ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
ナイトメアの動きは呪術そのものだった。棍棒の釘が突き出した瞬間、空中に紫色の紋様が浮かぶ。民間信仰の印が溶け合いながら膨張し、触れた雪が黒く腐敗していく。
「民俗学の寄せ集めか……」
俺はブレイカムゼッツァーをソードモードに展開した。刃が虹色に輝く。ナイトメアが両腕を交差させたとき、その隙間から幾つかのアイテムが零れ落ちた。招き猫の頭部、千切れた絵馬の破片、錆びた鈴――全てが怨念を煮詰めたような気配を放っている。
「どうすれば」
俺の声は冷静さを取り繕っていたが、喉奥がひりつく。民俗学の知識とオカルトは紙一重だ。これが真宮寺の“闇”なら――その深淵に触れなければ勝てない。
ナイトメアが跳躍。落下の軌道と平行に動く巨体。腹部には赤子の胎児模型が縫い付けられている。肋骨が露出し、脈拍のように蠢く。
「――ヒッヒィィ」
不協和音の合唱。その刹那、俺はブレイカムゼッツァーを斜めに払った。紫の紋様が裂け、黒い靄が弾ける。オゾンの匂いが肺を刺す。
「民俗学は科学ではない」
刃に宿った光が増幅する。
「だが現象として在る以上、対処可能だ」
ナイトメアが両腕を振り下ろす。招き猫の右手が鋼鉄のように硬化し、絵馬の札が風を斬って飛来する。札の一枚一枚が口を開き、怨嗟の声を吐き出した。
「ククッ……耳障りだぜ」
俺は身体を捻りながら後方に跳ぶ。雪原が瞬時に液状化し、踝まで沈む。重心を保持すべく膝を屈め、逆の掌底で衝撃を受け流す。
ブレイカムゼッツァーの刃が細かく震えた。
ナイトメアの猛攻は留まるところを知らなかった。千切れかけた招き猫の右手が鞭のようにしなり、空中に赤黒い線を引く。その線は雪に触れた瞬間、鋭利な茨へと変貌し、俺の足首を狙ってきた。
「民俗学の負の側面を凝縮したような怪物だな……!」
俺はブレイカムゼッツァーを盾のように構え、茨を焼き尽くす。刃が接触した箇所から蒸気のような呪詛が立ち昇った。だがナイトメアは怯むどころか、その焼け爛れた部位を自ら引きちぎり、新たな呪具――錆びた農具の破片を投擲してきた。それらは空中で意思を持ったように回転し、俺の死角となる斜め上方から奇襲をかける。
「どこまでも厭らしい戦術だ……!」
回避と防御に集中せざるを得ず、反撃のタイミングが掴めない。ナ
次の瞬間、その巨大な身体全体から波動が放たれる。目に見える紫の瘴気ではなく、もっと根源的な“穢れ”そのものが可視化されたような黒い奔流だった。
肌を這う嫌悪感が脊髄を貫く。
これは……直接触れたら終わりだ。
防御は間に合わない。回避動作も間に合わない。万津の瞳孔が恐怖に開く。黒い奔流が眼前に迫る。
爆音が雪原を切り裂いた。
「ケッ!馬鹿正直に真正面から斬り合うつもりかよ!」
まんじだった。彼女の改造バイク――骸骨の頭部を冠した異形のマシン――が猛然と俺の背後から突進し、その巨体で黒い奔流を正面から突き破る。凄まじい摩擦音と閃光が発生し、波動が霧散した。
「ぼうっとすんな万津ィ!こっちに乗り移れ!」
まんじが叫びながらハンドルを左へ切る。バイクはUターンしながら加速し始めた。俺は咄嗟に跳躍し、ブレイカムゼッツァーを鞘に収めると同時にバイクのリアシートへ着地する。
「なんで……助けるんだ?」
唐突すぎる出来事に思考が追いつかない。俺は怒りを込めて問いかけた。
「助ける気なんざねぇよ」
まんじはバックミラー越しに舌打ちする。
「ただアイツ……ナイトメアは俺の管轄外の“バグ”みたいなモンだ。教祖の計画を台無しにする厄介な虫ケラに過ぎねぇ」
「バグ?」
「あァ。あのナイトメアは真宮寺是清の精神が吐き出した異物だ。つまりあのクソ学者が抱える矛盾そのものだ。アイツが成長したら計画がメチャクチャになっちまうかもしれねェ」
彼女は唇を歪ませる。
「だからとりあえずはお前を利用させてもらうって訳さ。ケッ!忌々しいけどなァ!」
バイクが轟音と共に雪原を駆ける。背後ではナイトメアの咆哮が響いているが、少しずつ遠ざかっていく。俺は掴んだ背中の熱を確かめながら考えた。この女も結局、自分たちの目的のためには手段を選ばない。だが――今は利用し合う関係だ。
「それじゃあ」
俺はヘルメットのシールド越しに空を見上げた。
「ナイトメアを倒す算段はあるのか?」
「そんなもんまだ練ってねェ。だがなァ」
まんじは歯を見せて不敵に笑う。
「まずはあのクソ学者の心の扉に行けば突破口が見つかるかもしれねェ。そこで情報を搾り取るのが賢いやり方だろう?」