ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「諦めなさい」
夢現の声が、白い空間に冷たく響き渡る。
彼女は刀を下ろし、ゆっくりと俺たちに歩み寄ってくる。その一歩ごとに、床が赤く染まっていく。まるで彼女の足元から「悪夢」が染み出しているかのように。
「あなたたちの夢は、ここでは何の意味も持たない。現実を変える力も、影を縛る力も、私の前ではただの妄想に過ぎないわ」
俺は膝をついたまま、荒い息を吐く。全身の装甲が小刻みに震え、エクスドリームの結晶粒子が不安げに明滅していた。力が出ない。俺が信じてきた「夢を叶える力」が、彼女の一言で砂上の楼閣のように崩れ去っていく。
「万津くん…」
最原もまた、ブレイカムバスターを杖代わりにしてやっと立っている状態だ。ミッドナイトシャドウの影も消え、彼の顔色は隠しきれない焦燥に染まっていた。
「これが…現実ってわけか」俺は呟く。「夢を否定する現実。夢を見ることさえ許さない世界」
「ええ。それが真理よ」夢現が俺を見下ろす。左目は残酷なほど冷徹に、右目は慈悲深げに細められている。「人間は夢を見るから苦しむのです。偽りの希望を抱き、届かない願いを追いかけ、足掻き続ける。それこそが罪。私がそれを断ち切る」
彼女は刀の切っ先を俺の喉元へ突きつける。
「さあ、夢を捨てなさい。初期化を受け入れなさい。そうすれば、もう痛みも悲しみも感じずに済むわ」
敗北宣言しろと、そう言っているのだ。
自分の夢が偽物だと認めろと。
俺は視線を落とす。震える自分の手を見る。
確かに、今の俺には彼女を越える力がない。エクスドリームの能力は封じられ、最原の影も焼き尽くされた。絶望的な状況だ。
だが。
「…ふざけるな」
俺は顔を上げた。喉元に突きつけられた刀の冷たさが、逆に俺の熱を呼び覚ます。
「万津くん?」
「俺たちは確かに夢で戦ってる。あんたの言う通り、現実を書き換えるなんて傲慢なのかもしれない」
俺は拳を握りしめる。結晶粒子が弱々しく明滅する。だが、その光だけは消させない。
「だが、その傲慢こそが俺たちだ! 夢を見るからこそ、足掻くからこそ、俺たちは前に進めるんだ! 痛みも悲しみも全部ひっくるめて、それでも生きていくって決めたんだよ!」
俺はゆっくりと立ち上がる。刀が喉元を掠め、装甲に擦れる音がしたが、構わない。
「初期化? 解脱? 笑わせるな! そんなもんで消えるくらいなら、俺は泥まみれのまま夢を見続ける! お前の作った『現実』なんか認めるかよ!」
隣で最原が顔を上げた。
「…ええ、同感です」
彼はよろめきながらも、しっかりとブレイカムバスターを構え直す。「僕たちは探偵です。真実を求める者です。あなたの言う『真理』なんて、僕たちの真実じゃない! 諦めるつもりなんてありません!」
夢現の左目がスッと細められた。
「…愚かな。夢を見ることの苦しみを、まだ理解していないのね」
彼女は刀を引き抜き、構える。
「ならば、物理的に夢を終わらせてあげる。永遠の眠りへと」
殺気が空気を震わせる。
だが、俺たちは退かない。夢を無効化する現実だろうが何だろうが、俺たちの意志までは消せないはずだ。
「終わりです!」
夢現の刀が、白刃を煌めかせて振り下ろされる。
速い。
エクスドリームの加速をもってしても、あの白昼夢の理屈の中では、この一撃を「無かったこと」にはできない。俺の夢を否定する絶対的な現実が、今、俺の首を落とそうとしている。
避けられない。
最原が叫ぶ声が、スローモーションのように聞こえる。
俺はただ、迫り来る刃を見つめることしかできなかった。
ギインッ!!
金属が激突する轟音が、鼓膜を突き破った。
だが、痛みはない。
俺は恐る恐る目を開ける。
そこには、刀が突き立っていた。
俺の喉元数センチで、何かが刀を受けていた。
巨大で、無骨で、見覚えのある大剣。
「な…んだ…?」
俺の視線は、自身の胸元へと吸い寄せられた。
ゼッツエクスドリームドライバーが、激しく発光していた。七色の結晶粒子が弾け飛び、そこから何かが射出されたのだ。
ブレイカムドォーン。
「ブレイカム…ドォーン…?」
口にした瞬間、掌から熱い脈動が腕へと駆け上がってくる。