ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「はぁ」
屋上のフェンスに凭れかかる俺の頭上では、秋の雲がのんびりと流れている。教室に戻るのが億劫すぎて2限目の体育をサボって早45分。スマホには未読メッセージが30件ほど溜まっている。主に最原と春川さんから。
「相変わらず災難続きだな」
……わかってますよそんなこと。昨日は夢野さんの膝枕現場を目撃された上に茶柱さんに追い回され、今日は体育教師に目をつけられて居残り掃除確定。これで10月に入って4回目のペナルティだ。
「全く……なんでこうなるかなぁ」
溜息混じりに呟いた瞬間、屋上の鉄扉が派手な音を立てて開いた。
「おう!いたいた!」
聞き覚えのある野太い声。大柄な少年――百田解斗だ。隣には制服姿の最原君が申し訳なさそうに立っている。
「あ、二人とも……」
「探したんだぞ万津!体育の時間から姿消してると思ってな!」
百田は大股で歩み寄ってくる。この暑苦しさはいつものことだが今日は一段と声量が大きい。
「また何かあったのか?」
最原君が心配そうに尋ねる。彼の眉尻が下がると一層非対称の目が強調される。
「あぁ……ちょっとね」
歯切れ悪く答える俺の横で百田が鼻を鳴らした。
「大方茶柱絡みだろ?朝からギャーギャー騒いでたしよ」
「ご明察通りです」
肩を落とす俺を見て百田は豪快に笑う。
「ま、気にすんな!アイツは男嫌いすぎるだけだ。お前が悪いんじゃない」
「でもなぁ……」
言い淀む俺に最原君が続けた。
「男死って言われちゃうのも無理ないかもね。夢野さんのこと膝枕してたんでしょ?」
「わっ、最原君まで勘違いしてたのか」
俺は慌てて弁明する。
「あれは事故だったんだよ!夢野さんが勝手に寝ちゃっただけで俺は何も……」
「わかってる。万津君の不運体質は僕たちも理解してるつもりだよ」
最原君が穏やかに諭す傍らで百田が腕を組んだ。
「そもそも男嫌いってのは愛情の裏返しなこともあるぜ?素直になれねえだけかもしれねぇぞ」
「……百田の恋愛理論ってすごい楽観的だよね」
最原君が苦笑するも確かに説得力はある。彼自身も男女交際に積極的だからか妙な信憑性を感じてしまう。
「とにかく!お前一人で抱え込むなよ!クラスの皆も心配してるぜ?」
百田が俺の背中をバンと叩く。痛い。
「……そうかな?」
半信半疑で呟くと、百田は太陽みたいな笑みを浮かべた。
「当たり前だろ!お前は最高の仲間だ!」
その熱量に若干引きつつも……ありがたいと思ってしまったのが我ながら悔しい。
ちょうどその時だ。
屋上の扉が荒々しく開いた。
「万津ー!万津はおるかー!」
慌てた様子で飛び出してきたのは夢野さんだった。紫の三角帽がずり落ちかけている。
「あ、夢野さん……」
「良かった!まだいたんじゃな!」
ぜえぜえと肩で息をする彼女を見て、百田が眉をひそめる。
「おいおい……どうしたんだよ?」
「大変なんじゃ!」
夢野さんは両手を振り回しながら叫ぶ。
「転子が……絶望のビデオを見てしまったかもしれん!」
「絶望のビデオ……?」
百田が首を傾げる。その名前が俺たちの中で特別な響きを持つことを彼はまだ知らない。
「なんじゃその顔は!知らんのか!?」
「いや……聞いたことねぇな」
俺と最原君は視線を交わす。
やはり……これが始まりか。