ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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神鳴 Part5

 眠りに落ちた瞬間、世界が歪んだ。音も色もひしゃげ、次に気づいた時、俺はどこか見覚えのない廊下に立っていた。

 

 白いはずの壁は薄汚れ、蛍光灯は不規則に点滅している。胸の奥に熱のようなざわめきが走る。——ここは、苗木さんが語ってくれた“あの場所”だ。

 

 希望ヶ峰学園で行われた、コロシアイ学園生活。

 

 足が勝手に動き、教室へと踏み込む。そこには机が散乱し、まるで嵐が通り過ぎた後のようだった。黒板には無残に赤い文字で書かれた「オシオキ」。喉が乾く。話で聞いただけでも十分すぎる惨劇だったのに、こうして視界に広がるそれは、想像以上に胸を締め付けた。

 

 音がした。振り返ると、誰かが机の影で泣き崩れている。顔は見えない。でも分かった。——これは“記憶”だ。苗木さんが走り抜けた絶望の残滓。

 

 瞬間、場面が暗転し、次の景色が流れ込む。

 

 裁判場だ。円形の壇上。向かい合う生徒たち。憎悪と疑念と恐怖が入り混じった視線が飛び交い、その空気に思わず息を飲んだ。怒鳴り声がこだまし、誰かが机を叩く音が響く。

 

「そんなわけないだろ! 俺は——!」

 

「嘘をついてるのはどっちなの!?」

 

 声が刺さる。誰かが追い詰められていく。誰かが壊れていく。苗木さんはこんな狂気の場で、友達を、希望を、必死に守っていたのか。

 

 胸が苦しくなる。

 

 そして、また場面が切り替わった。

 

 薄暗い廊下。血の跡。誰かの悲鳴。誰かが倒れ、誰かが震えている。殺された仲間の名前を呼び続ける声が耳に刺さる。耐えきれず、俺は目をそらした。

 

 でも、意識の隅に苗木さんの声が浮かぶ。

 

——「僕は今でも、あの頃を引きずってる。でも、それでも前に進めるって知ったんだ」

 

 あの優しい言葉の裏に、こんな地獄があったのか。

 

 そして最後の場面。苗木誠が一人、暗い部屋で壁に寄りかかっていた。震える手を握りしめ、歯を食いしばり、それでも前を見ていた。

 

「……希望は、絶望になんか負けない」

 

 小さな声。だけど、強くて……痛いほど真っすぐだった。

 

 その瞬間、胸に熱が走った。俺は思わず手の中のカプセムを握る——夢の中なのに、確かな重さを感じた。

 

 気づけば涙が滲んでいた。

 

 苗木さんはこんな地獄の中で“希望”を掴んだ。その欠片が今、俺の中に届いている。

 

 だったら——俺も。

 

「……負けてられねぇよな、こんなの」

 

 呟いた途端、視界が白く弾け、夢の世界がゆっくりと消えていった。

 

 ……はっ、と息を吸い込んだ瞬間、天井が視界に広がった。

 

 見慣れた医務室の白。静かな空気。さっきまで肌に張りついていた冷たい絶望の残滓は——気づけば、どこにもなかった。

 

「……あれ、俺……?」

 

 身体を起こすと、わずかにシーツがこすれる音がした。壁の時計を見ると、針はほんの10分しか進んでいない。夢にしては濃すぎる。でも、長い時間を彷徨っていたような疲労が胸に残っているはずなのに、不思議と軽かった。

 

 むしろ——胸の奥に、小さく温かい火が灯っている。

 

 苗木さんから渡されたカプセム。あれを通して覗いた“絶望の底”。そこに立っていた彼の背中。あの強さ。

 

 思い返すだけで、胸が締めつけられる。でも、不思議と怖くはなかった。

 

「……そっか。あれを見ても、まだ俺は……」

 

 震えていない。呼吸も乱れていない。むしろ、心が静かに澄んでいる。

 

 あの地獄の記憶を乗り越えて前を向いた苗木誠が、俺に託したもの。その欠片が確かに、今の俺を支えてくれている。

 

「大丈夫だ。今度は……ちゃんと立てる」

 

 ベッドの縁に手をつき、ゆっくりと足に力を入れて立ち上がる。

 

 恐怖は確かにそこにあった。死にたくないという本音も、消えてはいない。

 

 だけど——それでも進める。

 

 百田が待っている。伊達さん達も戦っている。俺が行くと信じてくれている。

 

 だったら、答えないと。

 

 扉の方へ歩き出しながら、俺は小さく息を整えた。

 

「……もう、大丈夫だ」

 

 その言葉は誰に向けたものでもなく——けれど確かに、俺自身を前へと進めてくれた。

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