ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
映画館のロビーに並ぶポスターを眺めながらため息をついた。週末の娯楽と言えば映画鑑賞が一番だが……今日は選択肢がありすぎる。壁一面に貼られた宣伝ポスターが俺を嘲笑うように揺れていた。
「どーすっかな……」
足を止め、腕を組む。候補は三つに絞られた。一つ目はSFアクション大作。最新技術を駆使したVFXが売りで、CGで再現された宇宙船の戦闘シーンが話題だ。
「これはデート向きだよなぁ」
思わず呟いてしまった。そもそも一人で見るには少々規模が大きいし、宇宙戦争よりも俺が最近追っている事件の方がよっぽど壮大だ。絶望ビデオとかナイトメアとか。
二つ目はホラー映画。しかもタイトルからしてヤバい。「監禁館の惨劇―血塗られた招待状―」。煽り文句が「あなたも絶望の中で死ぬ」ときたもんだ。茶柱の一件で散々絶望を味わったばかりなのに、これ以上リアルタイムで体感するのはご勘弁願いたい。
「こっちもパスだな……」
残るは三つ目。古めかしい名前のフランス映画。監督の名前も聞いたことがない。
「『窓辺の向日葵』か……」
静かな生活ドラマらしい。ポスターには老夫婦が庭で花を育てる穏やかなシーンが写っていた。確かに心が安らぎそうだが……正直言って退屈そうでもある。
「う~む……」
迷っていると。
振り返ると、そこには見覚えのない人物が立っていた。いや、正確には見たことがあるような気がする……ような……?
「悩んでるみたいだね?」
名乗る前に俺の名前を呼んだその声は、若い女性のもののように聞こえた。だが同時に男性的なトーンも含んでいて、一瞬脳が混乱する。服装は赤と青が螺旋状に混じった奇妙なデザインのロングコート。襟元からは白いシャツが覗いている。特筆すべきは髪型だ。鏡のように艶やかな黒髪を、左右非対称に刈り上げている。右側はショートヘアに近く、左側は長く伸びて肩にかかるほどだ。
「あんた……誰だ?」
「私かい?そうだなぁ、色々な呼び方をされている親切なお姉さんってところかな?」
言いながらクスクス笑うその様子は確かに「優しげ」だが、「胡散臭い」と言ってもいい。特にその青い瞳。底なし沼のような深さがあって、覗き込むと吸い込まれそうな錯覚を覚える。
「助言なんて柄じゃないんだけどさ。私としては三番目の作品をお勧めしたいねぇ」
指差されたのはフランス映画の方。
「えっ?『窓辺の向日葵』?」
「うん。退屈そうに見えるでしょ?でもね、こういう静かな作品ほどメッセージ性がある場合が多いんだ」
言われてみれば……。茶柱との一件以来、俺の精神は確かに疲弊している。派手な刺激より癒しを求めているのかもしれない。
「それにさ」
彼女(あるいは彼)は一歩近づくと、声を潜めた。
「君みたいな……特別な運命を背負った人にこそ観てほしい映画なんだよ」
その台詞に心臓が跳ねた。
「な……何言って」
「大丈夫。誰にも話したりしないから」
微笑みは穏やかだが眼差しは鋭い。まるでこちらの内面を透視しているかのようだ。
「ただの偶然さ。街で見かけた青年が深刻そうな顔をしてたから声をかけただけ」
嘘くさい言い訳だったが、追求する気力も起きない。とにかく今は休息が必要だ。
「わかったよ。あなたの言う通りにする」
レジに向かおうとした瞬間、肩を軽く叩かれた。
「ひとつ忠告しておくね」
振り返ると、さっきまで正面にいたはずの人物が背後に立っていた。動く気配すら感じなかったのに。
「そう言えば、言い忘れたけど、私もこの映画見るんだ。観客は私達だけどね」
「・・・あなたは一体」
そうして、思わず呟く。
それに対して。
「お姉さんだけじゃ、呼びにくいんだったら、零。下辺零だよ」