ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
爆煙が晴れると、円形ステージは惨憺たる有様だった。ガンナイトメアがいた場所に穴が開き、周囲のセットが焦げている。観客席はがらんとして、ただ一つの座席だけが主不在で置き去りになっていた。
「ふぅ……」
俺は変身を解除し、胸のゼッツドライバーを静かに操作した。カプセムが排出され、冷たい金属音を立てる。戦闘終了の安堵よりも先に、新たな不安が胸を締め付ける。
(まだ夢野さんのナイトメアは見つかっていない)
会場は妙に静まり返っていた。スピーカーから流れ続けていたBGMさえ止まっている。まるで映画のポーズボタンを押したみたいに時が凍結したようだ。
『万津君!』
「月夜野さんか?」
ノイズ混じりの通信が復旧した。彼女の声には焦燥感が滲んでいる。
『よかった……信号が途切れてたから心配したっす!』
「無事ですよ。ただし問題は山積みです」
俺はステージ脇の階段を慎重に下りる。踊り場から見下ろす客席は不自然なほど整然としている。まるでモデルハウスの家具配置図のように均等だ。
「夢野さんの心理状態に影響されてるってことか」
そう呟きながら指先で壁をなぞる。壁紙には無数の魔法陣が描かれている。円の中に星と月。典型的な占星術パターンだ。
(魔術師でもない彼女がこれを?)
視線を落とすと床に染みがある。乾いた血液のような茶褐色。だが臭いは全くない。
「本物じゃないな」
これは恐怖の比喩だ。誰かを傷つけることを恐れる気持ち。超高校級のマジシャンは演技だけでなく心理戦も得意なのかもしれない。
客席通路を進む。靴底が床を叩く音が反響する。その規則正しいリズムは一種の催眠術のように錯覚させる。
(焦らず冷静に……)
自分に言い聞かせるように息を吐く。ここは悪夢の舞台裏。
会場の奥へ進むと、暗闇の向こうに蠢く影を見つけた。舞台袖のカーテン越しに揺れる小さな人影。
(夢野さんか……?)
息を潜めて接近する。ゼッツドライバーの安全装置を確認しながら忍び寄る。ここは戦場だ。
「誰かいるの?」
囁くような呼びかけに反応したのか、影が大きく揺れた。衣擦れの音と共に――
「んなあああっ!」
聞き覚えのある叫び声。夢野さんがカーテンから転がり出てきた。赤いボブヘアが乱れ、額には汗が光っている。三角帽子が床に落ちても拾う余裕もない。
「落ち着いて! 俺だよ夢野さん!」
夢野さんがカーテンから転がり出た瞬間、俺は咄嗟に抱き留めた。震える細い肩が制服越しに伝わってくる。いつも自信満々のマジシャンとは別人だ。
「万津君かえ? わらわは……あの影が……!」
「影?」
視線を巡らせるとステージ中央に蠢く影。舞台照明の死角から無数の触手のような黒い物体が伸びている。粘液が滴る音が不気味に響く。
「あれが……夢野さんのナイトメア?」
夢野さんの呼吸が荒くなる。瞳孔が開き切っている。