・タケシ城の正体
3日続いたバトル大会も終わりを迎え、ニビシティには一気に静けさが戻ってきていた。
これが一週間続くお祭りの反動なのか、それとも取り戻した平素なのか普段を知らないボクたちには分からないことだが、先日までの賑わいが嘘のように通りを歩く人の数は激減している。
祭りの余韻とでもいうべき先日までの熱狂がどこか残っている気がして、現実との差異に不思議な感覚を覚えながらアカリと並んで城みたいな外観をした城のような間取りの城としての用途を持たない城ではない城へと向かう。
こちらに来た初日は驚いたものだが、すでにこの街で5日も過ごしていればすっかり見慣れてしまった。特に後半3日は毎日ここに通ってバトルをしていたのだから中の間取りだって覚えてしまっていた。
そして2日目にはこの城について重要な情報を耳にしていた。
この城の用途というか役割というか。
いや、もう勿体ぶっても仕方ないので言うが。
このタケシ城……ニビジムなのだ。
いや、分かる。何言ってんだ? と思うだろうが、けれど今ニビシティにゲームに出て来たようなニビジムは無いのだ。
多分本来はニビジムがあるはずだったんだろう場所にタケシ城が建っていて、その城主……というか建物の主としてジムリーダーの『タケシ』がいるのだ。
因みに『タケシ城』の主は『タケシ』でなければならないという謎のルールがあるらしく、ニビジムのジムリーダーについた人間は『タケシ』を襲名するらしい。
―――絶対に転生者先輩の仕業だよこれ!!!
確信してしまったが、とにかくなんで城の中に大会が開けるくらいにバトルができるコートがいくつもあるのか、というとそういう理由らしい。
ただまあ分かると思うが昨日までの祭りのせいでジム戦は受付ストップ。祭りの終わった今日から再開らしいので早速アカリと申し込みに行っているというわけだ。
そういうわけで早速ジムを訪れ、入口の受付でジム戦の申し込みを済ませる。
マサラタウンを出た時はスタートダッシュで追い抜かしてきた同期たちもこのお祭り期間中に追いついてきたらしく、朝それなりに早く来たと思ったのだがすでにジム戦の挑戦待ちのトレーナーが十数人並んでいた。
これは待たされるかな、と思っていると受付の人曰くジム戦前にジムテストを受けてもらう必要がある、とのこと。
ゲームにそんなのあったっけ、と思ったがどうやら『トレーナーとしての知識や経験』を試すことである程度ジムリーダーに挑戦できる人数をふるいにかけるらしい。
特に各地で新人トレーナーが増えるこの時期は無策にジム挑戦して何もできずに負ける子供というのが多いらしい。
ジムリーダーにとっても、挑戦する側にとっても時間の無駄にしかならないので最低限戦うに値する相手を見定めるためにも今代のジムリーダーの『タケシ』が制定したらしい。
まあ確かにジムの役割というのはトレーナーの実力を確かめることなので、それ以前のレベルの相手をふるいにかけるというのは理に適っているかもしれない。
そういうわけでまずはジムテストを受けることになり、アカリとは別れ案内に従って2階の一室に案内される。
あったのはなんというか……学校の教室?
一番手前の壁に黒板に取り付けられており、教卓のようなものがあって、その前にずらっと机と椅子が並んでいる。
教卓の前にジムトレーナーらしき人がいて、目の前に座るように促されるので座ると、ではテストです、と黒板に用紙を貼り付ける。
内容としては4択クイズで、ポケモンのタイプ相性に関してが多かった。
例えばニビジムは『いわ』タイプを専門とするジムだが『いわ』タイプが弱点となるタイプ、逆に『いわ』タイプに弱点となるタイプなどだ。
要するにジムリーダーとやる前にタイプ相性くらい分かってて来てるんだよな??? ということだと思う。
まあ新人トレーナーが無策にもらったままのヒトカゲとか出しちゃったんだろうなあ……とかゲーム時代のあるあるを思いながらすらすらと答えていく。
所詮は初歩的な知識だ。ただ成り行きでトレーナーになったのならばともかく、明確にトレーナーになると決めて勉強してきたボクやアカリからすればなんら難しい問題でも無い。
詰まることも無く全問正解すると合格を言い渡され、3階へと案内される。
そのまま言われた通りにバトルコートに赴くと先ほどとは別のジムトレーナーが他の挑戦者相手にバトルをしていた。
ジムトレーナーのイシツブテが挑戦者のポッポを正面から倒し、続くコラッタ、トランセルと立て続けに倒す。
最後の望みとばかりに出したゼニガメだったがフィールドを縦横無尽に『ころがる』イシツブテに攻撃を当てることができずに、加速度的に威力を増した一撃がゼニガメを吹き飛ばし一発で『ひんし』となった。
そうして挑戦者が不合格を言い渡されて去って行き、ジムトレーナーに呼ばれたのでコートへ降りる。
どうやらジムトレーナーと戦って勝てばそのままジムリーダーに挑戦できるらしい。
因みにバッジ2個以下の挑戦者は6体までポケモンを使って良いらしい。
そうして相手がイシツブテを出してくるのでこちらもこの数日ですっかり傷も癒えたピチューを出す。
一瞬相手のジムトレーナーが『こいつもタイプ相性とか考えてないのか』というような呆れた表情をする。
まあ先ほどのトレーナーを見ているとそう思うのも無理ないかもしれないが……。
バトル開始を言い渡された瞬間、ピチューが走りだし『てんしのキッス』を放つ。
ピチューは未進化ポケモンというだけあり全体的に能力は低めだが、それでもイシツブテよりずっと素早いポケモンだ。
イシツブテが動き出すより先に接近し、放たれた技が見事にイシツブテに命中する。
『ころがる』を指示されたイシツブテだったが、『てんしのキッス』により軽度の『こんらん』状態に陥ったせいで方向感覚があやふやであり、てんで的外れなほうへと転がって行ってしまう。
転がる勢いのままイシツブテが壁にぶつかってしまい、ダメージは無かったがそれでもその勢いが完全に止まる。
その瞬間を待っていたとピチューが走りだし、アカリのピカチュウから習った対ジム戦用の技『くさわけ』がイシツブテにクリーンヒット。
以前にタイプ相性は有利不利の一因にしかならないとは言ったがそれでも弱点ダメージが……それも4倍弱点のダメージが減るわけではない。
防ぐことすらできずに直撃した『くさ』タイプの一撃はいかに能力の低いピチューだろうと致命的なダメージをイシツブテに与える。
特性『がんじょう』*1の可能性も考えてピチューに追撃の準備をさせていたがどうやら『いしあたま』のほうだったらしくイシツブテが目を回して『ひんし』になった。
* * *
・ジムリーダー『タケシ』
ジムトレーナーがイシツブテをボールに戻し、合格を言い渡される。
そのまま5階へと向かうように言われたのでバトルに勝ったピチューを褒めながら階段を登っていく。
5階はどうやらかなり大き目のワンフロアらしく、あるのはこの城で一番大きなバトルコートだった。
ちょうどジムリーダーのタケシらしき男が挑戦者と戦っており、挑戦者の出したフシギダネがタケシのイワークに叩き潰されるところだった。
自らの切り札を潰されて挑戦者が顔を青くして去っていくのを見やりながら、ふとフィールド外周の客席にアカリがいるのを見つける。
入れ替わりに入っていく次の挑戦者を眺めながらアカリの元へと行くと、アカリがこちらを見つけてまたフィールドに視線を戻す。
そんな愛想の無さもいつものことなので気にせず隣に座り、一緒になって観戦する。
「どんな感じ?」
「……3人くらいは勝ってた」
「そうなんだ」
挑戦した総数が分からないので3人というのが多いのか少ないのか分からないが、まあここから見ている限りジムリーダーというだけあってかなり強いので多分少ないのだろう。
あのイワークは本当にすごい。ゲームの知識のせいでどうしても能力的に弱いポケモンに見えるが、実際は全長10メートル弱で200キロ超えの岩の怪物がピチュー以上の素早さで動いて襲って来るのだ。あの尻尾で叩かれるだけでも大抵のポケモンからすれば十分なダメージになる。
『こうげき』とか『とくこう』とかいう能力はあくまで技の威力を決定づけるものであり、技以外には関与しない。
アクションゲームなどで例える分かりやすいが、ステータスは必殺技の威力を上げるものであって、通常攻撃のダメージを上げるのはシンプルなウェイトとパワーであり、『こうげき』とは物理攻撃の威力に関わるものであって、筋力とは異なるのだ。
ゲームだと技を撃ちあうだけだったのでボク自身昔は誤解していたが、普通に殴り合ってもダメージというのは発生するし、なんだったら一度も技を撃たなくてもポケモンはポケモンを倒せる。
故に質量というのはシンプルに恐ろしい。
あの硬度の高そうな岩肌の長い尾をぶん殴られるだけでピチューなんて軽々と吹き飛ばされるだろうし、巻きつかれ拘束されればなす術が無い。
そんな質量の怪物にジムリーダーという司令塔がついてさらにトレーニングによって様々な技術が仕込まれているのだ。
位置取り、技の出し方、相手への近づき方、相手の様子を見て離れるタイミング、そういう戦闘中の様々な判断をあのイワーク自身が仕込まれた技術と経験でやっているからこそトレーナーも伸び伸びと指示が出せる。
「あれだけ仕込まれてるのにレベルは低いってすごいよね」
「……ん、職人技」
なのにレベル自体は20あるかないかくらいだ。
逆にいえばレベル20程度の未熟なはずのポケモンにそれだけのことを仕込める育成能力があるということである。
ジムリーダーの凄さというのもまざまざと見せられているような気分だった。
「うーん、ピチューだときついかなあ」
「ヒトカゲも、相性悪い」
となるとイーブイもまだバトルはできないし、選択肢は1つになってしまう。
「受けてくれるかな?」
「……ん」
あのイワークは確かにすごいのだが、レベルの暴力というシンプルな理屈の前だとそのすごさは一切発揮されなくなってしまう。
別にバッジを取るだけならそれでも良いのだが……。
「どうせならジムリーダーの本気バトル、やってみたいよね」
「……んっ」
心なしか語気が強くなった気がするアカリの同意。
ジムリーダーというのは四天王を除けば間違い無く地方のトップトレーナーに位置する存在だ。
そんなトップトレーナーのガチメンバー戦ってみたい、その力の一端を味わってみたいと思うのも仕方ないことだと思う。
そうして次々と挑戦者たちが掃けていき……やがてアカリの番となる。
* * *
・最強系オリ主アカリちゃん
初手は当然のようにピカチュウが取った。
ジムリーダーであるタケシもまたアカリの肩に乗るピカチュウの強さを感じとっており、それがジム戦用に調整した個体では話にもならないという事実にも気づいていたが故に特別に自身の本気の面子の中でも一番信頼を置くイワークを出した。
ジムリーダーの本気の面子だけあって、そのレベルは推定でもピカチュウを軽々と凌駕する。
その上で当然のようにピカチュウが先手を取った。
『ばちばちアクセル』を応用した超高速の直線移動。まるで瞬間移動のようなその速度でイワークの背後を取り、飛びあがる。
『アイアンテール』によって硬質化した尾がイワークへと振り下ろされる、がタケシが咄嗟にイワークに声をかけ、その打点をずらす。
直撃コースが逸れそのままイワークの肌を滑らせるようにして逃れる絶技にも等しい業でダメージをほぼ皆無に抑え、迂闊に飛び込んで来た相手を締め上げろとその長い胴体でピカチュウへと『まきつく』。
だがそんなものは分かっていたとばかりにピカチュウが再度『ばちばちアクセル』を駆使しイワークの体を蹴って逃れる。
そのまま二度、三度とバックステップ。
イワークとの距離を離す。
あの胴に巻き付かれると厄介だとピカチュウ自身が理解していた。
他のポケモンなら『でんき』技で強引に引きはがすことも考えれたが『じめん』タイプを持つイワークにそれは通用しない。
だが離れたならそれでも構わないとタケシがイワークに次の指示を出す。
イワークが咆哮をあげればピカチュウの真上に大量の岩が生成され『いわなだれ』となって降り注ぐ。
その場にいれば巻き込まれるとピカチュウが走りだし……それを予想していたとイワークがその進路へと先回り。
「捉えろ!」
タケシのその一言にイワークが逃がさないとばかりにピカチュウをぐるりと囲む。
だが―――。
「……結んで」
アカリが呟いた一言でピカチュウが飛びあがり、同時にイワークの周囲から伸びた蔦がその体を絡めとる。
「『くさむすび』か!」
さすがジムリーダーというべきか、その技の正体に即座に気づく、がもう遅い。
迂闊に近づき過ぎたせいですでに完全に蔦に絡めとられたイワークの体が横転する。
鈍重な音をたてフィールドが一部陥没する。
4倍弱点、しかもイワークの質量をそのまま利用するようなその一撃にさしものイワークも致命的なダメージを負った……と思われたが。
「っ!」
最早動くこともできないと思われたイワークだったが、大ダメージを与えた一瞬の油断、その不意をついてその尻尾が伸びる。
その尾がピカチュウを絡め取り、あっという間に胴体が『まきつく』。
その巨体がピカチュウの小さな体をぐいぐいと締め付けて―――。
ぱん、とピカチュウの体が破裂するように消滅した。
「……『みがわり』か」
ぽつり、とタケシが敗北を理解しながら呟く。
いつの間に、そんなことを一瞬考えたが……。
「落として」
端的な、けれど明確なアカリの指示に
イワークの驚異的な『ぼうぎょ』からすればそれは弱点であることを考えてもけっして大それたダメージではなかった、だが。
「……よくやった、イワーク」
すでに『ひんし』寸前だったイワークにトドメを刺すには十分だった。
タケシの手持ちはだいたいレベル85~90くらいです。
なんか作中でリンくんちゃんが四天王で70くらいとか言ってた気がしますが、それは殿堂入り用の舐めプ編成であって本気なら100超えくらいですので単純にリンくんちゃんの勘違いですね。
決して異次元ミアレでレベル100超えてたしじゃあうちも超えるか、とか言うノリでチャンピオン含めトップトレーナーのレベル4~50くらい引き上げたとかそんな理由じゃないです(目そらし