ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

94 / 250
神鳴 Part2

ゆっくりと瞼を開けると、白い天井が滲んで見えた。

しばらく呼吸を整えてから身体を起こすと、ベッドの傍で椅子に座り、静かにこちらを見ている人影があった。

 

……誰だ?

 

見覚えのない男が俺の目の前で微笑んでいる。年上で、落ち着いた雰囲気。敵意は感じないけど、状況が分からず胸がざわつく。

 

「あ、よかった。気がついたんだね」

 

穏やかで、どこか安心させる声だった。

 

「えっと……俺、あなたに……?」

 

問いかける俺に、男はゆっくり立ち上がって頭を下げる。

 

「初めまして。新希望ヶ峰学園の学園長、苗木誠です。万津くんのこと、ずっと心配していました」

 

その柔らかい笑顔を見た瞬間、胸の緊張が少しだけ解けた。

 

「が、学園長……!?」

 

思わず声が裏返った。さっきまで普通に話していた相手が、よりによによ新希望ヶ峰学園のトップだって?

頭が真っ白になり、気づけば反射的に布団を跳ね除けて正座していた。

 

「す、すみません! その……ご挨拶が遅れました!」

 

ガチガチに固まった俺を見て、苗木さんは軽く手を振った。

 

「そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ。僕は偉そうにしたいわけじゃないし、万津くんが無事ならそれで十分だから」

 

穏やかな笑みと声に、胸のあたりがじんわり温かくなる。

 

「むしろ、今はゆっくり休むことを優先してほしいな。つらい思いをしたんだから、ね」

 

その優しさに、張りつめていた背筋が少しずつ緩んでいった。

 

落ち着きを取り戻したはずなのに、胸の奥がざわついていた。

百田の顔が頭に浮かぶ。あの苦しそうな表情。あれを放っておけるわけがない。

 

「……行かないと。百田を……助けに」

 

ベッドの端に手をつき、立ち上がろうと力を込める。

けれど——足が震えた。まるで床に縫い付けられたみたいに、まったく動かない。

 

「……あれ……?」

 

身体が重い。精神的疲労のせいだ、と自分に言い聞かせる。

でも違う。胸の奥で何かが冷たく張りついていた。

 

あの瞬間。ノクスナイトの剣が迫った時の“死ぬ”という確信。

本気で、初めて、死を意識した。

 

その影が、まだ足に絡みついている。

 

「……怖い、のか……俺……?」

 

自分の声がこんなに震えているのを、俺は初めて聞いた。

 

 弱音を吐いた瞬間、苗木さんがハッとしたようにこちらを見た。

 その瞳は驚きでも同情でもなく、まっすぐに俺を見て――まるで、本当の俺を確かめようとするようだった。

 

「……万津くん。怖いって思うのは、悪いことじゃないよ」

 

 穏やかで、けれど芯のある声だった。

 

「僕だって……いや、多分、みんなだってそうだった。怖くて、震えて、逃げたくて。でも、その気持ちをごまかさないで向き合えた時に、初めて前へ進めたんだ」

 

 静かに、けれど確かに届く距離で、彼は続ける。

 

「君はもう十分頑張ってるよ。限界まで戦って、それでも誰かを助けようとした。その強さを、僕はちゃんと見てる」

 

 胸の奥がじわりと熱くなる。

 否定でもなく、慰めでもなく、逃げ道でもない。

 支えるための言葉だった。

 

「だから……もう少しだけ、君自身を許してあげてもいいんじゃないかな?」

 

 その言葉に、俺は気づかされる。

 俺が恐れていたのは“死”じゃない。

 助けられなかった自分を責め続けることだったのだと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。