ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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夢現 Part1

「残念ですね。あなた方はまだ、シミュレーションの呪縛から逃れられていない」

 

時雨の、困ったような微笑みが消えます。その代わりに浮かんだのは、いかなる感情をも超越した、無垢なる狂気でした。

 

「ちっ、話通じないなんてつまんないの!」

ヒメルが、甲高い声で叫びます。彼女の頭上の輪が激しく明滅し、背中の羽根がグネグネと蠢きます。

「あたしが締めてあげる! あんたたちのその余計な意志、初期化してあげるわ!」

 

その言葉と共に、ヒメルの身体が激しい光に包まれます。フワフワとした少女の輪郭が溶解し、重厚な金属の塊へと変貌していく。歪な、ノクスドライバーに似た無骨なバックル――夢現ドライバー。それが、時雨の胸元へと猛スピードで吸い寄せられていきました。

 

「ヒメル、準備を」

ミコトルが静かに告げます。彼の手の中の赤いカプセムが、生きた心臓のように激しく脈打ち始めました。

「これは慈悲です。偽りの痛みから、あなた方を解放する」

 

ミコトルの指先から赤いカプセムが離れ、スライドするように時雨の掌へ収まります。それは、ただのアイテムじゃない。「天使」を自称した存在そのものが、破壊のために身を捧げた姿です。

 

時雨は、胸元の無骨なバックルを纏い、その中央へ赤いカプセムを装填しました。

 

『デイドリーム!』

 

重厚かつ不吉な電子音声が、白いソムニウム世界を震撼させます。カプセムが展開し、赤い光が時雨の全身を支配していく。

 

『ハハハハハハ……!』

 

笑い声です。

高笑いでも、冷笑でもない。ただ、プログラムされたエラー音のように機械的に繰り返される笑い声が、俺の脳髄を直接揺さぶりました。

 

時雨が、ドライバーのレバーを押し込みます。そして、ドライバー本体を時計回りに360度、乱暴に回転させました。

 

カチャリ、と回転音がした瞬間、世界が傾きました。

白い廊間が赤く染まる。巨大な赤い月が、天井の向こうからせり出してくるような強烈な錯覚。白昼夢(デイドリーム)。現実と夢の境界が崩れ落ち、目の前の光景がディストピアの絵画へと塗り替えられていく。

 

『デイドリーム! ライダー! 否、我が名は夢現!』

 

赤い霧が晴れたそこに、「それ」は立っていました。

 

濃い紫、黒、金。禍々しさと高級感が入り混じった装甲。左右非対称の造形は、まるで覚醒と睡眠が一つの肉体に無理やり縫い合わされたかのようです。

左肩には鋭い棘のような突起が伸び、右肩は不気味なほど滑らか。頭部のV字アンテナも左右で長さが異なり、左目はギラリと見開かれた覚醒の瞳、右目は薄っすらと開いた眠りの瞳。

 

時雨兎紀子の、具現化された狂気。

仮面ライダー夢現。

 

彼女は、静かに手を伸ばします。虚空から引き抜かれたのは、日本刀に近い細身の剣。その刀身が、赤い月の光を反射して妖しく輝きました。

 

「これが、私の夢……そして、現実」

 

夢現の口から洩れた声は、時雨のままですが、どこか重ね合わせられたような不気味な響きを帯びていました。

背筋に悪寒が走ります。今まで戦ってきた敵とは、根本的に何かが違う。こいつは、欲望や絶望で動いているんじゃない。世界そのものを書き換える論理で動いているんだ。

 

「万津くん……!」

最原の声が震えています。探偵としての推理力を持ってしても、この存在の脅威を計りかねているようでした。

 

「さあ、解脱の時間です」

夢現が刀を構え、ゆっくりと近づいてきます。

その一歩ごとに、ソムニウムの床が赤い染色に侵食されていく。

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