ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「ふざけるな……!」
剥がれた防具たちが空中で蛇のように蠢く。剣道の面が鋭角的な軌跡を描き、小手は思念弾を撒き散らし始めた。
「うおっ!?」
飛来した面が寸前で旋回する。その縁に刻まれた「面」の文字が歪み、殺意を孕んだ曲線となっていた。
「ひっ!?」
茶柱の短い悲鳴。彼女のすぐ足元に落下した小手の思念弾が炸裂し、砂塵が舞う。
「動くな!今なら!」
俺は彼女の腕を引っ掴む。抵抗する暇もなく道場の隅へと引きずり込んだ。
「離してください男死!」
いつもの罵倒だが語尾に震えが混じる。当然だ。さっきまで自分が操られていた存在に襲われているのだ。
「大人しくしてろ!」
左腕のマシンアームを構える。残骸は七つのパーツに分散しており、それぞれが独立した思念体として活動している。
「解析:思念分割率71.9%。統括意識体は不在」
自動診断が告げる。つまり個々の防具は意思を持たぬ残滓であり、本体である茶柱のナイトメア意識は既に分離しているということだ。
「ならば」
新たなカプセムを抜き出す。
『グッドモーニング! ライダー!ゼッツ!ゼッツ!ゼッツ!ラージ!』
「変身!」
テクノロムマシーナリーの青白いフレームが軋みを上げる。左腕のマシンアームが粒子となって分解され、その代わりに首元から純白のマフラーが翻った。風もないのに生き物のように揺らめき、まるで意志を持っているかのようだ。
「これが……ラージフォーム?」
茶柱が呆然と呟く。彼女の目には俺の首元で踊る布が異様に映ったのだろう。
「ああ。こいつはただの飾りじゃねえ」
言い終えるより早く、分裂したナイトメアの攻勢が始まった。
「来るぞ!」
剣道の面が猛スピードで迫る。空中で回転し、切断兵器と化していた。
「甘いな」
右手を前方に翳す。掌から放出された思念エネルギーが空中で拡散する。すると――
ポンッ!
俺の右斜め前方に瓜二つの姿が出現した。テクノロムラージの分身体だ。
「……!」
剣道の面は一瞬躊躇するかのように動きを止めた。当然だろう。攻撃目標が倍増したのだから。
「続けて第二陣!」
今度は左後方から小手型思念弾が飛来する。同時に俺の左側にもう一体の分身が出現した。
「三体目!四体目!」
数秒ごとに増え続ける分身たち。最初は戸惑っていたナイトメアも徐々に混乱し始めた。標的が増えすぎたのだ。
「これがラージフォームの真価だ!」
本来なら一人で対処不可能な多方向同時攻撃を、複数の自分を使って捌き切る。まさに質量兵器。
「ちょっ……ちょっと万津くん!?」
茶柱が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そんなにバラバラになって大丈夫なんですか!? 脳みそまでコピーされてるってことですよ!?」
「安心しろ! 知識も感情もオリジナルが掌握してる!」
その言葉通り、二十体を超えた分身たちは一切混乱せず、蜘蛛の子を散らすように四方八方へ散った。ナイトメアが追いつけなくなるほどの密度だ。
「ここまで来たら……」
一際大きな思念エネルギーの波動が体内を走る。首のマフラーが輝き始めた。
「集結形態……!」
「なっ何をする気ですか!?」
茶柱の悲鳴に似た声。構う余裕はない。
「全員集合!」
俺の号令で全ての分身が一か所に吸い寄せられていく。重なり合う肉体が渦となり、核融合のような光を放つ。
光の渦が凝縮され、次の瞬間──
「デカっ!?」
俺自身が驚愕の声を上げた。眼前に聳え立つのは、十五メートルはあろうかという巨人。純白のマフラーが雄々しく翻り、機械仕掛けの瞳が爛々と輝いている。
「これが……巨大化形態?」
巨大化したゼッツの首元には、首に巻かれたマフラーが象徴的に靡いている。それはもはや布ではなく、超高密度の思念エネルギーの塊。茶柱のナイトメアが残した七つの思念体が逃げ惑う。だが遅い。
「さぁ決めるぜ!」『ラージバニッシュ!』
俺は瞬時にゼッツドライバーにあるカプセムを回す。
俺の呟きと同期して、巨人が一歩踏み出す。その巨足が道場の床を穿つと同時に大地震のような揺れが起こった。ナイトメアたちは狼狽えながらも思念弾を乱射するが、巨人は意にも介さない。
宣言とともに巨人の右脚が黄金色に煌めく。推進力を得たかのような加速で跳躍した。五体の思念体が盾になるように結集するが──
ズドォォォンッ!
凄まじい轟音と閃光。光の奔流が貫いた瞬間、残存思念は原子レベルで粉砕された。残されたのは埃と焼け焦げた匂いのみ。
「……終わったのか?」
巨大化したゼッツの体から光が零れ落ちる。粒子となって消えていくその姿は、まるで煙草の灰が風に舞うようでどこか儚い。
「これで本当に終わりなんでしょうか?」
茶柱が立ち上がりながら呟く。彼女の防具はすでに分解し尽くされており、残るのは白い道着だけだ。
そう言うと、茶柱はじっと俺を見つめてから口元を僅かに綻ばせた。いつもの毒舌ではなく、素朴な感謝の色を帯びた微笑みだった。
「ありがとう……ございます」
「お礼なんていらないさ。仲間なんだから」
俺は照れ隠しに頬を掻いた。しかし内心では奇妙な安堵と倦怠感が同居している。大量の分身を作り出し、それを一挙に統合した反動だろう。
「これからも色々あるだろうけど……みんなで乗り越えていこう」
未来はきっと明るい──少なくとも今はそう信じることができる。