ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
ゆっくりと瞼を開けると、白い天井が滲んで見えた。
しばらく呼吸を整えてから身体を起こすと、ベッドの傍で椅子に座り、静かにこちらを見ている人影があった。
……誰だ?
見覚えのない男が俺の目の前で微笑んでいる。年上で、落ち着いた雰囲気。敵意は感じないけど、状況が分からず胸がざわつく。
「あ、よかった。気がついたんだね」
穏やかで、どこか安心させる声だった。
「えっと……俺、あなたに……?」
問いかける俺に、男はゆっくり立ち上がって頭を下げる。
「初めまして。新希望ヶ峰学園の学園長、苗木誠です。万津くんのこと、ずっと心配していました」
その柔らかい笑顔を見た瞬間、胸の緊張が少しだけ解けた。
「が、学園長……!?」
思わず声が裏返った。さっきまで普通に話していた相手が、よりによによ新希望ヶ峰学園のトップだって?
頭が真っ白になり、気づけば反射的に布団を跳ね除けて正座していた。
「す、すみません! その……ご挨拶が遅れました!」
ガチガチに固まった俺を見て、苗木さんは軽く手を振った。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ。僕は偉そうにしたいわけじゃないし、万津くんが無事ならそれで十分だから」
穏やかな笑みと声に、胸のあたりがじんわり温かくなる。
「むしろ、今はゆっくり休むことを優先してほしいな。つらい思いをしたんだから、ね」
その優しさに、張りつめていた背筋が少しずつ緩んでいった。
落ち着きを取り戻したはずなのに、胸の奥がざわついていた。
百田の顔が頭に浮かぶ。あの苦しそうな表情。あれを放っておけるわけがない。
「……行かないと。百田を……助けに」
ベッドの端に手をつき、立ち上がろうと力を込める。
けれど——足が震えた。まるで床に縫い付けられたみたいに、まったく動かない。
「……あれ……?」
身体が重い。精神的疲労のせいだ、と自分に言い聞かせる。
でも違う。胸の奥で何かが冷たく張りついていた。
あの瞬間。ノクスナイトの剣が迫った時の“死ぬ”という確信。
本気で、初めて、死を意識した。
その影が、まだ足に絡みついている。
「……怖い、のか……俺……?」
自分の声がこんなに震えているのを、俺は初めて聞いた。
弱音を吐いた瞬間、苗木さんがハッとしたようにこちらを見た。
その瞳は驚きでも同情でもなく、まっすぐに俺を見て――まるで、本当の俺を確かめようとするようだった。
「……万津くん。怖いって思うのは、悪いことじゃないよ」
穏やかで、けれど芯のある声だった。
「僕だって……いや、多分、みんなだってそうだった。怖くて、震えて、逃げたくて。でも、その気持ちをごまかさないで向き合えた時に、初めて前へ進めたんだ」
静かに、けれど確かに届く距離で、彼は続ける。
「君はもう十分頑張ってるよ。限界まで戦って、それでも誰かを助けようとした。その強さを、僕はちゃんと見てる」
胸の奥がじわりと熱くなる。
否定でもなく、慰めでもなく、逃げ道でもない。
支えるための言葉だった。
「だから……もう少しだけ、君自身を許してあげてもいいんじゃないかな?」
その言葉に、俺は気づかされる。
俺が恐れていたのは“死”じゃない。
助けられなかった自分を責め続けることだったのだと。