ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
建物の構造は、そのまま風紀を正すように、そのまま元の構造へと変わっていく。
それを見届けると共に、俺はそのまま、足場へと立つ。
『マジっすか、こんな使い方を』
「だけど、これは倒せた訳じゃない。それに、そんなに長く続かないはず」
こちらが風紀を正したとしても、向こうがその対処をされたら、終わりだ。
『それってつまり、どうするっす?』
「建物を支える柱、それを破壊する!」
建物自体がナイトメアならば、そのナイトメアを支える場所がある。
そこを潰せば、ナイトメアは、そのまま崩れて倒せるはずだ。
「オーダー!」
再び叫ぶと共に周囲の空間に影響が出る。
瓦礫が再び形状を変え始めた。それまで不自然な方向に捻れていた廊下が元通りの直線に整列する。窓枠がガタガタと震えながら水平に戻る。壁の裂け目が糸のように引き寄せられ閉じていく。
「秩序とは、物事の正しい位置と形を保つことだ」
俺はベルトに触れながら呟く。掌に伝わる振動。
俺は意識を集中する。目の前の混沌が徐々に秩序へと還元されていく。腐敗した組織を切除する外科医のように。俺の役割は純化と消毒。
「俺も好きじゃないぜ。こういう『ルール』とか『秩序』とか」
自嘲気味に笑うと同時に周囲の床が水平を取り戻す。しかしすぐさま歪みが再発生。やはり相手もただ黙って順応するわけじゃない。
「お前もそうだろ? 暴走したければすればいい。けどな……」
語尾を切った刹那、俺の拳が虚空を薙ぐ。拳圧だけで空間が捻じれ、建物の支柱に亀裂が走る。
「自分の領分を超えて周りを汚染したら──粛清されるのが道理だ」
建物が軋む。金属の悲鳴。コンクリートの断末魔。しかし俺の行動は止まらない。
「これが最後だ」
オーダーモードの真骨頂を見せる時だ。左腕の【風紀】腕章が熱を帯びる。空間認識装置が目標を捕捉した。建物の芯部──歪みの核となる一点が赤くハイライトされる。
『対象:階層B-3中核構造 特異反応あり』
ベルトから発せられる報告。月夜野さんの声が通信機に響く。
『そこにいますね……ナイトメアの柱が』
「ああ……だが俺にとっては単なる秩序違反物件だ」
建物の中核部。
「……なるほど。お前は建物の構造を操作することで俺を迷路に閉じ込めたつもりか」
壁面を透過して見える内部構造。本来なら各フロアが水平に積み重なるべき空間が、無理やり螺旋状にねじられている。階段も廊下も本来の位置を喪失し、あたかも消化管のようにうねっている。
「だがその試み自体が秩序の冒涜だ」
俺は左手を掲げる。腕章が磁石のように磁場を発生させる。歪みが抵抗を示すが、微弱な反発では風紀委員の職務執行を止めることはできない。
「秩序を侵すものは秩序によって裁かれる──」
言葉とともに周囲の建材がゆっくりと本来の位置へ収束しはじめる。鉄筋がピンと張る音。コンクリートが固まる音。まるで時が逆流するような光景。
ナイトメアの意識が戦慄したことを感じる。
「逃げようとしても無駄だ。お前が創り上げたループそのものが、すでに秩序の網に絡まっている」
『ブレイカムクラッシュ!』
瞬時に、ブレイカムゼッツァーに、瞬時にフィジカムインパクトカプセムを装填する。
構えを取る。左脚を引く。右手を水平に伸ばす。
ブレイカムゼッツァーが自動装填機構によりアックスモードに変形する。刃部の粒子密度が臨界を超える。空気分子を切り裂くほどの鋭利な波動が発生する。
「これが……風紀への挑戦に対する正しい報いだ」
足場を蹴る。
疾風のごとく飛翔。
重心移動。
軸足から臀部へと力の流れを集約させ、渾身の一撃を叩き込む。
〈ザシュッ!〉
青白い閃光が柱を貫通する。
崩壊の最初の一音。
構造計算など無意味。柱が折れる瞬間とは、理論的に推測できる限界値より遥か以前に訪れる。脆性破壊。そして塑性域崩壊。双方を融合させた破壊。
「さらばだ……秩序を汚染した迷宮」
崩落が開始する。上部階層が雪崩れ落ちる。四方の壁が剥がれ落ちる。
空間の律動が秩序へ回帰しようとするなか、ナイトメアの呻きのような振動が空気を揺らす。
「・・・勝てたか」
そう、そのまま終わりを告げながらも。
「・・・未だに信じられないな」