ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「カムクライズル…?」
夢現が、膝をついたままその言葉を反芻した。紫色の瞳が揺れている。先ほどまでの絶対的な自信は影を潛え代わりに純粋な困惑が浮かんでいた。
「聞いたことのない単語です。あなたの白昼夢が生み出した新たな妄言ですか?」
「妄言じゃねぇよ」
俺は剣を下ろしたまま答える。
「これは俺が生きてきた現実だ」
「現実? あなたの現実が、私の白昼夢を打ち破ったというのですか?」
「そうだ」
俺は自分の掌を見下ろす。
七色のエネルギーラインが脈打ち、まるで血管のように全身へ力を送り続けている。その温かさは間違いなく本物だ。
「万津君の超高校級の才能は『不幸』です」
教祖が静かに口を開いた。彼は俺の隣に立ち、夢現へ向き直る。骸骨の仮面の奥で複眼が穏やかに光っている。
「不幸。一聞けば呪いのような才能ですが、その本質は極限状態における生存能力です」
教祖はゆっくりと語り始めた。その声は教祖として説法を語る時のものに似ていたがどこか個人的な感慨が滲んでいる。
「万津君はこれまで幾度となく絶望的な状況に直面してきました。教団の暗躍、才囚学園の事件、深層世界での戦い。そのどれもが普通の人間なら精神が壊れて当然の過酷な環境でした。しかし彼は生き延びた。ただ運が良かったのではありません」
「…生き延びた? それが何だというのですか」
夢現の声に苛立ちが混じる。
「生き延びることは hope そのものです」
教祖は断言する。
「彼の不幸は彼をあらゆる地獄へ放り込みました。だがその度に彼は経験を積み重ね、学習し、適応した。超高校級の格闘家の戦い方を肌で覚え、超高校級の探偵の思考法を身につけ、超高校級のプログラマーの論理を理解した。生き残るために、彼はあらゆる才能を『経験』として取り込んできたのです」
俺は黙って聞いていた。
教祖の言う通りだ。俺は才能があるから強いんじゃない。不幸だから強いのだ。不幸が俺を地獄へ引きずり込みその地獄で俺は必死に爪を立てて這い上がってきた。その過程で俺は多くのものを失ったけれど同時に多くのものを得てもいた。
「エージェンドリームはその経験を形にしたものです」
教祖が俺の胸元のドライバーへ視線を向ける。
「これまでのカムクライズルは才能の結晶でした。超高校級の希望が特定の才能を極限まで高め一つの力へと統合する。それが従来のカムクライズルの理屈です」
教祖は一息置き、夢現を真っ直ぐに見据える。
「だが万津君のエージェンドリームは根本的に異なります。彼は一つの才能を極めるのではなく、全ての才能を『経験』として内包している。そして彼の不幸が最も過酷な状況を瞬時に認識した時、彼に最も適した才能が自動的に付加されるのです」
「自動的に…?」
夢現の眉がぴくりと動く。
「例えば格闘戦が必要な場面では超高校級の格闘家の戦闘技術が、謎解きが必要な場面では超高校級の探偵の推理力が、潛入が必要な場面では超高校級の忍の隠密術が。状況に応じて最適な才能が瞬時に切り替わり、彼の能力を補強する。これがエージェンドリームの真の力です」
教祖は俺の方へ向き直り、静かに言った。
「つまり万津君。あなたはこれまでのカムクライズルとは全く異なる希望の姿です。才能に依存するのではなく経験によって才能を使いこなす。絶望を生き抜いた者だけが辿り着ける、第八のカムクライズルと言えるでしょう」
「第八の…カムクライズル…」
俺はその言葉の重みを噛み締める。
才能なんかなかった。俺にあったのは不幸とそれでも諦めない意志だけだ。だがその不幸が俺をここまで連れてきてくれた。
「お前の言う『現実』は一つの絶対的な真理で縛る世界だ」
俺は夢現へ向き直る。
「だが俺たちの現実は違う。絶望も希望も不幸も幸運も全部ひっくるめて生きていく。その中で得た経験が俺たちの力になる。それがエージェンドリームだ」
夢現の刀が、小刻みに震えていた。