ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
刃が届く。あと数センチ。
俺と教祖の剣が、時雨の核を挟み撃つその瞬間、世界が再び動き出した。
「…遅いわ」
時雨の左目がギラリと輝く。硬直から回復した彼女の左腕が、鞭のようにしなり、俺の胴を横から薙ぎ払った。
「ぐっ…!」
衝撃が脇腹を走り、俺の身体は紙切れのように弾き飛ばされた。空中で視界が回転し、腐食した床へ背中から叩きつけられる。紫の瘴気が肺を焼き、咳き込むと鉄の味が口の中に広がった。
教祖の大剣も、時雨の右半身から突き出した灰色の結晶の盾に弾かれていた。やり直しだ。一方的な攻防が再開される。触手が壁のように迫り、俺たちはまた防戦一方に追い込まれる。
「あと5秒! さっきと同じパターンです! 左半身が収縮した直後に綻びが来ます!」
最原の声が響く。だが、その声には僅かな焦りが混じっていた。さっきと同じパターン。彼の推理は正しいはずだ。俺は剣を握り直し、教祖も大剣を構え直す。
しかし。
「違う…!」
時雨の異形が笑った。左半身の筋肉が収縮する代わりに、右半身の灰色の結晶が内側から砕け散った。今までとは逆だ。変則的な動き。最原の予測から外れた軌道で、結晶の破片が弾丸のように飛来する。
「教祖!」
俺は叫んだが、間に合わない。教祖の足元の床が、腐食によってドロリと溶けていた。回避しようと踏み込んだ左足が滑り、バランスを崩す。
「ぐあっ…!」
結晶の破片が、教祖の右肩を深々と貫いた。鮮血が飛び散り、大剣を持つ腕が力なく下がる。最原の予測が外れた。その代償はあまりにも重かった。
「くそっ…最原!」
俺は怒鳴りかけたが、最原の姿を見て言葉を詰まらせた。彼は震えていた。予測を外した責任、仲間を傷つけた恐怖。だが、その瞳は死んでいない。外れた事実を噛み締め、新たな真実を探す探偵の目だった。
「…同じじゃない。さっきの誤差、右半身の萎縮が先に来た。パターンが変化したんだ」
最原が独り言のように呟く。焦燥の中で、彼は思考を再構築していた。
「行けますか、教祖!」
「ええ…問題ない」
教祖は血を流す右腕を無理やり動かし、大剣を盾のように構えた。痛みに顔を歪めながらも、その足取りは退かない。最原を信じ、時間を稼ぐベテランの意地だ。
「万津くん、指示を待って!」
俺は歯を食いしばり、教祖の背中を掩護する位置へと着地した。最原の修正された指示を待つ。一秒が永遠のように感じる緊張感。触手が教祖の大剣を叩き、負傷した肩から血が溢れ出す。あと数秒持たないかも知れない。
「見つけた!」
最原が叫んだ。
「右半身が先に動くなら、次はその反動で左半身が開く! 今度は右側から回り込んでください! 核が露出する左側へ、3秒後に!」
外した予測から逆算した新たな法則。俺は直感でそれを信じた。
崩れた壁の破片が足元に転がっていた。俺はそれを蹴り上げ、空中へと跳ぶ。
「3…2…!」
教祖が咆哮を上げ、片腕で触手の群れを強引に押し留める。時雨の異形が右半身を振り上げ、教祖を弾き飛ばそうとしたその瞬間。反動で左半身の赤い筋肉が裂け、核が露わになった。
「1!」
俺は空中で身体をひねり、落下の速度とエージェンドリームの推進力をブレイカムゼッツァーに乗せた。右半身の隙を突き、核の露出した左側へと斬り込む軌道。
だが、その時最原の声が届いた。
「万津くん! この予測も確率七割です!」
正直な宣告。三割の不確定要素。教祖の負傷は深く、次の防御は不可能に近い。この一撃が決まらなければ、次の綻びは来ないかもしれない。
それでも。
「上等だぁぁッ!!」
俺は剣を振り下ろした。