ちょっと10000字は1話にまとめ辛い。
・事件の後始末
白衣の男……キョウチクトウが消え去り、木陰に隠れていたアカリと合流してしばらく経ってからトキワシティからジュンサーさんたちがやってきた。
その間にトラックを探した結果、もう1人の男はトラックの運転席で泡を吹いて気絶していた。
シャンデラの影で縛っていた男もしばらく暴れていたが同じように泡を吹いて白目を剥いていたので同じ薬を使われたのだろう。
幸いにして死んではいないが……さて、この状態から治るのだろうか、という不安はあれどボクたちにできることも無いし、あとはジュンサーさんたちに任せるしかないだろう。
それからピチューたちは元の群れに戻すとして、ヒメグマだけは元は別の場所に生息していたのだろうし、親のリングマの件もあるので一端ボールに入ってもらって研究所に送ることにした。
博士に連絡を取るとリングマは現在治療中だが、幸いにして治療可能な範囲であるとのこと。ただ後遺症などがないかなども調べないといけないため1ヵ月くらいは研究所にいてもらうことになるらしい。
だったら子供が傍にいたほうが大人しいだろうと博士も了承してくれたので後はそちらに任せることにする。
ただリングマに使われた薬品に関してはオーキド博士も知らない薬品であり、ボクたちが出会ったあの白衣の転生者、キョウチクトウ本人、或いはその関係者が独自に制作した神経毒の類であると博士は見ているそうだ。一応知りあいの専門家にも調べてみてもらうつもりではあるが、既存の薬物であるとしても絶対に合法的なものではない、とそれは断言していた。
―――ワシとてこんなものを作ったやつらが許せん、じゃが気を付けるんじゃぞ、こんなことをする連中など危険過ぎる。できれば関わらんほうが良いし、いざという時は自分の身を最優先にするんじゃ。
そんな博士の心配に深く頷きながらも考える。
果たしてあそこでキョウチクトウと戦って勝てただろうか?
正直そんじょそこらのトレーナーには負けることはない、と思っている。
だが同時にあの男はそんじょそこらのトレーナーの枠には入らないだろう。
何せ使っているポケモンからして尋常じゃない。
あの頭にかぶっていたベールに擬態していた存在ウツロイドはポケモン……らしき生物だ。
少なくともゲームのシステム的にはあれもポケモンということにはなっているが、現実においてあれをポケモンと呼ぶのかボクは知らない。
なにウツロイドというポケモン
ウルトラビースト、と総称される
ウツロイドはそのウルトラビーストの1種であり、
だからあの男がウツロイドを出した時、一瞬その精神が寄生されて歪んでいるのかとも思ったが……。
今思い出してみてもキョウチクトウの言動は一から十までおかしなところだらけだが、精神を侵されたようなチグハグな言動というものは無かったように思う。
それにウツロイドが寄生しているならこんなところで悪質なポケモンハンターの真似事なんてしているのも妙だ。
となるとあの男はウツロイドに寄生されているわけではない、寧ろウツロイドを従えているということになる。
正直そちらのほうがもっと厄介だ。
先も言ったがウツロイドは生命体に寄生して精神を変調させるという生態がある。
そんな能力を持ったポケモンを、あんな倫理観の欠片も無さそうな男が使っている。
はっきりいってどんな風に悪用されたものか分かったものじゃない。
というかリングマや男たちに使った薬、もしかしたらウツロイドの毒を元に生成されたものなのでは?
そう考えてぞっとする。
真っ当にポケモンバトルをするならば負ける気はしない。
例えウツロイドを使われたとしても、だ。
だがバトル中に不意をついてあの薬品を使われたりすれば……。
そう考えればやはり見逃された、と考えるのが正しいのかもしれない。
正直言えば関わり合いになりたくない。
だがボクはすでに顔を覚えられた。同じ転生者だと気づかれ興味を持たれた。
なによりあんなやつが地元カントーで好き勝手しているなんて放っておけるはずが無い。
だから旅の中でキョウチクトウがやっただろう事件を見つければボクは放っておけない。
ただ同時にあの危険な男とアカリを会わせたくない。
けれどアカリは今回の一件で声は聞こえずともキョウチクトウの後ろからやり取り自体は見ている。キョウチクトウが薬物を使った主犯であることも予想しているだろう。
そして一連の事件の犯人であるキョウチクトウに怒りを燃やしているだろうことも予想できた。
結局ボクがどう思おうとアカリはあの男を見つければ戦うだろう。その時ボクにできるのは隣に立ってアカリと一緒に戦うことだけだ。
―――強くなりたいなあ。
かつて
けれど今度は
強くならなければならない、と。
* * *
・こねずみちゃんが仲間になりたそうにこちらを見ている
「あちゃあ……」
森の木々の隙間からでも見えるすっかり真上まで登った太陽を見て嘆息する。
予定では林道を進んでとっくに半ばは超えているはずだったのだが、林道を逸れて走り、さらにそこからピチューたちを群れまで返すために戻って来たので推定だがまだ全体の2、3割ほどしか進んでいないだろう。
今からニビまで抜けるのに果たしてどれだけ時間がかかることか。
もう一度嘆息し、アカリに一度トキワに戻るか、一泊覚悟でニビに向かうかを尋ねようとしたその時。
「ピチュ!」
別れを告げて去っていったはずの群れのほうから1匹のピチューが走って来る。
よく見ればまだ包帯の残るその姿は、ボクたちが森の入口で助けたピチューだった。
「どうしたの?」
「ピチュ! ピチュチュ!」
手をぶんぶんと振り回しているようだが何を言っているのか分からずアカリのほうを見やると、アカリが一つ頷いてピカチュウに声をかける。
早速ピカチュウがピチューの前に降り立って両者が数度会話するとピカチュウが頷いてアカリの元へと戻ってぴかぴかと何かを告げる。
「ピチューが、一緒に行きたいって」
ピカチュウの言葉を翻訳してくれたアカリが言うのはそういうことらしい。
とはいえすでにピカチュウをゲットしているアカリなので、新たにピチューをとはならないだろうしそうなると必然的に。
「ボクで良い?」
「ピチュ!」
自分を指さしながらモンスターボールを片手に構えると、ピチューが笑みを浮かべ頷きそのままジャンプしてボールのスイッチにタッチする。
直後ピチューの体が光となってボールに吸い込まれ、ボクの手の中で2度、3度と揺れるとそのままゲットが完了した。
早速ボールから出してやり。
「これからよろしくね?」
「ピチュー!」
互いに告げるとピチューがぴょん、とジャンプしてボクの体を登り頭の上に乗る。
まだ怪我も治ってないのに元気だなあ、と思いながらも懐かれて嫌な気はしないのでまあ良いかと思うことにする。
リングマやヒメグマはノーカンとしてこれで手持ち3体目。イーブイともトキワシティでちょこっと相手をしたけどまだまだ信頼が紡げていないので相手をしなければ……。
まあそれはそれとして先ほどまでの話題に戻して。
「それでアカリ、今からニビシティに行くのだとちょっと時間が危ないんだけど、どうする?」
「んー」
先ほどアカリに聞こうと思っていたことを訪ねれば、アカリが少し悩む。
多分戻ると言うと思っていたので悩んでいる姿をちょっと意外に思って尋ねてみれば、アカリ的にはもうこの森でポケモンを捕まえるつもりは無いらしい。
いまいちピンとこない、らしくだったらさっさと森を抜けてニビシティへと向かいたい気持ちはあるらしい。
「やっぱり時間が問題かあ」
「ピチュ? ピチュピチュ!」
一端戻ってバスに乗るという手も、と考えていると頭の上でボクの独り言を聞いたピチューがてしてしと頭を軽くタッチしながら何やら鳴いている。
どうしたの? と聞いてもボクには分からないのでまたアカリのピカチュウに翻訳してもらったところ……。
「近道がある?」
「ピチュ!」
ニビシティに行くなら近道があるよ! とのことらしい。
最短ルートの林道があるのに近道なんてどこに? という疑問はあれど自信満々なピチューに従って森の中をしばらく歩いて行くと、たどり着いたのは森を流れる川だった。
幅が10メートルくらいはある結構大きな川であり、流れも速い。『なみのり』でも覚えたポケモンがいればともかく、普通に渡ろうとしても渡れないだろう。
だがどうやらここが終着点だったらしく、ピチューが川岸で足を止める。
「……えっとここからどうするの?」
「ピチュ~♪ ピチュチュ! ピチュチュ!」
尋ねてみたが、まあ任せといてよ、みたいな顔で頷かれ、そのまま川のほうへと何かを呼びかけるように鳴き声を発する。
そのまま十秒、二十秒と経過するが何も起こらない。
どうしよう、という内心のままに思わずアカリと顔を合わせた……直後。
「グワォォォォォォォォォォォォ!!!」
川の中に黒い影が一瞬見えた、と思った瞬間水面から『きょうあく』ポケモンギャラドスが顔を覗かせた。
それも普通のギャラドスではない、全長10メートル近いかなり巨大サイズでありもしかするとこの川のヌシなのかもしれない。
ギャラドスといえばとにかく凶悪、かつ凶暴で有名であり思わず身構えてしまうが川岸でピチューが笑みを浮かべて手をぶんぶんと振っているのと見て止めた。
「グワォォン?」
「ピチュ! ピチュチュ! ピチュー!」
何か用事か? といった、思ったよりずっと理性的な表情のギャラドスに手をぶんぶんと振り回しながら何かを伝えているピチュー。
そのまま両者がしばらく話をしていた、と思ったらギャラドスが頷いてその巨体を川岸につける。
「ピチュ! ピチュチュ!」
「え、乗れってこと?」
ピチューがギャラドスを指さしてそのままぴょんと乗るのを見て、そういうことなのか? と尋ねればその通りと言わんばかりにピチューが頷く。
少し怖かったが、それ以上に何とも面白そうな気配がして。
「えっと、じゃあよろしくね」
「……ん、よろしく」
そっとギャラドスの体の上に乗るとアカリも心なしいつもよりワクワクとした表情でギャラドスに乗った。
全員がしっかり体に掴まっていることを確認したギャラドスが一つ咆哮を上げ、そのまま水上を滑るように泳ぎ始めた。
その巨体に見合わない静かな泳ぎだが、その速度はボクたちが歩くよりずっと速い。なんなら体感だがバスに乗るのと同じくらいの速度があるのではないだろうか。
乗っている間にピチューから受けた説明によれば、このギャラドスは思った通りこの川のヌシであり、森全体から見てもかなり上位の存在らしい。
ただ本来凶暴なはずのギャラドスだったが歳を得ることに理性的になっていき、森でも最年長クラスとなった今では滅多に怒らない優しいおじいさんみたいな存在らしい。
そのお陰か未進化の精神的に幼いポケモンによく懐かれていて、森の中でのご意見番というかパワーバランスの調整役みたいになっているお陰で森のみんなから慕われているらしい。
ギャラドス自身も森の仲間たちを大切にしており、先の事件でピチューたちの群れを助けたことでボクたちはピチューたちの恩人として扱われており、その縁もあってこうして川伝いに運んでくれているのだとか。
「温厚なギャラドスとか珍しいね」
「ん」
ギャラドスといえば往々にして暴れん坊、というイメージが強いし実際だいたいのギャラドスがそんな存在なので大人しい、温厚なギャラドスなんて初めて見た。
だが温厚だからといって決して弱いというわけではないのだろう、実際この巨体を見ればバトルにおいてどれほどの強さを秘めているか想像するに恐ろしい。
そうして森の中の川を遡っていくこと三、四時間、ギャラドスが降ろしてくれたその場所は最早森の出口と目と鼻の先だった。
「すごい……これなら夕方にはニビシティにたどり着ける」
「ん、ありがと」
「ピチュピチュー!」
「ぴかぴか!」
みんなでギャラドスに感謝しながら手を振れば、良いってことよ、と言わんばかりに一度咆哮してギャラドスが去っていく。
朝から心底嫌な気分にさせられていたが、森での素敵な出会いに今はウキウキで胸がいっぱいだった。
高揚した気分のままにアカリと共に森を抜けてニビシティへと向かう。
そうして一時間もしないうちに見えてきたのは。
「……ん???」
「ん?」
「ぴちゅ?」
「ぴかぁ?」
広がるニビシティの街並み。
ゲームほど狭くは無いがトキワシティを見た後だと一歩見劣りするなあ、というくらいの規模の街。
だがそこに明らかに一つ、異質なものがあって―――。
「ねえ、アカリ」
「ん?」
ニビシティの街並みの中で明らかに頭一つか二つ抜きんでて背の高いそれは。
「あの城、何?」
「さあ?」
どう見たって日本風な城だった。
フリーダム転生者パイセンの予感。