・ゆうていみやおうきむこう
おはようございます。
というわけで明けて翌日のこと。
昨日は何故かマサラタウン近郊にいた野生のピカチュウをゲットしたわけだが、当然ポケモンをゲットするということはそのポケモンの生活に対して責任を持つことだ。
マサラタウンに戻ってからアカリの家に寄ってその辺のことはしっかりと説明したし、アカリもまたポケモンを大切にするだろうから心配はしていないが、それはそれとして今日はアカリと共にオーキド研究所に向かう。
今更な話だが昨日捕まえたピカチュウは『野生』のポケモンだ。
というかなんだったらボクのヒトモシだって野生のポケモンだ。
まあなんかボクのヒトモシに関してはあまりそういう感じは無いが、例えば前世において『野生動物』をそのまま捕まえて家に連れてそのまま飼う人はいただろうか?
まあ居なかったと……或いは少数派だったと思う。
単純に法律的に飼育できる動物が日常の範囲にあまりいないというのもあるが、じゃあ野良犬や野良猫なら飼うか、と言われるとまあ大半の人はペットショップに行く。
何よりも野生環境で過ごしている動物だとどんな病気を持っているかも分からないし不衛生だから。
ポケモンは普通の動物よりよほど強靭で頑丈な体を持っているがけれど頑丈なだけで別に病気知らずというわけでも怪我知らずというわけでも無く、野生環境だとどんな状態になっているのか分かったものでは無い。
そういうわけでだいたいの人は捕獲したポケモンに目立った怪我や病気があればポケモンドクターに、そうでなければポケモンセンターなどで一度は検査してもらう。
とはいえマサラタウンはゲームでもそうだったがポケモンセンターが存在しない。
カントー地方で『タウン』以上の規模でポケモンセンターが無い街など他には無いと言って良いほどに珍しい話である。
まあマサラタウンは初心者トレーナーが旅立つ側の場所であって、ポケモンジムなどが無いので仕方ない側面もあるのだが。
そういうわけもあってこの辺りだとオーキド研究所でポケモンの健康チェックをしてもらえる。
予約などは今朝母さんがやってくれたらしいので、後はそのまま行けば良いとのことで朝からアカリの家に迎えに行き、二人で研究所へ向かった。
因みに以前も言ったがオーキド研究所は同じ地区にあるので割と近い。
なんだったら学校へ行くよりは近いのだが残念ながらボクはあまり行ったことが無い。
記憶が戻る前だったのもあるけれど、ポケモンと触れ合いたいだけなら家に母さんの手持ちたちがいる。
それに父さんがオーキド研究所で助手をやっているのであまり子供が職場に遊びに来るのも良く無いだろう、と母さんに止められていたのもある。
あとアニメだとオーキド研究所と言えば広大な庭にたくさんのポケモンがいたが、この世界においてはその役割は近くにある『マサラパーク』に取られている。
ゲームにもアニメにも無かった施設だが、簡単に言えばポケモンの保護施設のようなものだ。
イメージとしてはポケモン版の動物園に近いだろうか?
サファリパークも同じようなものだがあちらと違ってパーク内で保護しているポケモンを捕獲することはできない。
代わりに仲良くなれば引き取ることはできるようだが。
学校帰りの放課後や休日に子供たちが良く寄っている場所で、マサラタウンで一番ポケモンと触れ合うことができる場所である。
どうもオーキド研究所とも提携しているらしく、この世界のオーキド研究所は本当にイメージ通りの研究所であって子供が楽しめるような場所では無くなっていた。
因みにアカリもよくパークには行っているらしい。
―――というかやっぱボク以外にも転生者いるよね?
記憶が戻ってから少しずつ気になっていたのだが、どうにもこの世界ボク以外の転生者も普通に……というのも変だがいるらしい。
この間も言ったが『レッド』や『グリーン』はすでに旅立っているのにロケット団が未だに存在していたり、『本来の状態』との差異のようなものがあちこちにあった。
なんだったらゲームメーカーとして『カプ〇ン』だの『ニンテ〇ドー』だの『コ〇ミ』だの聞いたような覚えのあるメーカーがあるし、どっかで見たようなゲームが出ていたりもするし、あっちこっちのシティに『ジャ〇コ』という名前のデパートがあったり、『ファ〇マ』という名のコンビニにがあったり……。
例えばチャンピオンだが、現在のカントーリーグチャンピオンのトレーナーネーム*1が『もょもと』なのは偶然というにはちょっと普通に出てくる名前じゃない。
因みにチャンピオンの『もょもと』だが『ペ』の1文字しか使わない『もょもと語』なる独自言語で会話するせいで意思疎通には通訳が必須だとかなんとか。
―――たまにクラスでぺぺぺぺって喋ってる子がいるのそれだったのか。
と妙な納得をしてしまったが、まあ少なくともカントーだけでも自分以外の転生者がいるのは確実だろう。
なんだったら世界中を見渡せば結構な数いたりするのかもしれない。
別に自分だけが原作知識を持っている、なんて優越感があったわけでも無いのでまあそんなものか、とも思ったがどうも他の転生者たちも結構好き勝手やっているようだった。
―――もし旅の中で出会う機会があったら話してみるのも面白いかもしれない。
そんなことを思った。
* * *
研究所に行くと事前に予約していただけあってスムーズに中に通される。
早速健康チェックのためのポケモンの入ったボールを提出すると検査をして問題が無ければ30分くらいで済むので適当に待っていて欲しいとのことで、アカリと2人で研究所のロビーにある本を読んでいた。
オーキド研究所にある本だけあって、どれもポケモン関連の書籍であり、まだ7歳の子供が読むのは難しいものも多かったが、中には雑誌のようなものもあったのでそれを2人で読んでいるのだ。
正確には手持無沙汰にしていたアカリがボクが読んでいた雑誌が気になったらしく隣に座って読み始めたのだが。
とはいえボクとアカリでは読みたい部分が異なるので互いに片方の手で1つの雑誌を持ったままもう片方の手で別々のページ捲っているという周囲から見たらちょっとおかしな情景になっているが。
いや、ボクとしてはそんなに気にしないけど、距離感近くない? と思わなくも無いが、アカリが特に気にした様子も無いのでまあいいか、と流す。
それで内容としてはアカリはとにかくポケモンバトル関連のページが読みたいらしく、ジムリーダー話やポケモンリーグの話などのページを見ていた。相変わらず言葉も少なく、表情の変化も無い子だが、視線はよく動いているのでしっかりと読み込んでいるらしい。
一方ボクのほうはヤマブキシティのほうで流行しているというポケモンに着せる都会風お洒落衣装やアクセ、またトレーナーが着るバトル用の衣装などのページだ。
自分のポケモンを飾り立てることができるのはゲームには無かった楽しみだろう。一応一部作品でピカチュウやイーブイにお洒落させることはできたが、あれだってパターンは少ないし何よりそれ以外の手持ちには無理だった。
プレイヤーだった頃のボクはいわゆる『着せ替え勢』というやつで自キャラで着せ替えするのを楽しむ性質であり、ファッションにお金を費やしてはしょっちゅう金欠でボールや薬を買えないという状況に陥っていたので旅に出たらその辺りは気を付けないといけないだろう。
というかヒトモシとかどうやって飾り立てれば良いのだろう?
リボンとか巻いたら引火しそうなのだが。
―――やっぱりランプラーくらいまでは進化しないと難しいかな?
なんて考えながらロビーに置かれたソファーにアカリと密着しながら狭苦しく雑誌を読んでいると研究所の職員に呼ばれたので互いのボールと検査結果を受け取る。
ヒトモシもピカチュウも特に健康に問題は無いとのことなので今日の用事はこれで終わりとなるのだが、帰り際にアカリに袖を引かれて無言で見つめられるので何かと問えばどうやら互いのポケモンを持っているのだから折角だしポケモンバトルがしたいらしい。
まあ自宅から隣の家まで徒歩3分が基本のマサラタウンは田舎町で誰の土地というわけでも無い敷地ならいくらでもある。
マシロ地区はマサラタウンでも一番人口の多い地区ではあるが、それにしたってである。
そういうわけで別にその辺でバトルする分には構わないのだが、自宅の裏庭に母さんが偶に使っているコート(もどき)があるのでどうせならそこでやろうと提案すれば素直にアカリが頷く。
ゲームとかアニメとかだとあまり気にされていないが、ポケモンバトルをするとまあ偶に地面に穴が開いたり建物が壊れたりとそういう被害があったりするわけで、しかも自分たちが使うポケモンはヒトモシ(ほのおタイプ)にピカチュウ(でんきタイプ)と見事に燃えそうな技ばっかり出すポケモンなので街中でやるのもちょっとなあ、というのが正直なところ。
母さんが使っている練習用のコートは土を固めたタイプなのでそういう心配も無く、手持ちの最終進化ポケモンたちが体を動かすのに使うだけあって広さも申し分ない。
そういうわけでバトルできると分かってそわそわしてきたアカリに急かされながら自宅に戻り、母さんに裏庭のコートを使う事を告げると見学ついでに審判をしてくれることになった。
母さんは現在は専業主婦なので思ったより暇しているらしい。
何だったら母さんの手持ちのポケモンたちも暇しているので母さんと一緒にぞろぞろとついてきていた。
まあなんだかんだありつつ裏庭のコートでアカリと2人左右に分かれて立つ。
コートの大きさは公式戦用のコートの半分くらいのサイズだったが、7歳の子供に小型のポケモン2匹だけが使うには随分と広く見える。
それから母さんの掛け声で互いにボールを構えて―――。
* * *
「ヒトモシ、まずは落ち着いて様子見だよ」
「もし!」
「……ピカチュウ」
「ピカ!」
互いのボールから放たれたポケモン。だがどっしりと構えさせたこちらのヒトモシに対して、アカリのピカチュウは即座に動き出した。
やっぱりピカチュウの使い方が良く分かっている、と苦笑しながらピカチュウの動きに目を凝らす。
種族値という概念を知っているからこそ言えるが、ヒトモシとピカチュウの『すばやさ』には大きな差がある。
詳細な数値などは覚えていないが、ヒトモシの場合、シャンデラまで進化してもピカチュウのほうが『すばやさ』が高かったはずだ。まして2進化も前のヒトモシの足など言わずもがな。
何より四足で走れるピカチュウに対して、溶けた蝋燭の底面のようなヒトモシの足は走ることに適していない。
故に対応で後手に回ったとしても素早さ勝負にされないように構えさせた。
逆にアカリはその素早さで攪乱しにきている。
「今、ひのこ!」
「でんきショック」
だが走り回ってばかりでは攻撃ができない。或いはしっかり育てて訓練させればできるようになるかもしれないが、先日捕まえたばかりのポケモンでそれは無理だ。
故に技を出す時には必ず足を止める。
以前も言ったがポケモンというのは基本的に強靭で頑丈な肉体を持っている。
物理的な衝撃を通すことはできるが、それで決定的なダメージを押させることは難しい。
だがポケモンは『技』を持っている。自らが持つ18タイプの……そう『タイプエネルギー』とでも呼ぶべきものを『技』として昇華し、攻撃することができる。
物理的ダメージ*2に滅法強いポケモンだが、このタイプエネルギーというやつはポケモンに対して非常に効率良くダメージを与えることができる。
だからポケモンバトルにおいて、この『技』をどれだけ上手く当てるかが重要になってくる。
ピカチュウが『でんき』のエネルギーを溜め、放つ……一瞬早くヒトモシが『ほのお』のエネルギーを『ひのこ』と化して飛ばす。
タッチの差で放たれた『ひのこ』はピカチュウの目の前で『でんきショック』と衝突、小さな爆発を起こす。
「ピッカ!」
エネルギー同士のぶつかり合いによる爆発がピカチュウに小さなダメージを与えるが、戦闘に支障の出るレベルではないとぶるぶると顔を振って元気アピールをする。
それにアカリが一つ頷き、無表情だったその口元がつい、とつり上がる。
「ピカチュウ」
静かな、けれど凛と通る声が一瞬響く。
瞬間、ピカチュウが『でんこうせっか』に走り出す。
テレポートでもしているのか、と思うほどのスピードだがまだレベルが低い故がその距離は短い。
幸いにしてあの攻撃でそのまま突撃されて吹っ飛ばされる、ということは無い……と思っていたのだが。
「ピッカ!」
「え?」
ピカチュウが突っ込んでくる。突っ込んで……そのままヒトモシをすり抜けた。
それを見てアカリの表情が一瞬揺れる。
「あー……ヒトモシ」
「もし」
何が起こったのか分からず混乱したピカチュウにヒトモシが背後から『ゴースト』タイプ特有のふわふわとした質量を感じさせない移動で近づいて。
「もっし!」
「ピッカァ?!」
ばぁ、とヒトモシが間近でピカチュウを『おどろかす』ような攻撃。
ダメージを受けたピカチュウが驚いて飛び跳ねる。まだ実戦慣れしていないせいか、驚いたピカチュウが怯んでしまい行動が止まったところで。
「全力でひのこ」
「もし!」
ヒトモシが力を限りを振るった全力の『ひのこ』は先程よりちょっとだけ火の勢いと量を増してピカチュウに命中した。
怯みで身動きのできないピカチュウに対して放たれた『ひのこ』が偶然にも急所に当たったらしく、勢いよく吹き飛ばされたピカチュウがそのまま目を回して動かなくなる。
「…………」
ちょっと悔しそうにきゅっと口を結んだアカリに対して、苦笑しながら。
「アカリ、勉強しよう?」
そう告げた。
* * *
・ポケモンのタイプ18×18タイプに対する18タイプの通りの組み合わせの総数を求めよ
まあ当たり前と言えば当たり前の話なのだが。
カントー地方ならシオンタウンでも無いと『ゴースト』タイプって案外見ないタイプだ。
この間やっていた学校での授業でも色々なポケモンがいたが、『ゴースト』タイプなんてキワモノなポケモンはいなかった。
だからまあ知らなくても無理はないことなのだ。
7歳の子供が『ゴースト』タイプに対して『ノーマル』技が効かない、なんてこと。
そもそも10歳になって旅に出たトレーナーですら単タイプ同士の相性が曖昧、なんてこともあるし。
複合タイプの相性なんて大人になったトレーナーでも間違えることもあるくらいに複雑だ。
前世においてボクたちは『ゲームだからこそ』楽しんで覚えることができたが、タイプ相性を『勉強として』覚えようとするとあまりの膨大さ、その複雑さに簡単に覚えることができないのは分かる。
そもそもこんなものポケモントレーナーにならないのならば何の役にも立たない知識なのだ。
だからこの世界においてタイプ相性を本格的に覚えたいならば、旅をする中で身に着けていく知識……或いは10歳から進学できるトレーナーズスクールで身に着けることが多い。
だからまだ7歳のアカリがそういうのに詳しく無くても仕方ない側面はあった。
ただまあバトルしていてやはり思うのは、アカリのトレーナーとしての資質の高さだ。
ポケモンには種族ごとの能力……つまり種族値や個体ごとの性格がある。
ゲームなら技の指示さえ出せばオートで攻撃してくれて、命中判定をして当たればダメージ計算となっていたし、ターン制で技を指示するまで長考することもできた。
けれどリアルポケモンバトルはその辺がシビアだ。
技の指示を出しても、技の射程、打ち方……つまり射角、さらに相手との位置関係、動く相手にどうやって当てるか、こういうのを全て加味しなければまともに技が当たらない。
それにターン制なんてものは無いので、相手の動きを見て長考していれば相手だけ2回、3回と技を出してくることになる。
さらに言えばポケモンごとに得意とすること、強みは各々異なっており、先も言ったが性格も違うのだからトレーナーの思い描く戦い方とポケモンが思い描く戦い方がミスマッチしたりすることもあり、特にトレーナーになったばかり、ポケモンを昨日捕まえたばかり、というアカリはそうなっても何もおかしくはないはずなのに、ピカチュウを伸び伸びと動かすし、ピカチュウもまたアカリの指示に反発することもなく従っている。
ボクはその辺もまた考えて、ヒトモシにどっしり構えさせた。
単純に足が遅いこともあるが、下手に動かすよりも立ち止まって技だけ撃つほうが考えることが少なくなる。
だからまあピカチュウにあれだけ高速戦闘をさせておきながら平然と最適なタイミングで技の指示を出してくるアカリはちょっとおかしい。
もしアカリにタイプ相性の知識があったなら……負けていた可能性は十分にあった。
まあ控えめにいってボクだってトレーナーとしての才能が無いわけじゃない、と思う。
トレーナーとして結構高位にいたらしい母さんの子なのだ。その才能は十分に受け継がれていると思うし、リアルポケモンバトルに対してもそこそこ対応できていると自負している。
数を熟して経験を積めばトレーナーとして十分にやっていける手ごたえはあった。
ただ自分でも分かるが、あくまでそれはそれなりに才能がある、程度だ。
多分才能だけで見るならボクは中堅より上くらい程度。
逆にアカリは才能だけなら最上位層かもしれない……いわゆる天才。
ボクが転生者ではないただの子供だったら嫉妬していたのだろうか……いや、でもボクの性格的にしない気がする。
まあ正直だからどうした、という話ではある。
ポケモンバトルは才能だけでやるものじゃない。
今日ボクがアカリに勝ったように。
そんなことを思うと同時に一つ気づく。
―――ああ、そっか。ボク負けたくないんだ。
ボクにはあまり目的が無い。
旅をしてみたい、と思っていたがそれはマサラタウン以外の街を見てみたい、程度のものであり記憶が戻った今でも別に明確に何かやりたい、というものが無い。
ただまあゲーム時代を思い出したことでなんとなくポケモンリーグに挑戦してみようかな、くらいの意欲はあるのでジム戦はやるのだろうがそれでも旅のモチベーションというほど強い情動があるわけでもない。
それでも、今日ポケモンバトルをやって、以前授業にアカリと戦って。
負けたくない、という気持ちが自分の中にあることに初めて気づいた。
* * *
『ひんし』になったピカチュウに『げんきのかけら』を与え回復させると、家の中で横に寝かせてやる。
ゲームだと時間経過でポケモンが回復したりはしなかったが、現実は当然ながら回復する。
まあ自然回復しなかったら野生のポケモンどうなるんだという話なので当然ではある。
それからまだ知識が足りないアカリのために母さんから借りた本を教材にしながら色々と教えていくことになるわけだが。
ポケモンバトルの勉強となると覚えることは多岐に渡る。
ゲームをやっていた頃なんかはやっている内に自然と覚えたし、なんだったら興味を持って調べることでさらに詳しくもなったりするが、それを座学としてやれと言われるとその余りにも膨大な知識に目を回すことになる。
そういうわけであまりに一度に詰め込むとアカリとて大変だろうということでその日は取り合えずタイプ相性だけを勉強した。
幸いにしてボクはこの手の知識はゲーム時代の記憶として覚えているのもあるし、元トレーナーの母さんから教わったものもあるのでアカリに教える分には特に問題も無かった。
アカリも知識不足で負けたことを自覚しているせいか、はたまたバトルに関連することだからか、意欲は高く集中して取り組んでいるが、それでも18タイプのそれぞれのタイプ相性だけでも目を回していたし、さらにそれが複合タイプになった時の相性の変化まで入れると机に突っ伏していた。
少し休憩にしようと言って適当にきのみジュースとお菓子を摘まみに出してやれば、いつもより割り増しで無気力感を感じる瞳に少しだけ輝きが戻った気がする。
ああ、そうだ。
時代的にどうかと思っていたのだが、先も18タイプと言ったようにこの世界においてすでに『あく』『はがね』『フェアリー』タイプは発見済みだった。
ただし『ステラ』タイプは非常に特殊なタイプ故か一般的なトレーナー向けの本には載っていなかった。
まああれはテラスタルに大きく関係のあるものだし、カントーのほうで知られていないのは当然なのかもしれないが。
これらに関しては多分過去に転生者がどうこうしたのだろう。実機時代の知識というのは結構広まっているっぽいし。
何だったら三値*3というものもポケモントレーナー間でマイナーながらも伝わっている。
あと努力値はプレイヤー間での俗称であって公式じゃないのだがこの世界だと正式な名称になっちゃってるのはどうなんだろう。
まあ一番おかしいのは、知識として知らずとも感覚的に三値を理解しているこの世界のトップトレーナーたちだが。
明確に言語化できずとも意図的に鍛えることで能力値をいくらか盛れる……というのはある程度以上のレベルのポケモントレーナーたちの間では常識みたいになっていて、なんだったらうちの母さんもできるらしい。
ゲームのように薬漬け*4にしたりなんでそうなるのか分からない謎の葉っぱ*5をもしゃもしゃと食べさせたりする必要はなく、日常的育成の範囲で補正できるらしい。
そんなわけでポケモンの育成一つとってもゲームのように簡単には行かないし、野生のポケモンとバトルしていればそのうちレベル100……つまり限界まで強くなれるのか、と言われればこれもまたなれない。
そもそもレベルという概念が無いのもあるが、そもそも強くなるためには戦う相手にも相応の強さが求められる。
例えばゲームのようにレベルを上げていくとしてもレベル10の時は同じく10前後のポケモン、20なら20前後、30なら30前後のポケモンと戦わなければそもそも経験値にならない。
そういうわけで最終進化ポケモンを使う頃になると戦う相手すらも厳選する必要が出てくる。
最早そこまで行くと野生環境で簡単に出会えるような相手ではないからだ。
だからそのあたりになると基本的にトレーナー戦が主体になるらしい。
同じように最終進化ポケモンを駆使するような強豪トレーナーを相手にすることで成長の限界を伸ばすことができる。
そしてだからこそこの辺りで限界がはっきりと分かれだすのだとか。
つまり勝てる側と勝てない側だ。
勝てる側は経験値を糧にしてさらにポケモンたちを成長させていく。
逆に勝てない側は糧にされてばかりでいつまでも成長しない。
そこで勝てるだけの何かを持つトレーナーだけが上に上がっていき、勝てないトレーナーは停滞することになる。
そして上にのし上がっていったトレーナーたちを総称して『エリートトレーナー』と呼ぶのだ。
先程出したジュースとお菓子を摘まんで気力を回復したらしく、起き上がってまた勉強を始めるアカリを見やる。
きっとアカリは勝てる側だ。ポケモンを信頼し、ポケモンに信頼され、そして十全にポケモンを動かすことのできるあの子は間違い無くエリートトレーナーの中にあって一等輝くだけの才覚があると思う。
対して自分はどうだろう。きっとそのラインに到達はできると思う程度には己惚れているが、果たしてそこで勝ち抜いていけるのか。
ポケモンリーグに挑む、なんて気楽に考えてはいたが、よく考えてみればそこは世界中のポケモントレーナーの多くが目指す地方の頂点なのだ。
今はこうして一緒にいられる。
一緒に戦って……今は勝ってはいるがそのうち負けもするだろう。
そうして時間が経って10歳になって旅に出て、それから。
それから、果たしてボクはアカリと対等でいられるだろうか?
知識面での穴を埋め、育成面での不足も補ったアカリが作るだろうパーティに、果たしてボクはどこまで食らいついていけるんだろう?
まだ早い?
まだ先の話?
思考し、大きく息を吐く。
―――もっと強くなりたいな。
先へと進む
先へと進んでいく
この世界に生まれてから、ボクは初めてそんなことを思った。
次回、アカリちゃん視点かな。何故か出しどころの無かった特に隠してる予定も無かったはずの主人公くんちゃんの名前も出ます。