ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

91 / 251
素顔 Part6

足音がしない──

それがまず異常だった。

 

人工照明が点滅する廊下の先、俺は肩越しにそちらを振り返る。影が一つ。いや、影にしては“形が整いすぎて”いた。白衣にもスーツにも見えない、どこか“死後の礼服”めいた服装。

 

そして、静かに歩み出た男は微笑みもしないまま言った。

 

「……君、だね。ここの“夢”を乱しているのは」

 

世島犀人。

その名に聞き覚えがなくても、俺は本能で理解した。

──この男は危険だ。

 

「近づくな。お前、普通の人間じゃないだろ」

 

「普通、ね。うん……そう言われるのは、慣れてるよ」

 

犀人は首をわずかに傾け、まるで顕微鏡を覗く研究者のような目で俺を観察してくる。その視線は“人の表情を見る”のではない。

──データを見る目だ。感情より先に数値を測っている。

 

「ゼッツ。あれは興味深い能力だ。夢と現実の境界に干渉し、自身の構造まで変質させる……可能性が高い」

 

「どこでそれを──」

 

「知ろうと思えば、知れるさ」

その声は笑っていないのに、どこか満足げだった。

 

俺の喉がひくりと緊張する。

背中を汗が伝う。

 

犀人はポケットに手を入れ、

“わざと見せつけるように、ゆっくりと”取り出した。

 

黒と銀の筐体。

中心部に橙のラインが走る、禍々しいベルトデバイス。

 

それは、俺が使っているゼッツドライバーと似た物。

 

「あんた……それは」

 

「証明してあげるよ、僕が“普通じゃない”ってことを」

 

犀人は、今、ptpにベルトを当て、カチリと装着した。

空気が変わる。

この夢世界の“重心”が、男に向かって傾いていく。

 

まるで空間が彼を中心に回転し始めたみたいだった。

 

「やめろ、世島犀人……!」

 

警告の声など、まるで最初から届いていなかった。

 

犀人は胸元をゆっくりと引っ掻く。

黒い拡散波のような粒子がベルトに吸い込まれていく。

 

低く響く音声。

『イレイス』

 

視界が一瞬だけ暗転し──

次の瞬間、白いモヤが犀人の身体を包んだ。

 

「擬装──」

 

モヤが渦を巻き、男の輪郭を吸い込み、

背景へと“溶けて”いく。

 

ベルト以外の存在が消える。

風が逆方向に吹き込むような虚無が広がる。

 

『インヴォークナイトシステム』

 

残った空間からゆっくりと“誰か”が歩み出る。

金属音でも、呼吸音でもなく──

それは“死んだはずの鎧が動いている”ような音。

 

半透明の影の騎士が、色を得て、実体を帯びる。

 

胸が橙に光り、複眼が淡く点灯し、

黒と白銀のスーツが完成していく。

 

最後に、背中から蝶の残光が散った。

 

『イレイス』

 

立っていたのは、

──ノクスナイト。

 

生者とも死者ともつかぬ、無機質で不気味な影の騎士。

 

犀人の声が、機械的に歪んで響く。

 

「さあ、俺。

 君が“見るべき恐怖”を…正しく、教えてあげる」

 

俺は奥歯を噛みしめた。

敵意が冷気のように肌を刺す。

 

──これはただの敵じゃない。

ゼッツとは別の“夢の異物”だ。

 

そして。

これが、世島犀人との本当の戦いの始まりだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。