ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「存在しない? どういう意味だ」
伊達が低く唸る。
「そのままの意味だ」
アイボゥがホログラムのように揺れながら答える。
「我々が追ってきた終天教団という組織は、実際には物理的な拠点を持っていない可能性が高い」
「馬鹿な」伊達が机を軽く叩く。
「潜入工作員の報告では、確かにリアルなアジトがあったと――」
「それが巧妙な偽装だったとしたら?」
龍木が割り込む。その右手が無意識に義眼を覆う。
「これまで判明した情報を整理してみましょう。まず第一に――」
龍木は指を一本立てる。
「終天教団のメンバーは基本的にSNSを通じて接触していました。リアルでの集合場所は常に移動式で固定されません」
次に二本目の指を立てる。
「第二に資金源。通常宗教団体なら実店舗での物品販売や寄付がありますが、彼らはすべて暗号資産で完結しています」
三本目の指。
「第三に情報拡散方法。SNSでの匿名性を利用し、一度投稿されたメッセージは即座に削除されるため、追跡不能」
「まるで幽霊みたいな連中だな」
伊達が舌打ちする
「ある意味、間違っていないな」
「はぁ?」
「現実世界で彼らを捉えようとすればするほど虚構に飲み込まれる。逆に言えば――」
アイボゥが空間にホログラムの蜘蛛の巣を投影した。
「彼らはデジタル空間こそが棲家なのかもしれません」
「つまり」
伊達が椅子を引いて立ち上がる。
「奴らは現実には存在しない集団だと?」
「正確には『物理的存在を持たない可能性』です」
龍木が慎重に言葉を選ぶ。
「例えば――」
突然タマが割り込んだ。ホログラム姿の彼女が空中を泳ぐように移動する。
「終天教団のメンバーと接触した捜査官の記録を見てみましょう」
スクリーンが分割され、複数の監視カメラ映像が表示される。どの映像でも教団員の顔がぼやけていることに伊達は気づいた。
「これが偶然ではないと?」
「偶然ではありません」
アイボゥが断定する。彼女の義眼部分が激しく回転する。
「これらの映像をクロマキー合成で分析した結果――」
ホログラム映像が切り替わる。教団員のシルエットだけが浮かび上がる。
「背景との境目があまりにも綺麗すぎる。まるでCG合成のような整合性だ」
「・・・・・・まさか」
伊達の口髭が震える。
「これらは実在の人間ではない可能性が高い。あるいは――」
アイボゥが一旦言葉を切り、深刻な表情を作る。
「人間でありながら、人間を超えた存在かもしれません」
「超えた存在?」
「かつて希望ヶ峰学園に存在した超高校級のプログラマー」
龍木が説明を引き継ぐ。彼の瞳孔が拡張した義眼の中で光が乱反射している。
「彼らの遺したシステム――アルターエゴに似た特性を示しているんです」
「アルターエゴ――!」
伊達が机を殴る。拳骨が木製の天板を軋ませる。
「確かに奴らのネットワーク構造は既存のものと全く異なる。まるで脳内信号網のようだと報告されていましたね」
「まさに」
タマが空中でタップするような動作で映像を次々と切り替えながら説明を続ける。
「この通信パターン、自己組織化能力、そして時間非対称性……どれも既知のコンピュータ科学を超えています」
「つまり」
伊達が低い声で呟く。
「終天教団は実際に肉体を持たない思念体のようなものだと言いたいわけか?」
「正確には」
アイボゥが冷静に訂正する。
「『肉体を持たないが人格を持ちうる存在』。あるいは――」
ここで彼女は決定的な一言を放つ。
「かつて希望ヶ峰学園に存在した『超高校級の才能』たちがデジタルコピーとして復活した存在かもしれません」