ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
風が雪を運ぶ山峡は夜闇よりも濃い闇に閉ざされていて、遠くで狐火が踊っている。鳥居は本来東西南北を示すはずが、真宮寺のソムニウム世界では四本とも西を向いている──まるで時間と方位の概念さえ歪んでいるのだ。
「……参ったな」
俺は唇を噛む。子供の頃、雪山で遭難しかけた記憶が蘇る。凍える空気、月さえ喰らう雲海。あの時も帰り道が分からなくて。そうだ、この雰囲気はそれだ。
『ザアア……』
水田跡に積もった雪が、血のような泥色に腐り落ちていく。畦道には藁人形が等間隔に並び、ひとつひとつの首から古い祭文が垂れている。
「民俗学講義としては完璧だよ。だが講師不在じゃ卒業試験にすら辿り着けん」
皮肉を呟きながら進むうち、前方に黒板を模した石壁が立ちはだかった。チョーク代わりの骸骨の指が勝手に動き出し、文字を綴る。
〈お ま え も そ の は へ〉
「誰が地獄行きだ。冗談じゃない」
苛立ち混じりに足を踏み出す。途端に雪が崩れ落ち、三途川を模した幅十メートルの断崖が現れた。対岸では灯籠行列が蠢き、耳鳴りのような祈禱歌が木霊する。
「教祖の絶望ビデオには確かに『郷土信仰の儀式』が映っていたが……ここまで再現するか。真宮寺の潜在意識が強すぎるな」
断崖の真下へと視線を落とすと、雪の合間に赤い鳥居の破片が無数に埋まっている。どれも逆さ吊りにされた神社建築の残骸だ。
──つまりこれは村そのものを逆さまに葬った儀式か?
「やばいな」
踵を返そうとした瞬間、雪面がぷつぷつと沸騰し始め、中央に渦が生まれる。吐瀉物に似た悪臭が立ち込め、渦から伸びた漆黒の蔓が俺の靴紐に絡みつく。
耳朶に触れたのはエンジン音ではなかった。獣毛を逆立てた猫が尻尾を打ちつけるような低い振動。
「……まさか」
雪原に影が落ちる。薄墨で描いた円形の輪郭。ヘッドライトの位置にふたつの眼窩が開いている。
「骨型スクーターかよ。洒落てるな」
皮肉を飛ばすより早く鎖骨が軋んだ。俺は咄嗟に体を捻る。轟音と共に髑髏の頭部を持つバイクが俺の右袖を掠め通り過ぎた。風圧だけで肩口が裂ける。
「うぉっ!?」
バランスを崩した足が雪を掻く。モンスターバイクは弧を描き旋回し、そのバイクに乗る人物はこちらを見る。
「はっ、まさか、本当に現れるとはな、こんな屑を助ける為にな」
「・・・てめぇも終天教団という訳か」
そこに現れたのは、赤い髪に眼帯をした女性であり、僅かに聞こえた暴力的な口調と合っていた。
「あぁ、そうだな、最も異教徒であるてめぇを殺す為にだがな」