ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
シアターE-7。上映開始15分前。赤と青の混色ライトが壁面を漂い、空調の微風が肌を撫でる。僕たちは中央列の最前列、103番と104番の隣り合う席に腰を下ろした。
「意外と広いもんだね」
零が首を巡らせながら呟く。声はロビーで聞いた時よりも幾分か柔らかく響いた。
「確かにな。でも……他の客がいないのは珍しい」
上映スケジュールを確認すると他にも数本の映画が同時刻に始まる予定だった。カップルシートの埋まり具合から見て、この古いフランス映画を選んだのは僕たちだけらしい。
「二人きりの方が話しやすいから、良かったじゃない?」
零が悪戯っぽく笑う。左右非対称な髪型の左サイドが照明に照らされて艶めき、鏡のように周囲の赤いランプを反射させている。
「えっと、映画を見に来たのでは」
「うぅん、確かにそうだけど、上映時間まで結構あるじゃない。それに他に客はいないしね」
「まぁ、そうですけど」
「それにさ」
零が目を瞑りながら言う。
「この時間は何者にも邪魔されないよね」
「・・・そうですが。そもそもなんでそんな事を」
「いやぁね。ここでは私たちだけしかいない。あなたにも聞きたい事が色々あるんだ」
「聞きたい事ですか」
俺の質問に対して零は答える事は無かった。
代わりに、
「それで?君はどう思う?」
「どう思うって何を」
「そうだなぁ、人間って、このまま生き残れると思うかい」
その一言に、俺は戸惑う。
「いきなり何を」
「いや、何、雑談だよ雑談」
「雑談って」
それにしても、あまりにも物騒過ぎる話だ。
「なんで、そんな事を」
「・・・君も知っているだろ、今、人類は滅亡に向かっている事を」
「それは」
「人類史上最大最悪の絶望的事件。きっかけはそれだったかもしれないけど、未だにそれは続いている。これは人間同士の戦争を遙かに超える厄災だ」
そうして、彼女はそのまま続ける。
「その戦いは未だに続いており、どちらが勝っても人類が滅びる」
「そんな事は「人類が滅亡しない為に必要な人数はどれぐらいだと思う」えっ」
「ヒントは簡単さ。地球人口に必要な生物を仮にAと呼ばせてもらおう。Aはどのくらいの人数で生き残れると思う」
「・・・それは」
難しい話だ。彼女の話によると人類は滅びる。
それは何故か、地球人口が必要な生物が繁殖できない数でしかない。
「その必要最低限の人数とはどれくらいかは分からないけど、十桁で考えても厳しいかもね」
十桁だと10億人ぐらいだが、それ以下の数の問題か。
「それ以下が残ったら人類は滅びる。どんなに種の保存と言う意味があったとしても」
そうして、彼女は立ち上がる。
「さてと、そろそろかな」
彼女はそのまま座席に座る。俺も続いて座席に座る。
会場の照明がゆっくりと落ちていく。暗闇の中で零の瞳だけが宝石のように輝きを放つ。それはどこか懐かしくもあり不吉でもあった。
「楽しみだね」
そう呟いた零の横顔は、まるで深い海溝の底で眠る古代魚のように静謐だった。僕は思わず唾を飲み込みつつ、スクリーン。
その時に、俺は。
自分に、ゼッツドライバーが装着していた理由を忘れていた。