ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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教祖 Part3

『窓辺の向日葵』のオープニングは牧歌的だった。夕暮れの郊外町並み。坂道を登る少女が花屋の前で立ち止まり、黄色い花を買う。BGMは穏やかなピアノ。こんな日常の一コマからどんな教訓を得られるのか……。

 

画面が切り替わる。

 

赤と黒のチェック模様が浮かび上がった。

 

〔パンッ〕

 

銃声。

 

次の瞬間、少女の額に赤い花が咲いていた。

 

「……っ!?」

 

喉が乾き切った。何が起きた? 花瓶? 血痕? 目の錯覚?

 

椅子の肘掛けを握りしめる。掌が冷たい。汗なのか震えなのか分からない。

 

スクリーンいっぱいに血飛沫が広がる。白い制服が瞬く間に朱に染まる。カメラワークは過剰にゆっくりで、残酷な一瞬を丁寧に映し出す。

 

「……こんなの……映画だろ……?」

 

独り言が洩れる。理性で否定しようと必死だった。なのに記憶が疼く。

 

破壊と再生。境界の曖昧さ。

 

赤と黒の画面が唐突に戻ってきた。

 

「おーっはよーございまーっす!」

 

陽気な声が降ってくる。

 

画面の中心にはアニメ調の人形が鎮座していた。

 

視界が歪んだ。

 

俺の肩に手が置かれた。零だ。

 

「……平気かい?」

 

彼女の声は慈雨のように沁みた。吐息がかかりそうで届かない距離。睫毛一本一本がはっきり見える位置。でもその優しさが逆に恐ろしい。

 

「なんで……こんな……」

 

言葉が喉で詰まる。思考が追いつかない。

 

スクリーンがフラッシュバックするたびに鼓動が早まる。耳障りな電子音が頭蓋骨に突き刺さる。これは映画のはずなのに……。

 

「大丈夫?」

 

零が俯いたまま尋ねる。その声は確かに温もりを帯びていた。まるで幼児を寝かしつける母親のような……。

 

「ああ……ただちょっと……」

 

俺は言葉を濁す。手が震えてる。膝頭の上で指が絡み合う。握り締めすぎて爪が食い込んでいるのに気付いたのは、血が滴って初めてだった。

 

「映画のせい?」

 

零が覗き込んでくる。片目だけが星屑を閉じ込めた水晶玉みたいに澄んでいて、もう一方は濃霧に覆われた湖畔のように憂鬱だ。

 

「いや……これは映画だし……」

 

「本当?」

 

彼女の眉尻が下がる。嘘を見抜かれたくない。なのに嘘が通じない確信がある。

 

「俺の頭の中でさ……記憶と想像が混ざって……区別できなくなってる」

 

ぽつりぽつりと吐き出すたびに胃袋が収縮する。

 

「分かるよ」

 

零が椅子の隙間を埋めるように身を寄せる。香水の香りじゃない。遠い昔に嗅いだ石鹸水みたいな清潔感。それが逆に罪悪感を煽る。

 

「わたしもね、よく混乱するの」

 

彼女の声にかすかな湿り気を感じたとき、喉が詰まった。

 

「現実と夢の境目がぼやけちゃったり……大切な人と幻覚の境界線を見失ったり……」

 

まるで自分の心を読み取られているようだった。こいつは俺のトラウマを知ってるんだろうか。

 

「でもね、このままじゃ駄目だと思うんだ」

 

急に声色が変わる。水面に氷塊を落としたみたいに冷徹に。

 

「もし人類がこのまま生き延びたとしても……結局同じ地獄を繰り返すだけでしょう?」

 

「何を言って……」

 

「考えてみて。わたしたちの生きてきた世界は常に暴力と欺瞞で満ちてる。それなのに希望を持つためにまた他人を利用してしまう」

 

彼女の頬に浮かぶ微笑が不気味だった。慈愛に満ちているのに底知れぬ絶望を湛えている。

 

「だから……一度全部終わらせてあげるのが慈悲じゃないかしら」

 

思わず胸元を押さえた。心臓が肋骨を突き破りそうだった。

 

「優しい死なんてない」

 

絞り出すように拒絶した。でも……

 

「ほんとうにそう?」

 

零の両手がそっと包み込むように俺の指先を取った。思ったよりも華奢な感触。爪は短く切られていて清潔だった。

 

「あなたもわかってるんでしょう?」

 

「そんなことはない!」

 

叫びかけて唇を噛んだ。痛みで自制を取り戻そうとしたけれど無駄だった。

 

スクリーンが再び赤くなる。

 

パンッ――銃声が破裂する。

 

彼女が静かに呟いた。

 

「わたしなら……痛みのない終わり方を選べるのに」

 

その囁きは祝福であり呪詛だった。耳介に吹き込まれた甘美な誘惑の毒霧。

 

俺は無意識に彼女の手首を掴んでいた。折れるほど強く。なのに彼女は微笑む。

 

「ごめんなさい……脅かすつもりはなかったの」

 

零の瞳が潤んでいた。嘘泣きじゃない。本当に哀しみが揺れている。

 

「ただ……怖かったでしょう?」

 

手のひらを裏返し、傷ひとつない指紋を見せつけるように押し当ててくる。

 

「私だって怖いものがある。だから……一緒に」

 

この申し出は罠だと思った。甘くて危険な蜜。それでも―

 

俺は、その手を自分の胸に手を当てた。

 

その時。

 

「っ」『メツァメロ! メツァメロ!』

 

聞こえた声。

 

同時に、俺は全てを理解した。

 

それと共に、俺は零の手を突き放した。

 

「・・・あんたは一体」

 

「・・・目覚めちゃったんだね」

 

そう、俺はようやく思い出す事が出来た。

 

「ここはソムニウム世界だったっ」

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