ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
白一色の廊下を、一歩ずつ進む。
ゼッツドライバーが胸元で微かに震えている。まるで「ここは危険だ」と警告しているようだ。隣を歩く最原も、ノクスドライバーに手を添えたまま、鋭い視線を周囲に走らせていた。
「万津くん、何か聞こえませんか?」
最原が足を止め、帽子のつばを持ち上げる。
「声だ。遠くから……いや、脳に直接響いてくるような」
俺も同じ感覚だった。耳で聞いているわけじゃない。頭蓋骨の内側から、ねっとりとした声が粘りついてくるのだ。
『見つけましたね、綻びを』
声の主は、霧の向こうから現れた。
紫のタートルネックに身を包んだ女性。顎で切り揃えたボブヘアの奥に、底の見えない紫色の瞳が光っている。時雨兎紀子。NAIX日本支部主宰。俺たちが探していた「元凶」だ。
だが、俺の警戒心を最も刺激したのは、彼女の背後に浮かぶ二つの人影だった。
「あーっ! あんた、生きてたんだ!」
フワフワと宙に浮く小柄な少女――ヒメルが、金髪を揺らして俺を指差す。
「まーた余計なことしてくれちゃって! せっかく綻びが広がってきたのに、あんたが塞ごうとするから計画が狂うんだよ!」
彼女の頭上で多色の輪が不愉快そうに明滅している。
「ヒメル、落ち着きなさい」
隣に立つスーツ姿の男――ミコトルが、穏やかだが有無を言わせぬ声で制する。
「しかし彼がここにいるということは、やはり世界の理が彼を選んだということでしょう。……あるいは、我々が刈り取るべき対象として」
俺は胸元のゼッツドライバーを強く握りしめた。
こいつらだ。
以前、夢の中で俺のエクスドリームカプセムを奪ったのは。
俺が辛うじて掴み取った「願い」を、神の試練だの解脱だのと御託を並べて奪い去ろうとした「天使」気取りたちだ。
「テメェら……!」
怒りで声が震える。
「また俺の夢を邪魔しに来たのか! 前はカプセムを奪って逃げたけど、今回はそうはいかねぇぞ!」
ヒメルが鼻で笑う。
「なに言ってんの? あんたのそのちっぽけな夢なんてどうでもいいの! あたしたちが欲しいのは『世界そのもの』なんだから! あんたはただの通過点でしょ!」
「ヒメルの言う通りです」
ミコトルが眼鏡の位置を直すように、顎の髭を撫でる。
「あなたの持つ力は、この偽りの世界を維持するための歯車に過ぎません。ですが、それを破壊するためには有用です。……大人しく初期化に協力していただけませんか?」
「断る!」
俺は一歩前に出る。
「俺の夢も、この世界も、テメェらに壊させるわけにはいかねぇ!」
時雨が、静かに首を傾げた。その動作一つとっても、人形のような不気味さがある。
「あなたはまだ気づかないのですね。この世界が誰かが造った偽物であるということを」
彼女の声は、優しく、そして冷酷だった。
「綻びは既にここまで来ています。TC-PERGEは人々の認識を溶かし、現実の境界を曖昧にした。……もうすぐ、外側へ出られるのですよ」
「外側だと?」
最原が割って入る。
「そんなものがあるとでも? 君たちが見ているのはただの幻覚だ。ウイルスによって歪められた認識に過ぎない!」
「いいえ」
時雨は微笑んだ。
「あなた方が真実だと思っているものこそが、誰かが用意したシナリオなのです。……さあ、共に解脱へ向かいましょう。偽りの痛みも、罪も、絶望も、すべて意味のないデータとして捨て去るために」
彼女が手を差し伸べる。
その先には、何もない白い虚空が広がっていた。