さてはオリ主だなオメー???   作:水代

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ジムバッジでポケモンが指示を聞くようになるってどういう理屈?

 

 

・決着ニビジム戦

 

 

 残された時間は短い。

 与えられたチャンスは少ない。

 逆転の目はほぼ無い。

 

「それでも皆無じゃない」

 

 笑いが込み上げてくる。

 元より自分はアカリほどにはバトル一本というわけでも無かったはずなのだが……敗北の可能性を突きつけられた今、どうしようも無くそれを否定したくなる。

 おかしな話だ。アカリとのバトルの戦績は大よそ同じくらい。つまり勝った数と同じくらい負けているはずなのに。

 アカリに負けた時、次は負けないようにと考えても負けそうなことにここまで焦ることは無かった。

 なのに今、自分がこれほどまでに焦燥感に駆られている事実に自分で驚く。

 

「勝ちたいな……勝ちたいなあ……ねえ、キミはどう思う?」

 

 ごうごうと吹き荒ぶ『すなあらし』に刻一刻と残り少ない体力を削られ続けるシャンデラを見やり、残り少ない時間が1秒、また1秒と削れていくのを自覚しながら、それでもまるで休日に今日一日何しようと尋ねるくらいにの気安さで。

 シャシャ、と疲れた声で、それでも笑うシャンデラにそっか、と納得したように一つ頷いて。

 

「もう相手は待ってれば勝てる状況だ。相手が無理することは無い。逆にこちらは最大火力を急所に当てないと勝てない。それ以外の勝ち目はない……()()()()()()()()()

 

 言い聞かせるように1つ1つ、状況を滔々と語る。

 

「だから相手はそれだけを注意してる。逆に言えばそれ以外は注意していない。だって他のことに気を取られて急所を取られたら本末転倒だからね」

 

 まさに状況は絶望的だ。もう半ば詰んでいるような状況。

 

「ここからの反撃は難しい。相手が絶対に決めさせてくれない急所に最大打点を叩き込む必要があるんだから、まあ無理ゲーだよね」

 

 だからって諦める? いやいや、そんな馬鹿な話あるわけがない。

 

 だって―――。

 

「―――アハッ。ここから逆転決めたら……最高に面白くない?」

 

 ボクのそんな問いかけに、シャンデラが笑った。

 

 

 

 * * *

 

 

 動く必要は無かった。

 ただ待っているだけで勝ちが転がり込んでくるのだから。

 逆に言えば黙って待っていれば相手は負けるのだから必ず相手側は動くのだが、だからこそどっしりと待ち構えていれば良い。

 イニシアチブを向こう側に渡すことになるが、ドサイドンとは本来そういう戦い方をするポケモンなのだ。

 寧ろ下手に隙を見せて反撃の機を渡すほうが不味い。

 

 ジムリーダーとは本来チャレンジャーの力を試すのが役割だ。

 

 故にジム戦でこんな詰ませるような戦い方本来ならば不味いのかもしれない。

 だがどうしても好奇心が抑えきれなかった。

 まだ年若くしてこのタケシ城の長となり、タケシの名を継いだ男をして異質とすら思えるような若さでタケシの本気と当然のようにぶつかり合って来る2人の子供。

 先ほどは速度差で完全に翻弄されて負けた。

 相当な練度(レベル)のピカチュウだと分かっていてもどこかまだ新人の子供と思っていたタケシの油断をぶった切るような高速戦闘。

 

 一瞬の虚を奪い合うような高速戦闘において必要なのは注意深く相手を見逃さない観察力、そして目まぐるしく変化する状況に対応し最善手を導き出す思考。

 なによりそれらを正常に発揮するための集中力。

 先ほどのバトルではタケシの油断によって集中力を欠いた。そのせいであっという間に追い詰められて負けてしまった。

 

 自分の本気の面子を使ったにも関わらず相手を甘く見た。

 

 それはジムリーダー以前にトレーナーとしてあまりにも相手を馬鹿にした対応だったとタケシは深く反省する。なにより共に戦ってくれたイワークにも悪いことをしてしまった。

 だからこそ、次の相手は最大限の警戒を持って当たる。

 

 最早子供と甘くは見ない。

 自分と同格のトレーナーと思って全力を尽くす。

 だからこそ今、試すためではない。勝つための戦いをしている。

 そしてそれは功を奏し相手は完全に追い詰められた。

 すでにドサイドンに急所をがっちりとブロックさせている現状で負け筋は無くなったといって過言ではないだろう。

 

 本当にそうだろうか?

 

 なのにどうしても頭の中でそんな疑問が消えない。

 『すなあらし』は確かに状況を決定づける一撃となった。

 だが同時にこの砂の中に相手の姿を隠してしまって―――。

 

 果たして今、この向こう側であの子供はどんな表情をしているのか。

 

 ―――アハッ

 

 ごうごうと唸りをあげる『すなあらし』の中で、ふと笑い声が聞こえた気がした。

 いや、気のせいだろう、そんなことを思うより速く。

 

「シャンデラ!」

「シャシャ!」

 

 砂の嵐を切り裂いて、相手が飛び出す。

 

「耐えろ! ドサイドン!」

「ッサイ!」

 

 『すなあらし』で視界が悪くなっているせいで近づかれていることに気づかなかったが、けれど真正面から来てくれたお陰で対処が間に合った、後は攻撃に耐えて反撃の一撃を―――。

 

「……真正面?」

 

 その違和感に気づくと同時に、シャンデラからゆらりと鬼火にも似た揺らめくエネルギーが飛び出しドサイドンに降りかかる。

 

「何?!」

 

 攻撃技ではない、即座にその事実に気づく。

 『おにび』で隙を作りに来た?

 そんな思考も過ったが即座に否定する。

 

「ドサイドン!」

 

 今のは『()()()』じゃない!

 

「撃て!!!」

 

 タケシの指示にドサイドンが即座に応え、すでにチャージを終えたその両の手をシャンデラに向け……がくり、とその体が大きく揺れた。

 

「今! 縛って転がせ!」

「シャシャ!」

 

 何が起こった?!

 その言葉がタケシの口から飛び出すより先に、状況を予測していた相手が動く。

 体が揺れた……否、全身の力が一瞬抜けてしまったドサイドンを引きずり倒すように影が伸び、その頭部に巻き付いて引っ張る。

 当然力の入っていない状況、そして体が揺れた瞬間だ。いくらドサイドンの重量でも重心がズレ……そのままドサイドンがフィールドに転倒する。

 

「なっ! ドサイドン!」

 

 直後にドサイドンの体から先ほどシャンデラが放った『おにび』にも似た何かが抜け出てシャンデラへと戻ると、途端にシャンデラが一気に精力を盛り返した。

 HP(体力)を奪われた、その事実にすぐに気付くと同時に今使われた技を理解する。

 それを使えること自体は知らなかったが、けれどタケシとてプロのトレーナーだ、『ゴースト』タイプのポケモンにそういう手があることは知っている。

 

「『いたみわけ』か……っ!」

 

 簡単にいうなら自分と相手の体力を分け合う技だ。

 大ダメージを負っていたシャンデラとほとんどダメージを受けていなかったドサイドン。

 なによりタフさが売りのドサイドンの膨大な体力を大きく奪われた。

 

 先も言ったがタケシはシャンデラがそれを覚えることは知らなかった。

 だが『ゴースト』タイプにそういう選択肢があることは知っていた。

 当然ながらそういうことをしてくる可能性については考慮していた。

 

 だがその上でその選択肢を排除して相手の急所狙い一本に絞った。

 

 その理由は単純だ。

 

「だがそれでは勝てないぞ!」

 

 シャンデラは初手で『まもる』を使っている。

 それが無く、残りの技枠が2枠だったならそれは致命的だったかもしれない。

 だが今の『いたみわけ』でシャンデラにはドサイドンに致命的なダメージを負わせることができる技は無くなった。

 逆にドサイドンは大半の攻撃でシャンデラを一撃で落とすことができる。

 

 大ダメージを負うことが無いと分かっているのならば、ドサイドンならば技を食らいながら反撃すれば良い。

 

 つまりこの選択肢はどう考えても悪手―――。

 

「シャンデラ! 燃やせ!」

 

 転倒したドサイドンが起き上がろうとするより速く二の手が飛んで来る。

 放たれた『ほのおのうず』がドサイドンを取り巻き、じわじわとその身を燃やす。

 

「無駄だ! ドサイドン、立ち上がってシャンデラにトドメの一撃だ!」

 

 タケシの指示に従ってドサイドンが自らを拘束する影を振り切って起き上がる。

 先ほど撃とうとした『がんせきほう』のエネルギーはすでに散ってしまったが最早相手に怖い攻撃は無い、悠々と溜めて一撃を放つためにその両手を掲げる。

 

「撃て!」

 

 たっぷりと時間をかけてチャージした『がんせきほう』がシャンデラへと狙いを定め、放たれる。

 

「『まもる』!」

 

 直後にシャンデラの展開したバリアと岩の砲弾が激突し、けれどバリアを砕くことも無く砲弾は防がれる。

 

「最初の焼き直しだな! 今度は防がせんぞ! ドサイドン! 『ロックブラスト』!」

「ッサイ!」

 

 『まもる』のバリアが徐々に消えていく中で、ドサイドンが咆哮をあげながら岩の弾丸を放つ。

 

「最後の賭けだよ……行くよシャンデラ」

 

 迫りくる岩の弾丸、その一発ですら今のシャンデラには致命傷に等しく。

 故に状況を打破するための選択肢は1つしか無かった。

 

「『まもる』!」

「なにっ?!」

 

 シャンデラが再びバリアを生み出そうとする。

 その事実にタケシが驚愕するが、何せ『まもる』とは多大なエネルギーを使って素早く展開できる代わりに消耗が激しい故に連続で展開することができない技とされている。

 

 ただしそれは正しくは展開『できない』ではなく展開『しにくい』と言うべきだ。

 

 ゲームにおいて『まもる』が連続で成功する確率は約33%。

 

 分の悪い賭けではある、だが。

 

「ふふ……やるね、シャンデラ」

 

 成功させてしまえばほとんどの技を防ぐ万全の盾が生まれる。

 

「……だがそれとて意味は無い! 3度目は無い、ドサイドン!」

 

 驚愕するタケシだったが、だからどうしたと気炎を吐き、再びドサイドンに指示を飛ばそうとし―――。

 

 

「そうだね、3度目は無い、よ」

 

 

 視線の先、その巨体が崩れ落ちた。

 

 

 * * *

 

 

 ・廃人ロードマップ

 

 

 ゲームにおいて、ポケモンとは数値で全て管理された存在だった。

 だが現実においてポケモンを数値化することほど難しいことは無い。

 

 例えばゲームにおいて全てのポケモンは『種族値』『個体値』『基礎ポイント(努力値)』の3つの数値でその能力を絶対数で評価されたが、現実においてそこには大きな問題点がある。

 

 ―――評価基準だ。

 

 例えばゲームにおいてレベル50のシャンデラのHPは最大値が165だが、じゃあ現実においてこの165という数値は何を基準にして出しているのか、ということになる。

 簡単にいえばHP数値の1とはどのくらいの値を指すのか、ということだ。

 

 『こうげき』のステータスの1とはどのくらいで、『すばやさ』ステータスの1の違いとはどのくらいなのか。

 

 基準が無いから絶対評価ができない。

 常に相対評価であり、なのに種族ごとに能力値の傾向が異なり、さらに個体ごとに能力の成長度合いが異なり、さらに基礎ポイントによってそこからさらに細々とした差異もでる。

 果たしてこんなものどう数値化すれば良いのか。

 

 だから基本的にこの世界のトレーナーはポケモンの能力というものを感覚で補って見ている。

 ポケモンの状態を見てまだまだ元気そう、だとかちょっと余裕が無さそう、だとかもうちょっとで『ひんし』になる、だとかゲームだと数値化されていた残りHPというのは常に自身の体感で見ているが故に詳細が分からない。

 

 逆に実機時代のポケモンをある程度以上知っているとポケモンバトルとは深みに立ち入れば立ち入るほどに数値的なものが重要になってくることを知る。

 

 とまあそんなことは置いておいて、今回の勝因を語るならば。

 

 『やけど』と『ほのおのうず』のスリップダメージの量が違うことにタケシが気づかなかったことだ。

 

 実機を知る転生者からすれば『やけど』のスリップダメージが最大HPの1/16ダメージ、『ほのおのうず』などの拘束(バインド)系の技のスリップダメージが最大HPの1/8であることは知識として知る通りだ。

 だが先も言ったがこの世界においてダメージとは可視化されないし技の仕様なんてある程度以上は自分で確かめるしかない。

 

 『やけど』や『ほのおのうず』で常時ダメージを受け続けることはタケシも知っていただろう。

 だがそのダメージ量が2倍くらい違うという事実はさしものジムリーダーも知らなかった。

 

 そしてこれもある程度以上ゲームのポケモンバトルに精通すると理解できるあるあるだが。

 

 ポケモンの残りHPやダメージを割合やパーセンテージで見る。

 

 例えばH振り*1シャンデラに対してA振りいじっぱ*2ドサイドンの『がんせきほう』はX%~Y%のダメージ、といったような。

 

 ただしゲーム時代においてこれはレベルと個体値が同じという条件で導き出される計算であり、そもそもレベルも個体値もバラバラで直撃とカス当たりでもダメージが変わる現実においてはあまりアテにならないのだが、考え方自体は割と有用だ。

 

 『ほのおのうず』はレベル差や相性を考えれば大雑把に3%程度削れれば良いとする。

 ただしそのスリップダメージは耐性無視の1/8、つまり約12%。だいたい数秒拘束できればこれだけのダメージが通る。

 さらに『やけど』のダメージがその半分で約6%。

 つまり技を1度撃ち合うくらいの時間を1ターンと換算してその間に与えるダメージは18%。

 

 さらにここでドサイドンに与えたダメージを大雑把にでも計算してみる。

 最初のほうで『ほのおのうず』が1回……ただしスリップダメージをほとんど受ける前に脱出されたので3%~4%くらい。

 その後に『やけど』状態にしてそこから2回攻撃を受けたので2回分のスリップダメージで12%~13%。

 『すなあらし』でギリギリまでシャンデラのHPを削るのに様子見に1手費やしたので『やけど』で6%くらい。

 つまりここまでで20%前後くらいのダメージ、そこで『いたみわけ』したのでこの時点でドサイドンのHPは40%少々といったところ。

 そして『いたみわけ』の直後に転倒させて一手稼いで『やけど』で6%で残り34%。

 『ほのおのうず』で3%前後。タケシが今度は移動させるよりこちらを落とすことに固執したのでまともに拘束によるスリップダメージが入って一気に12%くらい。

 さらに『やけど』で6%削れてもうこの時点で残り13%くらい。

 この時点での攻撃を『まもる』で防いだので実は次が実質ラストターンだった。

 

 そして最後の『まもる』でドサイドンの攻撃を防ぎ、『やけど』と拘束スリップダメージで『ひんし』。

 

 最後の『まもる』が失敗していればその時点で負けだったので、本当にギリギリの戦いだったと思う。

 アカリみたいな綺麗な勝利ではない。

 こんなスリップダメージ頼りの害悪的なほどの戦法。

 

 だがそれでも。

 

「ボクの勝ち、だね」

 

 ―――今はそれで良い。

 

 勝った、その歓喜だけがボクの胸を満たした。

 

 

*1
HPに努力値を最大値まで振っている状態。

*2
『こうげき』に努力値を最大まで振っている、なおかつ性格が『いじっぱり』(こうげき1.1倍補正)になっている。




個人的に『ポケモン世界に廃人が行って廃人知識で無双』とか否定的なんですよね。
だって実数値を確認できない。
固体値も確認できない。
レベルも確認できない。
HPも分からない。
コンディションなんかで能力値も変化する。
ゲームと違ってバトル中の思考なんて数秒しかない。

こんだけゲームと違うのにただゲームに詳しいだけの人間が当然みたいに無双できるわけねえだろ、って思うわけで。

そもそもの話として。
努力値ってゲームだとポケモン倒すと獲得するけど、基本的にプレイヤー以外は振ってないのってゲーム的都合だし、じゃあ現実世界のトレーナーは基本全員努力値振られてると考えるとプレイヤーがポケモン世界に行っても大してアドバンテージ無いと思う。

ただゲーム的思考ってのは切り口としてはアリだと思うんですよね。
個人的に今回みたいなゲームロジカルな思考は転生者のアドバンテージだと思う。
まあそれも良し悪しなんだけど……。

いやまあ勝つだけなら『気合で耐えて気合で急所にぶち当てろ!』で勝てるんだけどね?
でもリンくんちゃんってそういうキャラじゃないから……。
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