さんとテコさんに手配してもらったんだ。最終決戦に備えて、ね」
最原はドライバーのバックルを掴み、カチャリと構える。
「超高校級の探偵が、超高校級の絶望の仕掛けた謎を解かないなんて、思えないよ」
俺は思わず苦笑した。
こいつも、無茶な奴だ。たった一つの真実を求めて、ためらうことなく地獄へだって飛び込む。その強さは、きっと俺の力よりも頼もしい。
「…分かった。一緒に行こう」
俺はゼッツドライバーを構える。
「但有言実行だぞ、最原。絶対に、生きて戻る」
「約束するよ」
最原が帽子を深く被り直し、俺の隣に並ぶ。
「僕たちが戻るまでは、外の戦いを頼んだ。赤松さん、伊達さん」
「任せなさい!」
赤松が、拳を握りしめて応える。
「私が先頭に立つ! みんなが帰ってくるまで、この場所は絶対に守るから!」
「おうよ。俺とアイボゥがついてる。お前らの背中は任せとけ」
伊達が片目を閉じて、親指を立てた。