ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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教祖 Part4

スクリーンの赤光が血の色に染まる。零の唇がゆったりと弧を描く。

 

「気づいてくれて嬉しいわ」

 

その声は蜂蜜酒のように滑らかだった。まるで親友と秘密の計画を共有する少女のようだ。

 

だが俺の全身は警告信号を発していた。

 

「……お前が終焉教団だったのか?」

 

声帯が凍りつく。零は答えず、ただ椅子に浅く腰掛けたまま足を組み直した。その動作一つで空気が軋む。

 

「ソムニウム世界はいいわよね」

 

彼女が呟く。青い瞳が星屑を宿しながら瞬いた。

 

「現実と幻想の境界線が曖昧になるから」

 

「ふざけるな!」

 

思わず怒鳴った。額の血管が脈打つのがわかる。

 

「ここで映画なんか見せたのも罠だったんだろう?」

 

「罠なんて人聞きが悪い」

 

零が小さく笑った。その仕草は天使のようだ。だが天使の羽根の下に隠された鎌の存在を俺は知っている。

 

「あの映画はね、本当に起きた出来事を映画にしたんだ。それを君に見せただけだよ」

 

「だとして、なんで人類を滅亡させなきゃいけないんだ」

 

「そうだね、色々と理由はあるけど、私自身は別に人間に対しては恨みもない」

 

零の笑みが深まる。それは聖母のような慈愛と冥府の女神のような冷酷さを併せ持っていた。

 

「自然を愛してるんだ」

 

彼女の声が映画館の薄闇に溶けていく。

 

「動物たちが自由に歩き回り、植物が伸びやかに育つ世界をね」

 

俺は奥歯を噛み締めた。唾液が鉄錆の味を帯びる。

 

「自然保護を口実に人間抹殺を選ぶなんて……!」

 

「そう見えるでしょうね」

 

零が首を傾げる。非対称な髪型が照明の陰影で歪む。

 

「でも考えてみて? 森林伐採、海洋汚染、種の絶滅……これらは全て人間の業よ」

 

「だからといって全人類を……!」

 

「違うわ」

 

彼女の指が空中で円を描く。まるで魔法陣を紡ぐかのように。

 

「私は憎んでるんじゃない。悲しんでるの」

 

嘘だ。その一言で全てが偽善だと悟った。

 

「じゃあなぜ絶望ビデオを作った?」

 

問い詰める声が震える。彼女は少し沈黙し、それから囁いた。

 

「あれもまた、人類自身が作りだした物。だからこそ、人類自身でその手綱を握る事が大事だった」

 

「どういう事だ」

 

「かつて学園長が人類史上最悪最大の絶望事件を引き起こした。あの時は多くの人々が被害者だった。だがしかし」

 

零はそこで言葉を一旦止める。

 

「人間の好奇心と言うのは本能。その根源にあるのは恐怖なんだよ」

 

「恐怖」

 

「そう、人間は未知のモノに対し本能的に恐怖する。絶望ビデオは人の恐怖を利用している。同時に知識欲をそそる。あの絶望ビデオを見て何が出来るか。人間の善性の確認テストさ」

 

零はそこまで言い切った。

 

「・・・お前はまさか」

 

「さぁね」

 

零はそのまま笑みを浮かべる。

 

「さて、そろそろ時間切れのようだね」

 

それと共に、映画館が揺れる。

 

「まさか」

 

「さて、ここまで話をしたお礼に教えようか。ここにいるナイトメアはね、この建物自体だよ」

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