ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「ああ」
俺は頷き、再びナイトメアが現れたであろう方向へ視線を向けた。奴の攻撃パターン――招き猫の腕、絵馬の札、祈祷の印。どれもこれも、真宮寺が誇らしげに語っていた民俗学の断片そのものだ。
「そうだ……ヤツの攻撃は、全て真宮寺の知識から来ている……!」
まるで百科事典のページをランダムに引きちぎって投げつけてくるような戦い方。あの知識の奔流が彼の世界の全てで、それ故にナイトメアの力となっている。だとすれば……。
「知識そのものを覆せばいい」
口の中で呟く。ナイトメアは真宮寺の“信念”が凝固したような存在だ。ならば、その信念の土台となる知識体系そのものを揺るがすことができれば?
ふと、ゼッツドライバーに視線を落とす。
『コミック』
万津はポケットを探り、使い込んだカプセムを取り出した。表面には漫画の吹き出しをイメージした刻印。
「……コミックだとォ?」
まんじが眉を吊り上げる。
「そんなので一体」
俺はかぶりを振った。
「物理的な攻撃ではない」
「物理的じゃねェ……?」
「奴の“物語”を書き換える」
俺は淡々と言い切った。
「真宮寺の“姉を守る”という核がある限り、そのバリエーションはいくらでも湧いてくる。なら、その核そのものの意味を書き換えてしまえばいい」
まんじの瞳が細くなる。彼女もすぐに理解したようだ。
「成程ねェ……。“守る”って行為が必ずしも“殺す”に繋がらないようにするってか。随分と荒療治だが、効果はありそうだ」
「ああ。それに、ナイトメアだって知識でできているなら……同じく“物語”を扱うこの力で干渉できるはずだ」
俺はゼッツドライバーのカプセムを装填した。
「何をする気だ?」
まんじが警戒するように尋ねた。
「物語を作る」
万津は簡潔に答える。
「真宮寺が絶望せずに済む未来の物語を」
その瞬間だった。
前方の空間が再び歪み始め、瘴気が濃密に漂い出す。ナイトメアが接近している。
「来るぞ!」
俺は、その瞬間。
『グッドモーニング!ライダー! ゼッツ!ゼッツ!ゼッツ! コミック!』
俺の周囲に電子の欠片が乱舞した。青白い光が渦巻き、装甲が形成されていく。テクノロムコミック。ゼッツドライバーが選択した形態はそれだった。胸には漫画のフキダシを思わせるエンブレムが輝く。右腕が形状を変え──まるで本物のGペンのように鋭く尖った。
「物語を作り出すか……」
アイボゥさんが呆れたように呟く。
「だがその程度で真宮寺の歪んだ執念が消えるとは思えない」
「執念は消えないさ」
俺は装甲越しに微笑んだ。
「でもね、物語ってのは読者の感情次第でいくらでも書き換えられる。たとえ作者が意図したものと違っていてもな」
ナイトメアが吼えた。呪文のような詠唱と共に周囲の雪原が黒く溶解し、墨汁のごとく渦を巻く。そこに浮かび上がるのは──多数の招き猫の頭部。目玉が白く濁り、口からは涎のような液体が滴っている。
「あれは真宮寺の呪い……」
まんじが吐き捨てるように言った。
俺はGペンを握り直した。ペン先から蒼い光が糸のように伸びる。
「じゃあ全部塗り潰してやるよ」
ナイトメアが動く。無数の招き猫が一斉に牙を剥き出し、獣のような咆哮を上げた。俺は後退せず、むしろ一歩踏み込む。
「『招き猫は幸福の象徴である』」
俺が空中に書いた一文字が拡大した。光の粒子が雪原に降り注ぎ、黒く澱んだ招き猫たちの表面を舐めていく。すると──
グサッ!
何かが貫通するような音。招き猫の群れが一匹残らず串刺しになっていた。出現したのは巨大なGペンの矢印。俺が書き込んだ設定が具現化したのだ。
「ケッ……!」
まんじが顎をしゃくる。
「現実改竄って訳か! だがいつまで保つ!?」
俺はペンを旋回させた。
「保つんじゃない──創るんだよ」
ナイトメアの胸部が裂けた。中から溢れ出てきたのは大量の紙片。そこには印刷された無数の台詞があった。
だからこそ。
「物語は、俺が書く」