ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
光の残像が、瞼の裏にまだ焼き付いている。
ヒメルの金髪が散っていく瞬間もミコトルの輪が砕けて風に溶ける瞬間も、俺の網膜から消えやしない。指を伸ばせば届いたかもしれない距離に確かに二人はいた。それなのに、今はもう何も残っていない。屋上のコンクリートに膝をついたまま俺はしばらく動けなかった。
「……ッ」
肺が震える。息を吐くたびに重くて苦い空気が喉を通る。現実の空気だ。夢の中よりもずっと濁っていて、ずっと痛い。この痛みだけが俺がまだ此処にいる証拠だった。
「万津くん、大丈夫かい」
最原の声が頭の上から降ってくる。帽子のつばを握りしめた彼の手はかすかに震えていた。それでも、彼は俺を見下ろさない。同じ目線まで腰を落とし探偵の目で俺の表情を読み取ろうとしている。その不器用な優しさに、胸の奥が軋んだ。
「ああ……大丈夫、だ。今は」
嘘じゃない。事実、身体は動く。痛みはあるが意識ははっきりしている。右腕が動かないだけで、教祖だって立っている。俺たちはまだ、立っている。
「それより最原、見てみろよ」
俺は顎で欄干の向こうを示した。
沈黙が、また深くなる。
さっきまであれほど荒れ狂っていた街の音がウソみたいに消えていた。建物の影は壁を這うのをやめ、うねっていた景色もいまは薄い膜の向こうで微かに揺れているだけだ。
ミコトルとヒメルの最後の力が世界の綻びを一時的に押し留めている。でも、それは時間稼ぎだ。テコならそれを何て言うだろう。『ものの数分の延命措置です』とでも、つまらなそうに言うに違いない。
「長くは、もたないな」
そう。見なくても分かる。屋上の端にある給水塔の影が、少しずつ輪郭を滲ませゆっくりと伸び始めていた。あの二人がくれた時間は、もう少ない。
「教祖、あんたは」
「心配には及びません」
教祖は俺の視線にそう答えながら、血に濡れた右腕の袖をちぎって縛り直していた。片手だけでもその顔からは微塵の弱音も出てこない。引き締まった横顔は、むしろ酷く落ち着いていて俺の方が焦ってしまうほどだった。
「まだやれます。あの者たちが、命に代えて残した時間をただ喰って眠るようでは、教祖の名が廃ります」
「あんた、思ったより熱血なんだな」
「今頃気づきましたか」
教祖が笑う。静かな、本当に小さな笑いだった。
——どうする、どうすればいい。
頭を回す。
夢現は倒した。天使たちは消えた。でも、現実はまだ崩れかけている。TC-PERGEに侵された人々の意識はミコトルたちがくれた猶予の間も、完全には眠っていない。街を見下ろす俺の視界の端で人々がいる場所だけ、空間の歪みが違って見えた。
それは、一本一本の糸が束になって上へ、少しだけ上へ持ち上がろうとしているように見えた。
「……あれ」
俺は立ち上がった。膝の痛みも忘れて欄干に張り付く。歪んだ空気の向こうに、微かな光が揺れている。
暴走した人々の意識。その一つひとつが発するノイズが、けして無秩序じゃない。
叫び声のようで、泣き声のようで——その奥に何かを守ろうとする力がある気がした。
「最原。アイツら、まだ生きてる。暴走してるのに意識の中に、何か引っかかってるぞ」
「……たしかに、規則性があるように見えるね。周期的に同じパターンが見える場所がある」
最原も隣に並び眼下の光を追う。彼の目は、また探偵の視点に切り替わっている。俺と二人でぎりぎりの現実を睨みつける。
どれだけ歪んでいても意識が残っているなら、まだ手はある。
ならば。
「……人の想いが、まだあの下にある」
俺はポツリと呟いた。
それが、突破口になるかは分からない。でも俺の胸の中に残っているのは、夢でも現実でも越えられなかった「想い」の熱だ。それを、今度こそ一つにしなきゃいけない気がする。
「落ち着いて話そう」
最原が言った。肩で息をしながらそれでも彼の声は不思議なくらい凪いでいた。探偵としての経験が、こんな修羅場でも彼の心を支えているのかもしれない。
俺は黙って拳を開いたり握ったりする。指の先がジンジンと痺れていた。エージェントカプセムは胸のポケットの中でまだ温かい。あいつらから受け取った意志がそこに残っているようで、捨てることも手放すこともできなかった。
「俺、思うんだけどよ」
夜風が吹く。俺の前髪を揺らして、街の匂いと、どこか焦げたような空気が混ざって鼻を刺した。
「俺がここまで戦ってこれたのって、武器が強かったからでも装甲が頑丈だったからでもないんだ」
最原が静かにこちらを見た。教祖も痛む右腕を抱えながら、ゆっくりと僕に体を向ける。
「パンチの威力でも、新しい力でもない。あの時背中を押してくれたのはいつだってアイツらの想いだった。……まんじの悔しさも、テコの理屈も苗木の希望も。敵だった奴の痛みすら、気づけば俺の中で踏ん張る理由になってたんだ」
「万津くんらしいよ」
最原が小さく笑った。唇の端がわずかに持ち上がる。帽子のつばをくいっと直して、彼も眼下に広がる歪んだ街へと視線を落とす。
「才囚学園のときも、そうだった。みんな死の恐怖に喰われても、最後まで自分の信念を捨てなかった。正義とか希望とか綺麗事だけじゃない。泥臭くて、間違えることもある。でもそれでも誰かを信じようとする意志だけは、絶対に消えなかったんだ」
「それが、あの下にある」
俺は欄干の向こうを示した。
沈黙を破るように、遠くの方でガラスの軋む音が響いた。ビルの影が生き物のように一度伸び上がり、止まる。もう猶予はない。
「人々の想いを、一つの方向へ束ねる。簡単なことではありません」
教祖が口を開いた。血で汚れた右の手のひらを見下ろして、それから静かに俺たちを交互に見据える。
「人間は、同じだけの痛みを抱えながら同じだけの勝手さを持つ。私という教祖がそうであったように、人を導こうとする者はえてして人の痛みをまとめて『ひとつの物語』にしてしまうものです」
「それはダメだってことか?」
「ええ。彼ら自身の苦しみを、誰かに代わりに引き受けさせてはいけない。希望も失望も後悔も祈りも、彼ら一人ひとりのものだ。それを否定せずそのまま受け止める器が必要です」
教祖の言葉は重くしかし熱があった。あの静かな部屋で教えを説くときとはまるで違う、生きた温度があった。彼は今「教団の教祖」ではなく「罪を背負う者」として語っている。
「奴ら全部受け止める器、か……」
俺は自分の両の手を見下ろす。今のこの腕でどこまで抱えられるだろう。街中にあふれる何百、何千という人の想い。天使にすら支えきれなくなったものを俺が背負いきれるのか。
「──いける」
でも、そう思う。思うだけじゃなくやって見せる。
「俺は、自分のためにしか戦えなかった時期もあった。でも違う。痛みから目を逸らすんじゃなく、ちゃんと見て受け止めた時、俺は強くなれた。……なら、もう一度それを見つけるだけだ」
最原が一歩、俺の隣に立った。
「万津くんがその『器』になるっていうなら」
「ああ」
「僕も、見つけるよ。君が器になるための確かな方法を」
教祖が風に当たりながら、俺たちに背を向けたまま言った。
「元より、あなたは人より臆病でそのくせ誰より損な性分です。ですが、そういう者の器ほど人の想いは集まりやすい。痛みを知っているからこそ、底が抜けない」
「……褒めてんのか、それ」
「大いに褒めています」
三人の視線が、自然と遠くの裂け目へ集まった。
空に走る細い亀裂は、互いの呼吸を待つようにゆっくりとその口を広げようとしている。だが俺たちの足はもう止まっていなかった。
「人々の想いを、集める」
方針は、この一言に尽きた。
──あとは、どう形にするか。それだけだ。
まだ何も見つかっていない。けれど一人じゃない。その事実だけが、今の俺のすべてを前に進ませてくれた。「落ち着いて話そう」
最原が言った。肩で息をしながらそれでも彼の声は不思議なくらい凪いでいた。探偵としての経験が、こんな修羅場でも彼の心を支えているのかもしれない。
俺は黙って拳を開いたり握ったりする。指の先がジンジンと痺れていた。エージェントカプセムは胸のポケットの中でまだ温かい。あいつらから受け取った意志がそこに残っているようで、捨てることも手放すこともできなかった。
「俺、思うんだけどよ」
夜風が吹く。俺の前髪を揺らして、街の匂いと、どこか焦げたような空気が混ざって鼻を刺した。
「俺がここまで戦ってこれたのって、武器が強かったからでも装甲が頑丈だったからでもないんだ」
最原が静かにこちらを見た。教祖も痛む右腕を抱えながら、ゆっくりと僕に体を向ける。
「パンチの威力でも、新しい力でもない。あの時背中を押してくれたのはいつだってアイツらの想いだった。……まんじの悔しさも、テコの理屈も苗木の希望も。敵だった奴の痛みすら、気づけば俺の中で踏ん張る理由になってたんだ」
「万津くんらしいよ」
最原が小さく笑った。唇の端がわずかに持ち上がる。帽子のつばをくいっと直して、彼も眼下に広がる歪んだ街へと視線を落とす。
「才囚学園のときも、そうだった。みんな死の恐怖に喰われても、最後まで自分の信念を捨てなかった。正義とか希望とか綺麗事だけじゃない。泥臭くて、間違えることもある。でもそれでも誰かを信じようとする意志だけは、絶対に消えなかったんだ」
「それが、あの下にある」
俺は欄干の向こうを示した。
沈黙を破るように、遠くの方でガラスの軋む音が響いた。ビルの影が生き物のように一度伸び上がり、止まる。もう猶予はない。
「人々の想いを、一つの方向へ束ねる。簡単なことではありません」
教祖が口を開いた。血で汚れた右の手のひらを見下ろして、それから静かに俺たちを交互に見据える。
「人間は、同じだけの痛みを抱えながら同じだけの勝手さを持つ。私という教祖がそうであったように、人を導こうとする者はえてして人の痛みをまとめて『ひとつの物語』にしてしまうものです」
「それはダメだってことか?」
「ええ。彼ら自身の苦しみを、誰かに代わりに引き受けさせてはいけない。希望も失望も後悔も祈りも、彼ら一人ひとりのものだ。それを否定せずそのまま受け止める器が必要です」
教祖の言葉は重くしかし熱があった。あの静かな部屋で教えを説くときとはまるで違う、生きた温度があった。彼は今「教団の教祖」ではなく「罪を背負う者」として語っている。
「奴ら全部受け止める器、か……」
俺は自分の両の手を見下ろす。今のこの腕でどこまで抱えられるだろう。街中にあふれる何百、何千という人の想い。天使にすら支えきれなくなったものを俺が背負いきれるのか。
「──いける」
でも、そう思う。思うだけじゃなくやって見せる。
「俺は、自分のためにしか戦えなかった時期もあった。でも違う。痛みから目を逸らすんじゃなく、ちゃんと見て受け止めた時、俺は強くなれた。……なら、もう一度それを見つけるだけだ」
最原が一歩、俺の隣に立った。
「万津くんがその『器』になるっていうなら」
「ああ」
「僕も、見つけるよ。君が器になるための確かな方法を」
教祖が風に当たりながら、俺たちに背を向けたまま言った。
「元より、あなたは人より臆病でそのくせ誰より損な性分です。ですが、そういう者の器ほど人の想いは集まりやすい。痛みを知っているからこそ、底が抜けない」
「……褒めてんのか、それ」
「大いに褒めています」
三人の視線が、自然と遠くの裂け目へ集まった。
空に走る細い亀裂は、互いの呼吸を待つようにゆっくりとその口を広げようとしている。だが俺たちの足はもう止まっていなかった。
「人々の想いを、集める」
方針は、この一言に尽きた。
──あとは、どう形にするか。それだけだ。
まだ何も見つかっていない。けれど一人じゃない。その事実だけが、今の俺のすべてを前に進ませてくれた。
屋上の床が震えた。
微細な振動だ。だが俺の膝はそれを確実に拾っていた。コンクリートの表面に走る細い亀裂が、まるで血管のように広がっていく。
「来るぞ」
教祖が低く言う。彼の顔色は悪い。血を失いすぎている。右肩の縛り目から赤い染みがじわりと広がっていたが、彼はそれを気にとめる素振りも見せない。ただ亀裂の進行を静かな目で追っている。
最原も帽のつばを強く握りしめ唇を噛んでいた。探偵としての冷静さは保っているが、その奥にある焦りは隠しきれていない。彼の視線が俺と教祖の間を行き来する。
(何かあるはずだ。俺の手の中に、もう答えがあるはずなんだ)
俺は自分の胸元を叩いた。ポケットの中に手を伸ばす。指先が冷たい金属に触れた。
フィジカムインパクトカプセル。
指が震えた。いや震えているのは指だけじゃない。手首から肘まで、細かい震えが走っている。これは恐怖だ。まだ完全には消えていない。
俺はカプセルを取り出した。
掌に乗せた瞬間その重さに驚いた。物理的な重量ではない。これまでこの小さな器の中に詰め込んできたものの総量が、ずしりと手のひらに圧しかかってくる。
カプセルの表面は傷だらけだった。
細かいひっかき傷、焼き焦げ、打撃の凹み。一つひとつが戦いの記憶だ。最初にこの力を手にした時のことを俺は覚えている。あの時はただ「強くなりたい」としか思っていなかった。誰かを守るためでもなく、自分が生き残るためでもなく、ただ目の前の敵を殴り倒すための力だった。
だが今は違う。
この傷の一つひとつに誰かの顔が浮かぶ。まんじの刃と打ち合った時のひび。テコの解析で微調整された回路。丑寅の拳に耐えた打痕。教祖の悪夢と共鳴した時に残った焼き焦げ。
俺が最初に手にした力。それが今、俺の手の中でこれまでの全ての記憶を刻んでいる。
「万津くんそれ…」
最原が息を呑んだ。
カプセルの中の赤い光が、脈打っていた。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
心臓の鼓動みたいに。いや俺の心臓と同じリズムで。赤い光が強くなったり弱くなったりを繰り返している。
それは周囲の空気に呼応していた。
屋上を吹き抜ける風の中に、何かが混じっている。目には見えないほど小さな粒。だがカプセルの赤い光が強くなる瞬間、空気の中に浮かぶ微細な光の粒子がふわりと輝く。
「見ろ」
教祖が声を潛めた。
俺も見ていた。いや見ないではいられなかった。
街の方からだ。
眼下に広がる歪んだ街の中から、一つまた一つと光の粒が浮かび上がっている。暴走した人々の意識の中から滲み出すように、微かな光が空気の中へ放たれ、そしてゆっくりと、本当にゆっくりと俺の手元へ引き寄せられていく。
「あれは…人の想いか?」
最原が欄干に身を乗り出す。彼の瞳が、探偵としての観察眼を全開にして光の粒の一つひとつを追っていた。
「否定的なノイズじゃない。もっと根源的な…何かを願うような光だ」
教祖が頷く。彼の瞳にも光の粒が映っている。
「人々はまだ諦めていない。意識が侵食されても心の底で何かを祈り続けている。それが外へ漏れ出しているのです」
俺はカプセルを握りしめた。
光の粒が掌の中へ吸い込まれていく。一つ触れるたびに温かい。痛いほど温かい。誰かの祈りが、誰かの願いが、この小さな器の中へ集まってくる。
「俺に…集まるのか」
声が震えた。
恐ろしかった。これほどの想いを受け止められるのか。俺という器で。この傷だらけのカプセルで。天使たちですら支えきれなかったものを、俺が支えきれるのか。
だがカプセルは答えるように脈打った。
ドクン。
強く。さっきよりも確かに強く。
赤い光が、周囲の光の粒を飲み込みながらその輝きを変えようとしていた。
赤い光が、変わった。
最初はほんの僅かだった。カプセルの中心、最も深い場所で脈打っていた赤が、ふっと薄くなる。まるで墨汁に一滴の清水が落ちたように、輪郭が滲み始めたのだ。
「あ…」
最原が息を呑む。
俺の手の中で、フィジカムインパクトカプセルが震えていた。いや震えているのはカプセルだけじゃない。俺の掌も、指も、腕の先端から肩まで、全てが細かく震えている。怖いのではない。温かいのだ。
集まった光の粒が、カプセルの中へ次々と溶け込んでいく。
一粒ごとに赤が淡くなる。朱から薄朱へ、薄朱から桜色へ。その過渡期の色はどの絵の具にも似ていなかった。夕焼けでも朝焼けでもない。誰かの涙の色でも怒りの色でもない。それら全てが混ざり合い溶け合い、やがて一つの色へと収束していく。
白。
純粋な、白。
「綺麗だ…」
最原の声が震えていた。彼は帽子のつばを握りしめたまま、カプセルを見つめている。その目尻に光るものがあった。探偵は泣かない。そう思っていた。だが今の最原の頬を伝うものは、紛れもなく涙だった。こらえようとして唇を噛み、帽子で顔を隠そうとするが、零れた一筋が月光に照らされて白く光る。
俺は声をかけなかった。この涙は止めるべきものじゃない。
教祖は何も言わなかった。
ただ静かに、その光を見つめている。血に濡れた右腕を抱えたまま、立ち尽くしている。骸骨の仮面の奥の複眼が白い光を映し、その瞳の中で何かが揺れていた。感嘆。それ以外の何ものでもない。彼は今、人の想いが一つになる瞬間を、その目で見届けようとしている。
カプセルから光が零れ出た。
白い光が、俺たち三人の影を照らす。影は濃くも薄くもなく、ただそこに在る。光は強くも弱くもなく、ただ温かい。悲しみも怒りも恐怖も、全部包み込むような柔らかい光だ。
俺はその光の中で、確かに感じた。
この白さは、俺一人の色じゃない。
まんじの赤が、テコの青が、丑寅の黄が、黒四館の水が、犬神の紫が、苗木の虹が、そしてミコトルとヒメルの最期の光が、全て混ざり合ってこの白になった。それだけじゃない。あの下で暴走している人々一人ひとりの祈りが、願いが、痛みが、この色を作っている。
俺は手の中の白い光を見つめた。
「行くぞ」
短く言った。それ以上の言葉はいらない。
最原が涙を拭い帽子を深く被り直した。その瞳はもう揺らいでいない。
教祖が血に濡れた右腕を離し、背筋を伸ばした。傷は癒えていない。だが彼は立っている。
フィジカムインパクトは白い光を放ち続けていた。それは希望でも絶望でもない。ただ在るべきものが在る、という確かな光だった。
現実の暴走はまだ続いている。空は紫のままだ。街の影は蠢いている。だが俺の手の中に、確かに一筋の光がある。
それでいい。それで十分だ。
俺たちはそこから動かなかった。次へ踏み出すために、ただ静かに、その光を見つめていた。