ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
バイクの咆哮が雪原を切り裂く。
俺はバイクの上で無理やり立ち上がった。
「なにしてんだてめぇ! 揺れるってば!」
まんじが振り向きざまに唾を飛ばす。彼女の額には血が滲んでいた。
「このまま突っ込むしかないだろ」
前方で雪煙が爆発する。ナイトメアの本体──あの肉塊が痙攣しながら近づいてくる。触手が鞭のようにうねり、雪を穿つ。
だが、それに対して、俺はそのままブレイカムゼッツァーにコミックカプセムを装填する。
そう、その手にあるブレイカムゼッツァーの銃口を真っ直ぐと向ける。
「狙いは外さない、一発で決める」
俺はブレイカムゼッツァーの引き金に指を掛けた。
指が汗で滑りかけるが構わない。
銃口には微かに青い粒子が集積している。
コミックカプセムの起動によるものだろう。
「お前に――」
声に出すつもりはなかった。なのに自然と言葉が零れる。
「希望の上塗り」
トリガーを絞る感触は思いのほか軽かった。
銃口から放たれたのは光弾ではない。
それはまるで原稿用紙を圧縮したかのような――無数のコマが束になって飛翔するような光景だ。
バシュウウウウン!
「……!!」
ナイトメアが喉を絞められたような悲鳴を漏らした。
触手がビクリと硬直し、全身を震わせる。
銃弾は奴の中央――肉塊の核心に着弾した。
そして、炸裂する。
ドォオオ……ッ!
一瞬だけ世界が色彩を喪失した。
雪も森も空も灰色に染まり、次の瞬間、極彩色の漫画コマが四散する。
四方八方へ拡散する各ページは、まるで現実そのものを改竄するように渦巻いた。
黒く爛れた皮膚が紙のようにペリペリと剥がれ落ちる。
内部から滲むのはどす黒い血液ではなく――インクの雫。
「わ……たし……は……?」
掠れた声で呻くナイトメア。
その輪郭がどんどん曖昧になり、輪郭線がブレはじめる。
触手の一本一本がインク瓶のように砕け散り、周囲を濃厚な藍色で満たした。
「私の……絶望は…………?」
瞳のような器官が上下に振れる。
「消えてゆく……?」
そして――弾ける。
爆発ではない。崩壊だ。
細胞ひとつひとつの結合が緩み、空気に解けてゆく。
音もなく溶けた肉体は墨溜まりとなり、地面に浸透して消失した。
風が凪ぎ、静寂が訪れる。
あとに残ったのは薄汚れた雪面と――
ぽつんと佇む真宮寺是清だった。
彼の額には汗の粒が光っている。
焦点が合っていない瞳が虚空を見つめている。
やがてふぅっと息を吐き出した。
「……僕は……いま……」
真宮寺の指が自分の胸元を押さえる。
そこにはかつての狂気の源泉であるはずの痣はない。
「姉さんのために……あんなことを……」
瞳に浮かぶのは疑問符ではなく――自責の涙だ。
「間違えたのですね」
涙腺が決壊したかのように水滴が頬を伝った。
そして、そのまま、消えていくのを見届ける。
「・・・協力はここまでだ」
それと共にまんじは、そのまま去ろうとする。
「・・・お前達は、結局、何をしたいんだ」
そう、問いかける。
だが、まんじは。
「私はただ、教祖の為にやる為だ。まぁもしもお前がこっち側に来たかったらんなら、歓迎するぜ」
「行くかよ」
「へっ、そうかよ」
そう、まんじもまた、その姿を消えていく。