ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
時雨が叫び、夢現の刀が白昼夢の全てを込めて振り下ろされた。
さっきまでの静寂な動きとは違う。焦りと、自分の理屈が崩れかねない恐怖に駆られた、悪あがきのような一撃だ。だがその速度は依然として凶器の域を超えている。空間が悲鳴を上げ、赤い閃光が俺の視界を焼き尽くそうと迫る。
だが、俺は動じない。
この一撃は、もう「絶対」じゃない。
俺はブレイカムゼッツァーを前に構えることすらしなかった。
ただ、半歩だけ踏み込み、剣の腹を斜めに流す。
キィィィンッ!!
刃と刃が交差する刹那、耳障りな金属音が弾けた。
受け止めたんじゃない。流したのだ。
まるで奔流する川に小石を投じるように、俺は彼女の殺意のベクトルをほんの僅か逸らしただけ。エージェンドリームの装甲が、彼女の無効化の理屈ごと押し潰す質量を持ってそこに在る。刀の切っ先が俺の頬をかすめるが、傷一つ付かない。七色のエネルギーラインが、攻撃の余波を光の粒子として霧散させた。
「え…?」
夢現の動きが、一瞬だけ止まる。
彼女の計算にない反応。夢を無効化しようとしたはずが、まるで岩に雫が当たったかのように弾かれたのだ。
その一瞬が、決定的な隙だった。
「遅いよ、時雨」
俺の声が届いた時には、もう俺の体は彼女の右側へと回り込んでいた。
流した勢いをそのまま旋回へと変換し、遠心力の限界までブレイカムゼッツァーを振り抜く。
右足の地面を踏みしめ、腰をねじり、背中の翼から推進力を得て加速する。
皆の想いを乗せた一撃は、風を切る音すら置き去りにした。
「これが、俺たちの答えだァァッ!!」
鋭い横薙ぎ。
七色の光の軌跡が、白い空間に残像として焼きつく。
ズンッ!!
重い手応え。
俺の剣は、彼女の「現実」を無効化するはずだった左半身の装甲を紙切れのように切り裂き、右半身の防御をも完全に突破した。
「ガッ…!」
夢現の身体が吹き飛ぶ。
いや、ただ飛ぶだけじゃない。彼女の装甲に刻まれた蝶の紋章が砕け散り、黒い波紋が綻びとなって剥がれ落ちていく。
彼女は数メートル先の壁まで弾き飛ばされ、激突した衝撃で床に膝をついた。
俺は剣を下ろし、ゆっくりと彼女に歩み寄る。
ブレイカムゼッツァーの刀身に纏わりついていた七色の光が、静かに粒子となって消えていく。
「その光はただの力ではないな」
膝立ちのまま青ざめた表情を浮かべる夢現と、白虹の光を背負った俺の姿を交互に見比べながら、教祖がポツリと呟いた。
その声には珍しく、感嘆と畏敬が混ざっている。
「カムクライズル……創られた才能の果てに繋がる希望の系譜か。いや、これは」
彼の視線が、俺の胸元に輝くエージェンドリームドライバーへと注がれる。
「才能も絶望も希望も、すべてを並列に背負い込んだその器。この光は『超高校級の希望』の系譜に連なる、カムクライズルの一つの形…」
「カムクライズル…」
俺は手の中に輝くブレイカムゼッツァーの感触を確かめながら、その言葉の重みをゆっくりと咀嚼する。