ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
ナイトメアの口から紡がれた古臭い文字が実体化し、無数の縄が襲いかかる。捕縛に特化した古い村の祭りだ。これに囚われれば身体が裂ける痛みは想像に難くない。
だが、俺はペンを閃かせた。
「縄で遊ぶのは子供の役割だろ」
光のインクが宙を舞い、“遊び”の概念が絡みつく。瞬く間に縄は色鮮やかな凧糸へと変容し、空へと昇っていった。ナイトメアが舌打ちする。
続いて紙製の人形が浮かび上がり、奇妙な踊りを始める。七夕の短冊から生まれた呪詛だろうか。
「願い事が叶わぬ怨念の踊りだ」と奴は嗤う。
「いいね。願いなら自分で描くさ」
俺は即興で絵を描いた。夜空に煌めく星々と笹の葉の絵柄。踊っていた人形はやがてピエロのような笑顔を浮かべて紙吹雪を撒き散らす。
ナイトメアの表情が険しくなる。
「愚弄するか……!」
地鳴りとともに地中から無数の手が伸びてきた。死者を祀る祭壇から溢れた亡者たちだ。普通の物理攻撃では貫通できない呪われた群体。
「葬儀を祝祭に変えるのが今回の課題ってわけだ」
俺はGペンを掲げた。そして単純な記号──ケーキとロウソクのイラストを空中に描く。すると亡者の手たちはキャンドルホルダーへと姿を変え、ロウソクの炎を灯して温もりのある光景を作り出した。
「祝う対象は何もない!」
ナイトメアが吠える。
「いや、あるよ」
俺は迷いなく応じる。
「生き延びた命を祝おうぜ。みんなそうやって前に進んできた」
ナイトメアが初めて後退した。胸郭の一部が裂け、青白く脈打つ肉塊が露出する。
「これが……真宮寺の魂……いや、歪みそのものか」
ナイトメアが苦し紛れに最後の術式を編み上げる。
日本全国の禁忌を集めた多重層の経文だ。
だが、物語を次々と書き換えていく事によって、ナイトメアの本体が見える。
しかし、このままでは距離が遠い。
今はキーボがいないからバイクは使えないし、すぐに再生しそうになる。
そう考えていると。
まんじのバイクが唸りを上げる。後輪が雪を蹴立て、タイヤ跡が一直線に伸びていく。
「乗れって言ってるだろうがァ! ちんたらしてたら標的にされっぞ!」
彼女の罵声に押され、俺は無言で後部座席に飛び乗った。革ジャケットの背中にしがみつきながら問う。
「どうして助ける? 教祖様は怒るんじゃないか?」
「教祖がキレる前に、俺様がテメェごとぶっ潰すだけさ!」
バックミラーに映るまんじの唇が歪む。
エンジン音が轟音となって返事の代わりをする。前方に再び黒い瘴気が渦巻き始めた。ナイトメアだ。あの異形の獣が闇から滲み出るように現れる。
「来いよ化物!」
まんじが急減速しながらハンドルを切る。バイクが横滑りし、俺は空中に投げ出された。瞬時に地面へ降り立ち――走る。
雪の上を疾駆する俺の掌から光線が走る。それは路面をなぞり、瞬時に迷路を生成した。