・懐古厨転生者先輩曰くカタカナなのがポイント
―――天を突き、高くそびえ立つこの城を、人は「タケシ城」と呼ぶ。今まさに、この城を巡って、壮絶なる戦いの火蓋が切られようとしていた!
ニビシティにやってきて、適当な人にあの城って何ですか? って聞いたら答えがこれだった。
ニビシティの北西に聳える城。城といってもいわゆる天守閣の部分だけであり、それっぽい外観で名称に城ってついてるだけで別に城として使われていたとかそんなことは無いらしい……ならなんでそんな紛らわしいことを、とは思う。
現在この城(城ではない)を舞台に町おこしのイベントをやっているらしく、先程の文言はイベントのポスターなどに載っているキャッチコピーらしい。
イベントのポスターももらったがさっき聞いた文言と共にイベント詳細が書いてあった。
イベントは大まかに分けると4種。
1つは城の周辺に設置されたアスレチック施設を巡るパルクール系競走『風雲!タケシ城』
1つは城の中で行われるポケモンバトルの大会『タケシグランプリ』
1つは採掘場での石の発掘大会『ここ掘れタケシ』
1つは専用エリアで行われるフリーマーケット『タケシマーケット』
……なんだろうこのタケシ推し。ニビシティだから?
なんかこう……匂うんだよなあ、転生者先輩の気配が。
まあそれはさておいて、イベント期間は一週間でありどうやら今が3日目で半ばくらい。
名前はともかく企画自体はどれも面白そうではあるのだがすでに夕暮れなので先に宿を探さなければならない。
そういうわけでまずはポケモンセンターを訪ねる。
以前にも言ったことだがゲームだとただの回復ポイントな場所だが、実際にはポケモンリーグ後援の正規トレーナー支援施設というのが正しい。
無料でのポケモンの回復は資格の有無に関わらずできるのだが、それ以外にも正規トレーナー資格を持つ人間に限り食堂や宿泊施設が無料で使える。
イベントごとの真っ最中らしく通常の宿は観光客で賑わっているらしいがさすがに正規トレーナーだけが使えるポケモンセンターのほうは空きがあった。
問題は発掘大会のほうで希少な進化石やポケモンの化石なども出土することがあるらしくそれらを目当てにトレーナーが結構集まっているようで空いているのが1部屋だけだということだ。
―――別に一緒でも良いよ?
2人いるのにどうしようと頭を悩ませているボクに、隣でアカリさんが言った一言がそれである。
いやさすがにダメだろ、と1部屋だけ宿を取って他に空きが無いかと探すがどこもかしこも予約でいっぱいらしく結局空きは無し。
それでもさすがに……と思うボクをアカリが面倒そうな表情で引っ張って連れ込んだことでなし崩し的に同じ部屋で泊ることになった。
……この子いつになったら男女の機微とかそういうの覚えるんだろう。
果たしてこの子に思春期が来る時があるのだろうか、そんなことを思ってしまうくらいに気にしないアカリ。
いや、まだ10歳なのだからそんなものなのだろうか? ボクが気にし過ぎなだけ? と思ったが卒業前の小学校のクラスメートを思い返すとやっぱアカリが特別気にしないだけな気がする。
1つしか無いベッドで一緒に寝ようと言われた時はこの子に羞恥心は存在しないのかと本気で思った。
のだが。
―――ん、お願い。
珍しく引かないアカリに首を傾げる。
そうしてようやくその変化に気づく。
ベッドに腰かけるアカリの僅かな震え。いつも無表情だから気づかなかったが、それでもいつもより強張りのある表情。
そこまで気づいてようやく理解する。
ああ、そっか。
―――怖かったよね。
アカリの隣に座り、その頭を膝の上に転がす。
考えてみれば転生して思考が随分と年不相応だと自覚しているボクですら今朝のあの事件には背筋が凍るような思いをしたのだ。
離れたところから見ていただけとはいえ、まだ年相応……或いは年齢よりも幼いかもしれない純粋さを持ったアカリからすればあんな事件に出会えば、そしてあの男の狂気に片鱗でも触れてしまえば、恐怖したっておかしくはない。
ボクは昔アカリのことを『主人公』だと思った。
それは今でもそうだ。
正しくは『主人公』のような女の子だと思っている。
でもボクはこの世界に『原作』があるなんて思っていない。
この世界はどこまで行っても『現実』なのだ。
だからアカリもまた『主人公』のような才能に溢れた……ただの女の子だ。
無意識的にアカリを特別視していたのかもしれない、そのことに今気づいた。
同時にアカリがどこまで行っても10歳の女の子でしかない、そのことに気づかされた。
眩しいくらいの才能に恵まれた、けれどどこまで行ってもただの子供だしかないのだと。
ゆっくりとアカリの頭を撫でる。
お風呂上りの髪は先程ドライヤーで乾かしてあげたばかりでまだ少し温もりが残っている。
指で梳いた髪からは先程ボクも使ったばかりのシャンプーの香りがして。
―――おやすみ、アカリ。
気づけばボクの膝の上で寝息を立てるアカリに苦笑し、そっと呟いた。
* * *
・ここ掘れチューチュー
朝からアカリと2人でアスレチックを楽しむ。
トレーナーというのはバトル中立って指示をするだけなので別に運動なんてできなくて良い、と世間では思われているが実際には結構ハードワークだ。
まずポケモンを捕まえるのに野生のポケモンとバトルする必要がある、だがそもそも野生のポケモンがその辺にいるわけではないので野生環境まで自ら赴く必要がある。
中には昨日通ったトキワの森のように人の手の届かない場所に自らの足で通う必要もあるわけだが、そんな野生の世界で体力切れした人間が1人……さてどうなるかという話だ。
勿論そんなゲットばかりではない、だがそれ以外でもポケモンのトレーニングをするにも体力は必要になる。
当たり前だが突っ立って指示を出しているだけでポケモンを一から十まで管理できるわけが無い。しかも手持ちの数を増やせば増やすほどにあっちこっちと動き回る必要がある。
実際エリートトレーナーと呼ばれるところまで行けば手持ちのトレーニングでトレーナーは一日中走り回ってコーチングする必要が出てくるので当然体力は必須になる。
さらにいえばバトル中もそうだ。
突っ立っているだけ、といっても目の前でポケモン同士が激しい技のぶつけ合いをしているのだ。
当然技の余波だって飛んで来るし、そんな場所で突っ立っているだけでも精神的疲労は大きい。そんな中で味方の動きを観察し、相手の動きを予測し、その上で適切な指示を出していく……これを6対6でやるととてつもない消耗があるのは理解できると思う。
リーグに挑むようなトップトレーナーたちのバトルが1戦1戦がフルマラソンを走るような疲労に襲われるとされる。
体力が無いとポケモンより先にトレーナーがバトルについていけなくなることになるのだ。
そういうわけで以前からボクもアカリも体力だけはしっかりとつけている。
その上で互いに運動は嫌いでも無い性質であり、マサラタウン周辺の足場の悪い自然の中で遊んでいたのでアスレチックなどお手の物……と言えれば良かったのだが。
「背丈はさすがにどうにもなんないよね」
「……ん」
ボクもアカリも同年代の中ではそれほど体格が良いほうではない。
年齢を考慮すれば運動はできるほうだと自負はしているが、物理的に背が足りないというのはこういうフィールドアスレチックだとどうしても不利になってしまう。
最終的に良いところまではいったがあと一歩足りない、で終わった。
まあ参加賞と到達報酬みたいなのでお菓子をもらったので後で手持ちの子たちと分けて食べるとする。
因みにこの時この城(not城)に関してとんでもない事実を知ったのだが……まあこの話は後日分かるだろう。
午後からは採掘大会に出る。
バトル大会も興味はあったのだがどうやら今やっているのは正規トレーナー資格を持たない一般人が趣味でやっているようなバトルらしく、正規トレーナーが出るような大会は5日目以降かららしい。
別に出れなくはないのだがイシツブテやポッポ、キャタピーにコラッタが一生懸命戦っているフィールドでアカリのピカチュウやボクのシャンデラを出すのはさすがに場違いが過ぎるのでその辺は自重した。
ピチューやイーブイを出すことも考えたが、ピチューはまだ傷が完全に癒えたわけではなく、イーブイもまだ生来の臆病さを考えるとバトルはまだ早いかなと判断している。
ポケモンは生物なのでゲームのようにどんな性格でも捕まえてすぐに何の支障も戦える、というわけにはいかないのだ。
ゲームだと性格は能力補正や味の好みくらいの意味くらいしか無かったが現実だと『いじっぱり』ならトレーナーの指示を聞きづらいし、『おくびょう』ならバトル中に怯みやすくなったりする。
そういうところを考えずゲーム気分で無理矢理戦わせようとするとポケモンからの信頼を失ってしまう……そうなればトレーナーとしては致命的だ。
なにより嫌がるポケモンを無理矢理バトルさせようとするのは気分が悪い。
まあそういうわけでバトル大会は後回しにして先に採掘大会に向かう。
「良い石出るといいなあ」
「ん」
ニビシティは岩山の麓にある山間の街である。その影響か特産品として良質な石や進化の石、それに化石なども発掘されたりしている。
イベントの現場である採掘場はそんな麓の街から少し山を登ったあたりにあり、入口の受付で落石防止のためのヘルメットとピッケルを借りると早速中を歩いてみる。
あちらこちらでポケモンを連れたトレーナーらしき人たちが山肌の岩壁を掘っているのを見やりながらさてボクたちはどこでやろうかなと周囲を見渡す。
上手く人がいない露出した岩壁を見つけ、この辺で早速掘ってみようかと思ったその時。
「ピチュ! ピチュピチュ!」
「……どうしたのピチュー?」
突然ボールからピチューが飛び出してきて、両手をぶんぶんと振り回しながら何かをアピールする。
相変わらず何を言っているのかは分からないが、振り返りながら手をこまねいているので多分ついてきてほしいということだろうと案内を任せるままに歩く。
「どこに行くのかな?」
「ぴか! ぴかぴか~」
「ん……何か感じ取ったみたい、って」
感じ取ったって、何が?
と思いつつちょこちょこと走っていくその背を追う。
山の崖下の道なのでとんでもなく足場が悪いのだがピチューが比較的歩きやすい道を選んでくれるお陰でそれほど苦も無くその場所にたどり着く。
「ピチュチュ!」
「え、ここ?」
ピチューが案内してくれたのは崖が一部崩れたのか岸壁の一部が大きく凹み、その足元にごろごろと砕けたのだろう岩が転がった場所だった。
ちょっと奥まっている場所のためか、はたまた壁が崩れてしまっているためか、この辺りに人はいないらしく半ば借り切り状態だった。
取り合えずピチューが何かを感じてここに来たのなら、多分何かあるのだろう、と崩れた壁面を見てみるが特に何かあるということは無い。
いやボクは別に石の専門家というわけではないのでこの崩れた岩壁の部分が何か意味があるのだとしてもボクには分からないのだが。
それはともかくとしてボクが岩壁のほうを見ている間にピチューはちょこちょことそこら中に落ちている崩れ落ちた石の塊を探していた。
どうやらアカリと共に来たピカチュウもここまで来ると何かを感じたようで同じように崩れて落ちた石のほうを見て、パチパチと頬から電気を弾けさせている。
「……そっちに何かあるの?」
「んー?」
崩れた石といっても子供の体で抱えるほどの大きさがある、当然ながら重量は相応だ。
そんな石が見渡す範囲でごろごろと……上に積み上がったものだけでそれだ、下にあるものまで合わせるとちょっと途方も無い数である。
ぱっと見て特に変なところはない、ただ普通に崩れた大きな石、というだけだが……。
「ピチュ……ピチュ!」
「……ふむ」
何かを見つけたと言わんばかりにピチューが耳をピコピコと動かし、転がっている石の一つをてしてしと叩く。
試しに割ってみるか、と借りてきたピッケルを叩きつけてみる、が。
「かったぁ!」
先っぽが僅かに食い込む、がそれ以上に手の反動が凄い。
思わず一振りで止めてしまったが、さすがに子供の力でこれは無理だと悟り、アカリに目配せする。
「ピカチュウ」
「ぴっか!」
視線に気づいたアカリが頷いてピカチュウに指示を出すと、ピカチュウが飛びあがって『アイアンテール』で岩を叩き割る。
バコン、と硬い音をたてて石が割れる……が中には特に何も無い。
首を傾げるが、ピチューは割れた石に目もくれずにさらにその下を叩く。
半分になった石をアカリと2人で横にどかしながら次の石もまたピカチュウに叩き割ってもらうと……。
「あ、これ」
「……ん」
割れた岩の中にあったのはNの字を斜めにしたような特徴的な模様のある色の薄いエメラルドのような緑っぽい石。
手で持ってみるとピリピリとした電気の力を感じるこれは―――。
「『かみなりのいし』だね」
「ピチューが探してたの、これ?」
「だろうね」
石の中から出て来た『かみなりのいし』を見てピチューが両手をぶんぶんと振って喜びを露わにしているので間違い無いだろう。
進化の石というのは『タイプエネルギー』の塊だ。
例えば『かみなりのいし』なら落雷などで強烈な『でんき』タイプのエネルギーが鉱石を変質させて誕生する。
ピチューが感じ取ったのは『かみなりのいし』が発する僅かな『でんき』タイプのエネルギーなのだろう。
「因みにアカリはいる?」
「……ピカチュウ?」
「ぴーかー」
「いらない」
「そっか……ならこれもらっていいかな?」
「ん」
「ピチュー! ピチュチュ!」
「ふふ……お手柄だね、ピチュー」
「ピチュー!」
ふんす、と得意げな顔をするピチューにボクは苦笑した。
風雲たけし城って令和にまたやってたらしいね、調べてて初めて知った。
因みに進化石の設定とか独自です。
進化の石の放射線によって遺伝子が刺激されポケモンが進化、とか書いてあるけどじゃあその進化の石ってどこにあってどうやってできるんだよっていうのは特に書いてないんだよね……。
アニポケだと岩壁崩したらそこから『かみなりのいし』が出て来てたからじゃあそういうことで、というわけでこの作品ではそういう設定でいきます。