ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
医務室を出て一直線に向かったのは、百田が休んでいる部屋だった。
扉をノックすると、少し間があってから中から声が返った。
「……入っていいぜ、万津」
扉を開くと、そこにはベッドに腰かけた百田がいた。無理に明るく振る舞おうとしているのが分かる。けれど、その目の奥にはまだソムニウムでの恐怖と混乱が残っていた。
俺の姿を見るなり、百田は目を見開いた。
「おい……お前、起きて大丈夫なのか? ほとんど休んでねぇだろ。顔色だって——」
「大丈夫ですよ、百田君」
自然と、エージェント時代の癖が出る。口の端をわずかに上げ、いつもの“任務前の笑み”を浮かべていた。
百田は一瞬、言葉を飲み込んだように眉を寄せた。
「……なんだよ、その余裕そうな顔。さっきまでボロボロだったろ」
「まあ……そう見えたかもしれませんけど。今は平気です。ちゃんと立てます」
本当に、不思議なくらいに足はしっかり地に着いていた。あの絶望の残響が、もう俺を縛ってはいない。
百田は肩を落とし、ため息をついた。
「ったく……。心配したんだぞ。お前、倒れる時は派手なんだからよ」
「すみません。でも……安心してください。俺は行きます。必ずあなたを助けます」
言葉に迷いはなかった。
百田はしばらく俺を見つめ、それから弱く笑った。
「……なら、信じるぜ。お前は来るって、ずっと信じてたからよ」
その言葉に胸が熱くなる。だが今は、泣く時間じゃない。
俺はそっと拳を握りしめた。
「行きましょう、百田君。次は……絶対に負けません」
ゼッツドライバーの中央に手を添える。
深く息を吸い込み、己の迷いを完全に締め出す。
「MISSION——START」
ボタンを押した瞬間、視界が白く弾けた。
世界が反転し、音が、重力が、体の輪郭すらもほどけていく。
何度も経験した感覚だが、今日は違う。
胸の奥が静かに燃えている。
そして——落ちた。
次の瞬間、俺はソムニウム世界の虚空に立っていた。
重力が滅茶苦茶な空間。
宙に浮いた宇宙ステーション、割れた惑星模型。
漂い続ける破片の間を、光る“羽根”がゆっくりと舞っている。
その中心に——エンジェルナイトメアがいた。
ひび割れた天使の仮面。
内部からのぞく無機質な機械の眼。
背中の翼がゆっくりと羽ばたくたびに、周囲の破片がふわりと浮き上がった。
そしてもう一体。
暗い紫の残光を引きながら、宙に佇む黒い影。
その両眼は異様な冷たさを帯びている。
ノクスナイト——世島犀人。
あの男が、こちらを見て嗤った。
「来たか、万津獏……“また”俺の悪夢を覗きに」
エンジェルナイトメアが翼を広げ、ノクスナイトが武器を構える。
ここからが本番だ。
絶望が二つ、俺を待ち受けている。
——もう負けない。
俺はそう強く心の中で呟き、構えを取った。