ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
変身を終えた俺は、ゆっくりと歩き出した。
一歩ずつ。急がない。急ぐ必要がない。
屋上の縁へ立ち、眼下に広がる紫の空と歪んだ街を見下ろす。暴走した人々の意識がリンクし、一つの巨大な塊となって現実を侵食している。あの下で何百、何千人もの魂が絡み合い、それぞれの夢も痛みも希望も溶け合って、もう誰が誰だか分からなくなっている。
それを、一つずつ解きほぐす。
俺の足元から虹色の光が波紋のように広がる。カプセムに込められた人々の想いが、俺の歩みに応じて街全体へ共鳴し始めた。
「一人一人の夢を、取り戻す」
俺は呟き、膝を深く曲げた。
全身のエネルギーラインが一斉に発光する。虹色の光が脚部へ集中し、圧縮され、限界を超えて叩き込まれる。足元のコンクリートが放射状にひび割れ、衝撃波が周囲の空気を白く染めた。
跳んだ。
ドンッ!!
屋上を蹴った瞬間、音が遅れて届くほどの加速。重力を置き去りにした俺の身体は、夜空を切り裂いて真上へと舞い上がる。紫の空が迫り、歪んだ月が視界の端を掠める。
頂点。
俺は空中で身体をひねった。胸元のドライバーへ手を伸ばす。スイッチを押す。
一回。
二回。
三回。
四回。
『インパクト!』
ドライバーが轟く。カプセムが激しく明滅し、白い光が全身を包み込む。
回す。
親指でカプセムを回転させた瞬間、世界が白く染まった。
『オーバーグレートバニッシュ!』
俺の身体が光の軌跡となった。
超高速で空を駆ける。一度だけじゃない。二度、三度、何度も軌道を変えながら街の上空を縫うように飛び回る。その軌跡が光の帯となり、暴走した意識の塊を切り分けていく。
そして最後の一回。
俺は自らを青い白い閃光へと変えた。
全身のエネルギーを右足へ集束させる。虹色の光が青白い輝きへと凝縮され、龍の形を成して右脚へ巻きつく。人々の想いが、仲間の意志が、ミコトルとヒメルの最期が、全てこの一撃に宿る。
「これが…俺たちの夢だァァッ!!」
渾身の飛び蹴り。
閃光が街の中央へ突き刺さる。
ドォォォォン!!
衝撃波が同心円状に広がり、紫の空を割って白い光が街全体を飲み込んでいく。暴走した人々の意識の塊が、光の波に触れた瞬間、バラバラに解け始めた。
『ゼ! ゼ! ゼ! ゼ! ゼッツ!』
ドライバーの勝利の咆哮が響き渡る。
その声に呼応するように空中に文字が浮かび上がった。
7。
7。
7。
三つの数字が空中で回転し、光を放つ。幸運の数字。希望の数字。
そして次の瞬間、7が反転し、変化する。
Z。
Z。
Z。
777がZZZへと重なり合い、一つの輝きとなる。ゼッツの文字が街の上空に刻まれた瞬間、一体化していた意識の塊が弾け飛んだ。
一人一人の意識が、元の場所へ戻っていく。
絡み合っていた糸が解け、溶け合っていた夢が分離し、人々は再び「自分」を取り戻していく。紫の空がひび割れ、その向こうから本来の夜の色が覗き始める。
俺は着地した。
膝をつき、荒い息を吐く。身体中の力を使い果たした感覚がある。だが、確かに感じる。この世界の空気が、変わったことを。