ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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想う Part1

核が砕けた瞬間、世界はガラス細工のようにひび割れた。

 

最初は足元からだった。白いタイルがパリパリと乾いた音を立てて剥がれ落ち、その下には何もない底知れぬ黒い虚無が覗いている。壁が内側へねじれ、天井が重たい塊となって落ちてくる。耳をつんざくような崩落音が絶え間なく響き、空気自体が粉塵と焦燥に満ちていく。

 

「崩壊してる…!」

 

最原が叫ぶ。俺も同じ絶望を感じていた。白昼夢が消えたわけじゃない。制御を失った夢が暴走し、自壊しているのだ。止める術はない。

 

その時、俺の目は時雨の身体に釘付けになった。意識を失い床に横たわる彼女の周囲だけ、空間の歪みが異様だった。崩壊する世界が、まるで彼女を中心にして巨大な渦を巻いているように見える。瓦礫や光の欠片が彼女に向かって吸い込まれては消えていた。

 

「彼女がアンカーです!」

 

教祖が血走った目で叫ぶ。その声は痛みに掠れていた。

 

「時雨兎紀子の存在がこのソムニウムの支柱になっている! 彼女を連れ出せば世界ごと消滅するが、ここに留まれば崩壊に巻き込まれる!」

 

「どっちにしろ死ぬってことかよ!」

 

俺は悪態をつきながら時雨へ駆け寄る。選択肢なんてない。生きて帰るために彼女を連れて行くしかないのだ。

 

「私が彼女を! 君たちは道を開け!」

 

教祖は血に濡れた右腕を押さえながら、左手で時雨の身体を抱き上げた。その動作だけで、彼の顔からさっと血の気が引いていくのが分かった。右肩の傷口から新たな鮮血が溢れ出し、白い床に点々と赤い跡を残す。だが彼は歯を食いしばり、喉の奥で呻きながら立ち上がった。

 

「走れ!」

 

俺たちは走り出した。

 

崩壊は速い。さっきまで廊下だった場所が今は瓦礫の山だ。天井から落ちてくる巨大なコンクリート塊が、風圧を伴って俺たちの頭上を掠める。熱を持った空気が頬を打つ。

 

「左! 壁が内側に折れてます! 右側の柱の陰へ!」

 

最原が叫ぶ。探偵の目はまだ死んでいない。無秩序に見える崩壊の中から、わずかな法則性を見つけ出し生存ルートを割り出している。彼の指示に従い、俺たちは瓦礫の雨を潛り抜ける。

 

俺はブレイカムゼッツァーを振り回し、落下してくる瓦礫を叩き落とした。粉砕された破片が顔にかかり、視界が一瞬白く染まる。肺が焼けるように痛い。それでも走るしかない。

 

「ぐっ…!」

 

教祖の足がもつれた。時雨の身体を抱えた左腕が、激しく震えている。右肩の傷が限界を超えているのだ。神経が焼き切れたかのように腕が言うことを聞かないのだろう。彼はバランスを崩しそうになりながらも倒れない。倒れれば終わりだと身体に刻み込まれた本能だけが、彼をギリギリのところで立たせていた。

 

「教祖! 交替だ!」

 

俺は叫び、時雨の身体を教祖から奪い取った。彼女は見た目よりも軽かったが、その身体にはこの世界の重みがのしかかっているかのように、背中にずしりと響いた。

 

「万津君…すみません…」

 

教祖が膝から崩れ落ちる。もう右腕は動かないようだった。俺は時雨を背負い直し、空いた左手で教祖の腕を掴んで引きずり起こした。

 

「しっかりしろ! 置いてくつもりかよ!」

 

「…ええ」

 

最原が俺の右側に付き、影のように瓦礫を避けていく。

 

「前! 三秒後に床が抜けます! 跳んで!」

 

俺は言われるがままに跳んだ。着地した瞬間、足元の床がバリバリと音を立てて崩れ落ち、深淵が口を開ける。あと一秒遅れていたら落ちていた。

 

だが崩壊は加速している。最原の予測よりも速く、空間が食い尽くされていく。出口が見つからない。八方塞がりだ。背後から迫る闇の気配が、首筋に冷たい汗を伝わせる。

 

その時だ。

 

暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。

 

虹色の光。

 

見間違えようはずがない。あれは苗木学園長のホープカプセムの輝きだ。

 

現実世界との境界が揺らいでいる。苗木学園長があちら側からソムニウムの裂け目を感知し、光で道を作っているのだ。七色の光が、崩れゆく白い空間を切り裂いて伸びてきていた。

 

「あそこだ! あの光の方へ!」

 

俺は叫び、残りの力を全て足に込めた。

 

背中の時雨が重い。引いている教祖も重い。だが止まれない。

 

崩壊する世界が背後から迫ってくる。瓦礫が足元を砕き、闇が視界を埋め尽くそうとする。

 

それでも光だけは消えない。

 

俺たちは光の中へ飛び込んだ。

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