ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「……!?」
刹那、風切り音。ナイトメアが左腕のボクシンググローブを猛然と打ち込んでくる。まるで巨大なハンマーだ。ゼッツフィジカムの拳と激突した瞬間、道場全体が地震のように揺れた。
「ぐっ……!」
純粋なパワーならフィジカムタイプの俺が上回っているはずだ。だがコイツは……
「何か、変だ」
攻撃を押し返そうとした瞬間、奇妙な感覚が背筋を駆け抜けた。まるで水中で格闘しているような感触。全力を込めているのに手応えが希薄なのだ。
「万津!気をつけろ!」
百田の警告がモニター越しに響く。その声とほぼ同時に、ナイトメアの右側――剣道の面をつけた方の手刀が鋭く閃いた。合気道の受け流しの技術ではない。純粋な剣道の斬撃だ。
「っ!!」
咄嗟に屈んで躱す。耳元を掠めた刃風のような殺気に全身の毛穴が粟立つ。
「こいつ……複数の武術を使いこなしてる!?」
「おそらく茶柱さんの知識と習熟した技術がナイトメアに反映されているのでしょう」
最原の冷静な分析が聞こえる。そうか、コイツは彼女の集合知そのものか!
「だがそれだけじゃない……何かおかしいんだ!」
俺の直感が警鐘を鳴らす。この違和感の正体を探るべく、もう一度ナイトメアに肉薄した。
「ハァァッ!」
今度は蹴り。低重心からの回し蹴りだ。狙うはナイトメアの胴体――防具と防具のつなぎ目あたり。衝撃さえ与えれば……
ズブッ!
鈍い音と共に俺の足が防具に深く食い込んだ。効いている!……と思った瞬間、
「ひっ!?」
微かな女性の悲鳴。
「!?」
あり得ないはずの音に、思わず動きを止めてしまう。
ナイトメアも一瞬硬直したように見えた。その隙を逃さず、俺は距離を取る。
改めて観察する。黒いボクシンググローブ、剣道の面。そのいずれもが異常に大きすぎる。まるで成人男性用の防具を強引に女性の体に合わせたようなアンバランスさ……
「まさか……」
信じられない可能性が脳裏をよぎる。もし仮に、このナイトメアが「着せられた」存在だとしたら?
俺は再びナイトメアに飛び込んだ。今度は直接的な攻撃ではなく、腕を掴みに行く。
「茶柱ーーっ!!」
俺の咆哮に、ナイトメアが明らかに動揺した。剣道の面越しに視線が泳ぐのが分かる。
ガッ!
掴んだ左腕。思った以上に細い。いや、違う。グローブの内側から別の体温が感じられる。
「離しなさい……男死が……!」
弱々しい拒絶の声。間違いなく茶柱の声だ。
「やっぱり……お前の中にいるのか!?」
防具が茶柱を拘束している。コイツはナイトメアそのものではなく、防具に取り憑かれた彼女自身なのかもしれない。
「違う……私は……ナイトメアなんかじゃない……!」
面の下から嗚咽が漏れる。だが次の瞬間、彼女の言葉とは裏腹にナイトメアの全身が蠢いた。黒いボクシンググローブが勝手に動き出し、俺の腕を締め付ける。
「ぐっ……こいつは……!」
痛みに耐えながらも、俺は確信した。ナイトメアの正体――それはこの禍々しい防具群そのものだ。それらが意志を持ち、中にいる茶柱を支配しているのだ。
「下手に殴ったら……茶柱ごと壊してしまう……」
窮地に追い込まれた。物理法則が通用しないなら尚更だ。この厄介な構造体を破壊せずに中の彼女を救い出さなければ……
防具の拘束が一層強くなる。腕の骨が軋む音が聞こえた。
「早く……壊れてしまいなさい……」
茶柱の声と防具の意志が重なり合い、恐ろしい二重唱となる。
モニターを見ている百田と最原も言葉を失っていることだろう。焦燥感が胸を掻き毟る。