ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
(そうか……火事場の馬鹿力ってこういうことか)
俺は呼吸を整えながら伊達さんの動きを追った。先ほどの説明がまだ腑に落ちていないが、確かに身体は軽い。普段より俊敏に反応できている実感がある。
「お前の身体は確実に適応し始めている」
伊達さんが一歩踏み込む。鋭いパンチが頬をかすめる。反射的に腕を上げたが間に合わず、顎先を打たれる。
「痛ってぇ!」
よろめいた拍子に後頭部を壁に叩きつけた。視界が一瞬歪む。
「ここで死ぬか生きるかだ、万津」
伊達さんの声が遠く響く。痛みが脳裏で炸裂し思考が真っ白になる——はずだった。
「……おかしい」
次の瞬間、思考が冴えてきた。鼓動が加速し血液が沸騰する。視界の隅で伊達さんの動きが遅く見える。
「見えてきた……!」
咄嗟に体をひねると、死角から飛んできたハイキックをかわした。偶然ではない。確かに見えていた。
「ほう……」
伊達さんが眉を上げる。
(なんだこの感覚……痛みが逆に頭を冴えさせる?)
伊達さんが構えを解く。義眼が青く点滅している。
「やはりな」
「なにがです?」
冷や汗が首筋を伝う。自分でもわかるほど鼓動が速い。
「万津……お前のその能力は超高校級の不運から来ている」
「不運?俺の?」
思わず声が裏返る。伊達さんは小さく頷いた。
「お前は今まで数多くの死線を潜り抜けてきた。交通事故に遭い、落石で圧死しかけ、高所から転落し……挙句の果てには蛇に噛まれて命の危機に晒されている」
「全部本当だけど……」
「普通なら一度で魂が折れるレベルだ」
伊達さんの義眼が冷たく光る。
「だがお前は生き延びた。そして……その度に身体が対応する術を得たんだ」
「どういうことですか?」
「簡単に言えば」
彼は右手を握り締めた。
「死の淵に立たされた人間は生存本能が極限まで研ぎ澄まされる。いわゆる火事場の馬鹿力だ」
「それが……俺にもあるってこと?」
「あるどころか」
伊達さんは壁際に並ぶ電子ボードを操作した。立体投影画面が空中に展開される。
「お前のデータによると」
そこに映し出されたのは俺の体組織や神経系の詳細図。
「危機的状況下での脳波活性パターンが異常値を示してる。普通の人間なら一度の臨死体験で精神が崩壊するレベルだ」
「それって……俺の脳が壊れてるってことですか?」
思わず呟くと、伊達さんは首を振った。
「壊れてるんじゃない。進化してるんだ」
「進化?」
「不運がお前の身体を鍛え続けた結果」
画面が切り替わる。青と赤のグラフが縦横無尽に絡み合う。
「お前の火事場の馬鹿力は他者の比じゃない。しかも意識的に使える可能性まである」
「そんなの……まるで漫画じゃないですか」
「現実はいつも想像を超えるものだ。けれど」
「だが一つ問題がある」
伊達さんの声が突然低くなった。義眼の光が赤に変わる。
「その火事場の馬鹿力は諸刃の剣だ」
「どういう意味です?」
「お前の身体がその力を発揮する時」
彼は拳を握りしめた。
「脳内の神経伝達物質が異常放出され、筋組織に過度な負荷がかかり過ぎる」
「それってつまり?」
「現実で使い過ぎると、死んでしまうってことです」