ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
また、活動報告で新たな募集を行っています。
興味がある方は、ぜひ、お願いします
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=343746&uid=45956
息が、切れる。
ゼッツエクスドリームの装甲内部で、肺が悲鳴を上げていた。
さっきのカウンターで肋骨のあたりに鈍い痛みが走る。舌の根には鉄の味がこびりついていた。
「くそっ…!」
俺は壁に背を預けたまま、ズルズルと身体を起こす。
目の前では、教祖と最原が夢現を抑え込もうと必死に攻防を繰り広げている。教祖のブレイカムドォーンが紫電を走らせ、最原のブレイカムバスターが影縫いを試みる。三人の連携は完璧だ。教祖の経験が俺たちの動きの死角をカバーし、最原の洞察が夢現の次の一手を読み、俺の突破力が楔を打ち込む。
互角だ。少なくとも、押し込まれはしない。
だが、勝てない。
「現実は、常に冷徹です」
夢現が、舞うように刀を振るう。
その一撃ごとに、俺たちの「夢」が剥がれ落ちていく。
俺の結晶粒子による現実改変も、最原の影による拘束も、教祖の悪夢による侵食も、彼女の「白昼夢」の理屈の前では、ただのノイズに過ぎないのだ。
「万津くん!」
教祖が、夢現の斬撃を大剣で受け止めながら叫ぶ。
「このまま押し合いになっても、ジリ貧です! 決定打がなければ、彼女の『現実』を書き換えることはできない!」
「分かってる! けど、どうすりゃいいんだよ!」
俺は思わず声を荒げる。
エクスドリームの力も、パニッシュの覚悟も、あいつには通じない。夢そのものを無効化する敵に、夢で戦う俺たちが勝つ術なんてあるのか?
「テコくんが言っていたでしょう」
教祖の声が、静かに響く。
激しい剣戟の最中でも、その声だけは不思議なほど落ち着いていた。
「すべての夢を継ぐ者。すべての罪を背負い、すべての想いを受け止め、それでも前に進むための形態を」
テコの言葉が、脳裏に蘇る。
仮面ライダーゼッツ エージェンドリーム。
まだ設計図の段階で、完成には時間がかかると言われていた最強の姿。
「だが、まだ完成してないんじゃ…!」
「完成させればいいのです!」
教祖が、夢現を突き放し、俺の方へ向き直る。
骸骨の仮面の奥で、複眼が揺るぎなく光っていた。
「あなたは一人で背負う必要はないと言ったはずです。私の罪も、皆の願いも。それらすべてを一つに束ねるのが、あなたの強さなのでしょう!」
その言葉が、胸に突き刺さる。
そうだ。俺は一人じゃない。
仲間がいる。俺の背中を預けられる奴らがいる。
未完成? 知ったことか。
必要なのは、綺麗に整ったシステムなんかじゃない。泥臭くても、不格好でも、皆で力を合わせて掴み取る覚悟だ。
「…ああ、そうだな」
俺は震える足に力を込め、壁から身体を離す。
ブレイカムゼッツァーを握りしめる手に、力が戻ってくる。
「万津くん!」
最原が、影を操りながら叫ぶ。
「僕たちが道を開きます! だから、君はその力を!」
「おうよ!」
俺はドライバーの前に手をかざす。
見えないカプセム。まだ形を持たない力。だが、そこには確かな熱があった。
俺の想い。教祖の想い。まんじの想い。仲間たちの想い。
それらが今、一つに重なり合おうとしている。
「俺は諦めない! どんな現実だろうが、どんな悪夢だろうが、皆と一緒なら越えてやる!」
俺は顔を上げ、夢現を睨みつける。
「こいつが、俺たちの最強の夢だぁっ!!」
エクスドリームドライバーが、俺の叫びに応えるように激しく発光した。
静かな夜。
夜空には月夜と共に星が輝いている。
だが、そんな星の輝きとは反対に、街の中は不気味な静けさで支配されている。
カツンッと軽く歩けば、その足音は反響されていく。
手元にある、それを弄りながら。
「…今夜も出て来たか」
呟きと共に見渡せば、街の影から現れたのは泥。
その泥から這い出たのは、不気味な影がそのまま実体化したような怪物。
顔の代わりのように青い仮面があり、手には剣を持つ。
「不可思議、こんなにいるとはな」
そうして、俺は瞬時に手元にある物を構えると共に。
「ペルソナ!!」
叫ぶと同時に、それは割れる。
俺の言葉に合わせるように、身体から現れたのは銀色の鼠。
それは、俺の内側にいるもう一人の自分、その名も。
「メリダルパクス」
そのまま、俺の横に並び立つようにメルダルパクスを叫ぶ。
俺の叫びに呼応するように、銀色の影が躍り出る。
ギュインッ!
大気を切り裂くような鋭い音と共に、俺の相棒がその姿を現したのだ。
銀色の毛並みに覆われた、巨大なネズミ。
もっとも、ただのネズミじゃあない。俺の内に眠る、もう一人の自分――それがペルソナだ。
「出たな……!」
目の前の不可思議どもが、ゾワゾワと身震いするのが分かった。
青い仮面の奥から、ヒヒッという不快な鳴き声が漏れる。
どうやら、コイツらも理解したらしい。
自分たちが何を相手にしているのかを。
「メリダルパクス!」
指示を出すと同時、銀色の鼠は地を蹴った。
いや、蹴ったという表現じゃ生ぬるい。
爆発したのだ。
四本の脚が、地面をドンドンドンと連打し、一瞬で残像を描くほどの加速を見せる。
俺の視界すら追いつかない。
銀色の旋風が、夜の街を駆け抜ける。
不可思議たちが剣を構えようとするが、その動作はスローモーションにしか見えないらしい。
メリダルパクスは、敵の懐へと容赦なく潛り込んでいく。
「裂けぇっ!」
ドガァァァンッ!
メリダルパクスの前脚が、不可思議の胴体を捉えた。
先ほどの加速が乗った一撃だ。
しかも、ただの一撃じゃない。
前脚を覆うのは、硬そうなイガイガとした栗の殻のような装甲。
あれがクリガラ装甲だ。
見た目はちょっと可愛げがないが、その威力は絶大。
「ギャアアアアッ!」
不可思議の身体が、ボロ雑巾のように吹っ飛ぶ。
泥の身体にひびが入り、バラバラと崩れ落ちていった。
お見事というほかない。
「ヒィッ……!」
残された不可思議が一歩、後ずさる。
だが、逃がしはしない。
メリダルパクスは四足歩行のまま、高速で方向転換すると、次の獲物へと狙いを定めた。
「次だっ!」
ガブリッ!
今度は、牙だ。
鋭く光る二本の巨大な牙が、不可思議の装甲に食らいつく。
そいつはまるで、バターにナイフを突き立てたかのように。
メキメキメキッという嫌な音が響く。
(うわぁ、痛そう……いや、音だけでも痛いって!)
装甲ごと噛み砕かれ、不可思議が悲鳴を上げる間もなく泥へと還っていく。
圧倒的だ。
武器を持っているはずの敵が、まるで赤子のように無力化されている。
「ははっ、ざまぁみろ!」
思わず声が出る。
俺のペルソナは、小さな体に似合わずパワー系なのだ。
まあいい、勝てば官軍だ。
「メリダルパクス、もう一息だ! 蹴散らせぇっ!」
ギュインッ!
銀色の鼠が再び走り出す。
ドンドン、ドンドンと響く足音は、不可思議どもにとっては死神の足音に違いない。
前脚のクリガラ装甲による連打が、次々と敵を粉砕していく。
牙による噛みつきが、装甲ごと魂を砕く。
(俺って、結構強いんじゃね?)
次々と消えていく敵を見て、少し油断が生まれたかもしれない。
だが、戦いはまだ終わっていなかったのだ。
「オォォォ……」
最後の一体となった不可思議が、唸り声を上げる。
他の個体より一回り大きいその影は、明らかに今までの雑魚とは違う。
手にした剣が、不気味な赤い光を帯びていた。
「大将登場か?」
俺はバチバチと火花を散らす剣を見て、思わずゴクリと喉を鳴らした。
赤光を纏う剣を持つ不可思議が、ドスドスと迫ってくる。
その威圧感は、さっきまでの雑魚どもとは段違いだ。
(こいつは、ペルソナだけで勝つのは骨かもしれねぇ……!)
俺は一瞬、そう判断した。
なら、やることは一つ。
より強い力を、俺自身の力として身に纏うことだ。
「戻れ、メリダルパクス!」
俺が右手を突き上げると、銀色の巨大ネズミは螺旋を描きながら宙へ舞い上がる。
そして、キラリと光が弾けた瞬間――
銀色の旋風は、一つの卵へと姿を変えた。
桃色の半透明な卵殻。
中央にはジグザグの割れ目、青い手形と数字の「1」。
俺の相棒は今、ライドエグズ1となって掌に収まったのだ。
(うおっ、なんかこう、握るたびにふにふにしてて気持ちいいなコレ……じゃなくて!)
ふにふにした感触に思わずよろめきそうになるが、今はそんな場合じゃない。
俺は胸部で待機していた白銀のベルト、マイスドライバーの中央スロットへとライドエグズを叩き込んだ。
カチャッ、ガシャン!!
「エッグリューション!」
どこからともなく響く、力強い電子音声。
続けて、ドライバー外周の暗灰色のレバーを掴む。
まずは左右のレバーを、ぐっと力を込めて閉じた。
ライドエグズがガッチリと固定されると、ドライバー周囲の青いクリアパネルがボゥッと発光し、待機音が変化する。
「来いッ!」
次は上下のレバーだ。
これを一気に、音を立てて閉じる。
バキンッ!!
レバーを閉じた瞬間、ドライバー中央の卵が割れた。
左右の殻がパカッと弾け飛び、その内側から青く輝くネズミの紋章が飛び出す。
まるで孵化だ。
俺の中に眠る力が、今、殻を破って産声を上げたのだ。
『マウス! ネイズミーチーザー! マイス!』
「うおおおおおおっ!」
体内を駆け巡る強烈な熱に、思わず叫ぶ。
青いネズミの紋章が俺の身体に重なり、バチバチと電弧を散らしながら装甲が展開されていく。
銀色と黒を基調とした細身のボディ。
濃淡の異なるメタリックブルーが筋肉の躍動のように浮かび上がる。
澄んだ青色の大きな複眼が視界をクリアに捉え、頭部にはネズミの耳を思わせる縦長の銀色リングがシュルルと伸びる。
頭頂部や肩には金色の細いラインが走り、肩や前腕にはリング状の装甲がガシャンと装着された。
背中には、銀色の細長い尻尾がしなやかに伸びる。
指先は小動物の爪のように鋭く尖り、暗闇で冷たく光った。
変身完了。
これが、仮面ライダーマイスだ。
ネズミの力を宿した、俺の戦う姿。
目の前の大型不可思議が、一歩後ずさりした。
さっきまでの威圧感はどこへやら、その青い仮面には明らかな動揺が浮かんでいる。
(わかるよその気持ち。俺だって、鏡見るたびに「なんだこいつ」って思うもん)
だが、今の俺は最強のネズミだ。
赤光る剣が振り下ろされようと、この身で切り抜けてみせる。
「さあ、第二ラウンドだぜ……!」
俺はマイスエッジのグリップを握りしめ、青い発光ブレードをポンと肩に乗せた。
尻尾がパタンパタンとリズム良く揺れるのを感じながら、俺は強敵へと飛びかかった。
「オォォォォッ!」
大型不可思議が、赤熱した大剣を振り上げた。
ドスンッ! と大地が揺れるような踏み込みと共に、灼熱の刃が俺の頭上から叩き落とされる。
(重いッ! だが、大振りすぎるんだよ!)
俺は一歩も動かず、ギリギリのタイミングで半身をずらした。
ヒュンッ!
鼻先を熱い風圧が掠める。
剣先がアスファルトをドロリと溶かすが、俺には一片の傷もない。
「でかい図体は、的がでかいってことだぜ!」
俺はそのまま、巨人の懐へと飛び込んだ。
仮面ライダーマイスのボディは、銀と黒の細身。
(体が羽みたいに軽い…! これならやれる!)
不可思議が剣を引き抜こうとするが、もう遅い。
俺のスピードは、奴の筋肉が収縮するよりも速い。
「そこだぁっ!」
マイスエッジの青いブレードが、暗闇に鮮やかな弧を描く。
ザンッ!
「グァッ…!」
不可思議の太い脚を、深々と斬り裂いた。
泥の身体から悲鳴が上がり、巨体がガクンと傾く。
倒れ込む敵。
だが、俺はまだ止まらない。
小柄な体格を活かし、奴の身体を足場にするように跳躍。
(鼠に登れない木はない、ってな!)
肩のリング装甲を蹴り板にして、一気に高度を上げる。
そして、不可思議の脳天――青い仮面の中心へと逆落としに降下した。
「受けてみな! この体重と遠心力のコンビネーション!」
ドガァァンッ!!
マイスエッジの切っ先を突き立て、そのまま全体重を乗せて叩き潰す。
ヒビ割れた仮面から、ドス黒い霧が噴き出した。
だが、まだ息があるらしい。
「オ…ォォ…」
痙攣するように腕が動き、俺を掴もうと泥の手が伸びてくる。
(しぶとい野郎だ…! なら、トドメの一撃だ!)
俺は素早くマイスエッジを引き抜くと、そのままバックステップで着地した。
胸部のマイスドライバーに手をかける。
上下のレバーを、ガチャリと開く。
『エッグシード!』
ドライバーから溢れ出す、青白いエネルギーの奔流。
周囲の空気がキリキリと振動し、俺の全身装甲にバチバチと電弧が走る。
力が満ちていく。
ネズミの、小さくとも激しい生命力が、今、臨界点を迎えようとしていた。
「これで…終わりだぁっ!」
レバーを、勢いよく閉じる!
『マウス! セパレード!』
爆発的なエネルギーが、マイスエッジのブレードに凝縮される。
青い光が、巨大なネズミの牙のような形状へと変化した。
俺は地面を蹴り、残像すら残さぬ速さで突貫する。
不可思議が、最後に襲い掛かろうと立ち上がった、その瞬間。
横一文字。
青い閃光が、夜闇を切り裂いた。
一瞬の静寂。
次いで、不可思議の巨体が中央からズレ落ちる。
ドロリとした泥となって、音もなく崩壊していった。
「ふぅ…」
俺はマイスエッジを下ろし、深く息を吐いた。
背中の尻尾が、緊張から解けたようにペタンと垂れ下がる。
(勝った…。小さくたって、デカい奴にだって勝てるんだ)
夜空を見上げれば、また月と星が静かに輝いている。
不気味な静けさは消え、いつもの街の夜が戻ってきていた。
俺はマイスドライバーのレバーに手をかけ、変身を解除しようと――その時だった。
――その瞬間、背筋に冷たいものが走った。
見られている。
しかも、一つや二つじゃない。無数の視線が、俺に突き刺さっている。
パチパチパチ。
静寂を破る、ゆったりとした拍手の音。
ハッとして振り返ると、そこには月明かりを背に立つ影があった。
赤い装甲。しなやかな猫のシルエット。
そして、俺とは違う腰にドライバーが装着していた。
頭部の耳飾りがピンと立った、紅蓮の仮面ライダー。
「――お見事だったな」
ニヤリと、仮面の奥で笑った気配がした。
その周囲には、ゆらゆらと輪郭をぼやけさせたライダーたちの影が立っている。
「新手かよ…!」
ぞっとした、まさにその時。
俺の背後の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
「――安心しな、一人で戦わせたりしないさ」
聞き覚えのある声。
そこには、俺と同じように胸元にあるライダー
俺と同じように銀のリングを輝かせる、仲間たちだ。
「お前ら…!」
思わず声が裏返る。
だが、敵も黙っちゃいない。
赤い猫のライダーが、ふふふと喉を鳴らした。
「面白い…。今夜はただの狩りのつもりだったが、余興として楽しめそうだな」
猫の周囲を、無数の影ライダーが取り囲む。
対して、俺たちも背中合わせに陣形を組んだ。
張り詰める空気。
一触即発の緊迫。
「――上等だ、猫野郎」
俺はマイスエッジを構え直し、ギラリと複眼を光らせた。
「鼠を舐めると、痛い目見るぜ?」