ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
掌の中で、白い光が静かに脈打っていた。
さっきまで赤く燃えていたフィジカムインパクトカプセムは、今や別のものに成り代わっていた。赤という色は、これまで俺が叩きつけてきた怒りや痛みの色だった。だが今、この白さはもっと根源的な何かだ。ミコトルとヒメルの最期。眼下で暴走する人々の祈り。そして隣で息を呑む最原の、背中を預けた教祖の、全ての想いが溶け合った色だ。
重い。
物理的な重量じゃない。カプセムの表面は温かく滑らかだが、そこに込められた人々の絶望と希望の総量が、俺の腕全体を鉛のように引き下げる。正直言えば、怖い。これほどの想いを受け止めきれるのか。俺という器で。この傷だらけの体で。天使たちでさえ砕け散った重圧を、俺が支えきれるのか。
掌が微かに震えた。
「万津くん」
教祖の声だった。振り返ると、彼は血に濡れた右腕を押さえながら、静かに俺を見つめていた。その瞳の奥には、迷いも同情もない。ただ、お前なら背負えると信じじっと見据える教祖としての確信だけがあった。
「人は、誰かの痛みを一人で抱えようとするから壊れるのです。だが、その痛みを分け合う意志があるなら……それはもはや悪夢ではなく、絆になります」
「教祖……」
「行けよ、万津くん」
今度は最原だ。帽子のつばを深く被り直し、涙の跡が残る頬を拭おともせず、彼は不器用に笑った。
「君がその光を預かるなら、僕は君の背中を守る。探偵として、君が進む先に真実があることを証明するよ」
二人の言葉が、胸の底に沈んでいた恐怖を溶かしていく。
そうだ。俺は一人じゃない。不幸が俺を地獄へ引きずり込んだとしても、そこで出会った仲間たちがいる。敵だった者たちの痛みも、狂っていた者たちの祈りも、全部ひっくるめて俺が受け止める。それが、俺の超高校級の不幸が行き着いた、唯一の生き方だ。
震えていた掌が、ぴたりと止まった。
俺はカプセムを握りしめる。もう迷いはない。この白い光が、人々の想いが集まった「ハートオブインパクトカプセム」を。
胸元のゼッツエージェンドリームドライバーバックルが、俺の覚悟に呼応するように展開する。カプセムを装填口へと叩き込む。
「I'm on it…変身!」
白く輝くカプセムを、ゼッツエージェンドリームドライバーバックルの中央へ叩き込む。
『フルインパクト!』
重厚な認証音が夜空を切り裂いた。トリガムを押し込む。カプセムがバックルの中で回転し白い光が全身を貫く。その一瞬の光の中で俺は左手を動かした。親指が下唇をなぞる。乾いた唇の感触が指先に残る。そのまま左腕をスライドさせこめかみの辺りで指を鳴らす。
パチン。
フィンガースナップの乾いた音が響いた瞬間、世界が色を失った。
左手の親指でドライバーをなぞるようにカプセムを回転させる。
『メツァメロ! メツァメロ!』
待機音が高らかに歌い上げる。白いカプセルが激しく回転し七色の光が溢れ出す。これまでのどの変身とも違う。身体が軽い。だがその軽さは浮遊感ではなく重力そのものを手にしたような確かな重みだ。
『メツァメロ! メツァメロォ!!』
待機音が最高潮に達する。
赤黒いもやが全身を包み込む。
視界が闇に染まる。だが暗くはない。もやは温かい。誰かの体温のように肌に密着し絡みつき形を作っていく。まずは素体。真っ黒な強化被膜が皮膚の上に張り付き筋肉の隆起をなぞるように全身へ広がっていく。
続いてゼッツゲイムラインが浮かび上がる。緑の模様が黒い素体の上を走り龍の鱗のように脈動する。肩、腕、胸、脚。全身の装甲が一枚ずつ展開し固定されていく。最後に複眼が色づく。赤い光がゆっくりと充填され暗闇の中で二つの瞳が鮮やかに輝いた。
『グッドモーニング! ライダー! ゼ・ゼ・ゼッツ! インパクト!』
変身音が響き渡った時、屋上の空気が一変した。
「万津くん…!」
最原が息を呑む。
俺は自分の手を見下ろした。
見た目はこれまでのゼッツと変わらない。黒い素体に緑のライン。赤い複眼。だが一つだけ決定的に違うことがある。
色が、変わる。
赤から青へ。青から緑へ。緑から黄へ。黄から紫へ。紫から赤へ。装甲の表面を絶えず色彩が流れている。まるで虹が肌の上を泳いでいるかのようにカプセムに込められた人々の想いが光となって全身を流れ続けていた。
「綺麗だ…」
最原が呟く。その声には怯えはなかった。ただ純粋な感嘆だけが込められている。
教祖もまた静かに頷いていた。血に濡れた右腕を抱えたまま、だがその瞳だけは真っ直ぐに俺を見つめている。
「行くぞ」
俺は顔を上げた。