ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
気づけば、視界が滲んでいた。堪えていたものが、もう抑えられなくなっていた。
「……俺、死にたくないっす……。怖いです……正直、またあのまま落ちていく感覚なんて、もう……二度と味わいたくない……」
声が震えて、情けないと思った。でも、止められなかった。
「でも……それでも……百田君を……友達を……このまま見捨てるなんて、もっと嫌なんです……。助けられなかったって思いながら……何もしないで、生き残るのだけは……俺は嫌なんです……」
両手が強く握りしめられて、爪が手のひらを刺す。痛いのに、まだ足りない。自分の弱さが、悔しくて仕方なかった。
そんな俺の真正面で、苗木さんはゆっくりと、深く頷いた。
「……うん。怖くていいんだよ、万津くん」
優しい声だった。否定も、慰めも、押しつけもない。ただ、俺の言葉を受け止めるためだけの声。
「生きたいって気持ちも、助けたいって気持ちも……どっちも本物だよ。どっちも、君だからこそ出てくる大事な気持ちなんだ」
「苗木、さん……」
「恐怖を抱えているのに、それでも誰かを助けたいと思える。それは、逃げずに向き合っている証拠だよ」
その言葉に、胸の奥の硬くなった部分が少し溶けた気がした。
「百田くんも、戦っているよ」
苗木さんは、まるでその場に百田さんの姿が見えているかのような口調で言った。
「万津くんが必ず来てくれるって、きっと信じてる。絶望に飲まれそうになりながら、それでも踏ん張ってるはずだ。だって彼は——超高校級の宇宙飛行士で、誰より仲間を信じる人だから」
その言葉だけで、胸の奥が熱くなる。
「……百田くんが、俺を……?」
「うん。そしてね」
苗木さんは穏やかに続ける。
「伊達さんたちもソムニウムの外で必死に支えてくれてる。万津くんが戻ってくるまで、彼らは絶対に諦めない。君を信じて、戦っているんだ」
伊達さんの頼もしい背中が、脳裏に浮かんだ。あの人が自分のために動いてくれている事実が、なんだか胸を締めつけた。
「だからこそ——今は休むことも、戦ううちの一つなんだよ」
苗木さんの声は柔らかいのに、しっかりとした芯を持っている。
「無理に立ち上がって倒れるより、傷ついた心と体を少しでも癒して、またちゃんと向き合える状態に戻る方が……仲間たちもきっと安心する。百田くんだって、君がボロボロのまま飛び込んでくるなんて望まないよ」
そう言って、苗木さんは軽く微笑む。
「君は一度も逃げていない。だから、今くらいは休んでいいんだ」
その優しさが、胸に染みた。
苗木さんは立ち上がる前に、そっとポケットへ手を差し入れ、掌に乗るほどの小さなカプセル——いや、「カプセム」を取り出した。
「これを、君に渡しておきたいんだ」
淡い光沢を放つそれを、俺の手の上へそっと置く。
「それは……?」
「僕の“希望”を込めたカプセムだよ。昔、僕も仲間に支えてもらった。自分が折れそうな時、誰かの希望がそばにあるだけで前へ進めることがあった。だから今度は、僕がそれを君に渡したいんだ」
温かい言葉とともに、軽いはずのカプセムが妙に重く感じた。それはきっと、中に詰まっている…希望の重さだ。
「……苗木さん」
そう呼ぶと、彼は柔らかく笑う。
「無理はしないで。でも、君ならまた立ち上がれる。その時まで、それを持っていてほしいな」
そう言って、苗木さんは椅子を引き、静かに立ち上がる。
「少し休んだら——また話を聞かせてね」
そして、扉へ向かい、振り返って軽く手を上げた。
「大丈夫。君は一人じゃないよ」
ドアが閉まる音がやけに優しく響いた。
手の上のカプセムを見つめながら、俺はゆっくりと息を吐いた。温かい光を宿したその小さな球体が、今は唯一の支えのように感じられた。