ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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神鳴 Part7

「……もうすぐだよ、万津獏」

 

 ノクスナイト——世島犀人が、ゆったりと剣を掲げた。

 その声は、妙に楽しげで、底のない暗さを孕んでいる。

 

「百田解斗はまもなく絶望に墜ちる。

 “宇宙”も“夢”も全部奪われて、後は落ちるだけだ。

 お前がここに来た時には、もう——終わっている」

 

 その言葉に呼応するように、ソムニウム世界が軋み始めた。

 浮かんでいた建造物が次々と崩れ、ねじ曲がり、重力の方向すら狂っていく。

 空間そのものが、ノイズのように崩壊していく。

 

 百田の精神が限界に近い——それがはっきり分かった。

 

 だが俺は、震えなかった。

 心臓は静かで、呼吸も乱れていない。

 

 それどころか、自然と笑みすら浮かんでいた。

 

「……何を笑ってる?」

 

 世島の声に、軽い苛立ちが混じった。

 

「状況、理解できてるか? 仲間が絶望の縁にいるんだぞ。

 お前のせいで——」

 

「分かってるよ」

 

 俺は遮るように言い、彼を正面から見つめた。

 

 その表情を見た瞬間、世島はさらに目を細めた。

 

「……頭が壊れたのか?

 負けて、恐怖に潰れて、そのまま笑ってるだけじゃないのか?」

 

 俺は、ただ静かに息を吐いた。

 

「違う。

 ——もう怖くないだけだ」

 

 言葉と同時に、崩れゆくソムニウム世界の中、俺は一歩前へ踏み出した。

 ノクスナイトの仮面の奥で、世島がわずかに表情を変えた。

 

「だって……百田はまだ戦ってる。

 俺が行くって、信じてる。

 だから、ここからだろ?」

 

 そう言い切った瞬間、世界のノイズの中で、俺の心は一片の揺らぎもなかった。

 

挑発する声が響くたび、世界の崩壊は加速していく。

それでも、俺の中だけは不思議と静かだった。

 

「百田はもう終わりだ。お前の希望なんて――」

 

黙れ、と言い返すより先に、手の中のカプセムを見つめた。

苗木が渡してくれた、小さくて温かい“誰かの祈り”の形。

 

「……行くぞ」

 

俺はそれをドライバーに押し込んだ。

 

《HOPE》

 

だが――その刹那。

 

空気が、弾けた。

 

まるで“希望”が雷雲を呼び寄せたかのように、ソムニウム世界の空が裂ける。

 

ゴロォォォォォッ……!

 

ソムニウム世界では起こるはずのない天候変化。

世島が驚愕して声を漏らす。

 

「……は? 雷……だと?」

 

澄んだ音が鳴った瞬間、胸の奥で何かが軽く震えた。

けれど次の瞬間、その震えが世界の天井を裂くほどの轟きへ変わる。

 

ゴロゴロゴロォォォォ――ッ!

 

空が割れ、蒼白い稲妻が渦を巻く。

それが、まるで俺を探し当てるように、一直線で降りてきた。

 

「Hope moves forward……

And as an Agent, I will complete the mission」

 

英語の台詞が自然に口をついて出たのが自分でも不思議だった。

言葉を言い切った瞬間――雷が俺を貫いた。

 

ドオォォォンッ!!!!

 

世界が真っ白に飛ぶ。

痛みは……ない。

むしろ、胸の中にある“何か”が共鳴している。

 

まるで雷が希望に引き寄せられたんじゃなくて、

希望の方から俺の中へ流れ込んできたような……そんな感覚。

 

握っていたはずのカプセムが熱を帯び、形が変わっていくのがわかった。

中から何かが“目覚める”ような、そんな鼓動。

 

次の瞬間、俺の身体は光に飲まれ、一瞬で消えた。

 

――光だけがある。

――俺は、どこだ?

 

視界のない世界で、雷の脈動が皮膚の内側に流れ込む。

全身が電流に生まれ変わるような、そんな感覚。

 

そして――。

 

バチィィィィンッ!

 

稲妻が弾け、光が裂けた。

 

そこに立っていたのは……たぶん“俺”なんだけど、

同時に“今までの俺じゃない何か”でもあった。

 

白と蒼の光を引き連れた輪郭。

皮膚の下を走る感覚はまるでプラズマそのもの。

 

ただひとつ確かだったのは――

俺の中の恐怖は完全に消えていた。

 

代わりにあるのは、前へ進むための“強烈な意志”だけだった。

 

「なっ」

 

『グッドモーニング! イ・ナ・ズ・マ!ライダー!ゼッツ・ゼッツ・ゼッツ!プラズマ!』

 

そう、そうして、この場に現れたのは、これまで見た事のない黄色のゼッツへと変身した。

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