ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
夢野のソムニウム世界に踏み込んだ時、俺の意識は漆黒の帳の中にいた。
(ここが……夢野さんの悪夢?)
重い空気が肌を撫でる。息苦しい。喉が詰まる感覚が現実以上だ。
ふと光が差し込む。細長い隙間から射す一筋の光が闇を裂き、俺を客席へと導く。
「……」
瞼を開けると、俺は観客席の一角に座っていた。だが周囲はまだ薄暗い。舞台上ではスタッフらしき人々が忙しなく動き回っている。大道具の搬入や照明の調整など慌ただしい雰囲気が漂う。
「これは……準備中?」
思わず呟く。ステージ上方には巨大なサーカス用テントのようなドーム状の天井が見える。そこから降り注ぐスポットライトがスポットライトが乱反射し、幻想的な空間を作り出している。
ステージ中央には円形の台座が設置されようとしている。その周囲にはカラフルな布が幾重にも重なり華やかな装飾となっている。
(マジックショーのステージだ……)
そう認識して、ゆっくりと見渡す。
準備中のステージを眺めていると、声が響いた。
《お疲れさまっす》
「月夜野さんですか?」
『そうっすね万津くんのバイタルチェック中でーす。ちょっと心拍数高いけど……興奮してるのかな?》
「違います。単に不審な臭いが漂ってるので」
舞台裏を見回す。スタッフの人々は皆無表情で黙々と働いている。誰もこちらに気づかないのが妙だ。
《やっぱそこは夢野さんのソムニウム世界っすね、それにしても》
「だったらどうしてこんな寂しいセットなんですか?」
巨大なドームの天井には星屑のような照明が埋め込まれている。だが客席は閑散としており、ステージ中央の円形台座だけが異様に浮かび上がっている。
《ん~……夢野さんにとっての“孤独”を表してるのかな?》
「孤独……マジシャンなのに?」
《人の注目を集める職業ほど、“ひとりぼっち”を怖がるものかもよ?》
月夜野さんの推理は詩的だ。彼女曰く『感情論解析プログラム』のおかげらしいけど。
俺は視線を巡らせる。壁際には大小さまざまな箱が積み上げられている。どれも紫色のリボンで包装されていて、夢野さん好みの演出だ。
「あの箱……全部トリック道具でしょうか?」
《確認中っす、とにかく用心し》
突如サイレンが鳴り響く。赤い非常灯が点滅し始めた。
「これは……!?」
『ソムニウム世界の“幕開け”っすよ!』
声が遠くなる。通信障害か?
中央の円形台座がゆっくりと回転し始める。積み上げられた箱から何かが這い出てきた。カラフルな紙吹雪と蝶の標本。そして……
「……手?」
青白い掌が現れる。爪の先から滴る液体が床に黒い染みを作る。
『万津くん!そこから離脱を……』
通信が完全に途絶える。客席の扉が自動的に閉まり始めた。
「くそっ……囲まれたか」
息を飲む。円形台座の周りに人影が集まりつつある。観客だ。
俺は、ゆっくりと構えていると。
『ふむ、やっぱり来たか、万津君』
「・・・誰だ?」
そうしながら、俺は周囲を見渡す。
『自己紹介をする必要はないだろう。何よりも、こちらとしては本格的に邪魔になった君の為に、わざわざ来たのだから』
「邪魔、という事は、終天教団か」
『そうだね、まぁ、今回は少し試したい物があって、来たからね』
「試したい物?」
そんな疑問と共に、スポットライトがつく。
見つめた先には、人形があった。
人形の腰には俺が使うゼッツドライバーに似た小さな円形のベルト。
それが何なのか、疑問に思っていると。
『実験、開始』『GUN』
鳴り響く音声と共にベルトの形は変形する。
同時に人形の姿に、俺は驚きを隠せなかった。
「あのナイトメアはっ」
そこにいたのは、俺が最初に戦ったナイトメアが、そこにいた。