さてはオリ主だなオメー???   作:水代

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雨の日くらいは休みたい

 

 

 ・若いからはただの油断

 

 

 『おつきみやま』を下山し、ハナダシティを目指す。

 といっても『トキワのもり』が広がっていたトキワ・ニビ間とは異なりニビ・ハナダ間は道路が通っているのでなんだったらバスにでも乗ればものの2時間もあれば到着する距離だ。

 歩いても半日も関わらず、『おつきみやま』を降りる時のごたごたはあれど朝早くから山を降りたこともあってその日の午後にはハナダシティが見えるところまでやってきていた。

 

 問題はいつの間にか空が曇天に覆われ、今にも降りだしそうなこと。

 

 雨具の類を持っていないわけではないが、服が濡れるのは勘弁して欲しいのでアカリと共にペースを上げていく……だがその決断は少しばかり遅かったか、ハナダシティに到着したのと同時に雨が降り出し始める。

 お陰でポケモンセンターまで走ることになったが、一番近くのポケモンセンターまでそう遠く無かったこともあってか、どうにかずぶ濡れになる前にはポケモンセンターにたどり着いた。

 

 幸い部屋の空きはあったのでアカリと1部屋ずつ取り、取り合えずシャワーを浴びる。

 

 昨日はキャンプ泊だったこともあってお風呂に入れなかった。

 体を拭くくらいはしたが、やはり一度覚えた贅沢は手放せないというべきか……しっかりとした宿を確保できたらとにかくお風呂に入りたかったのだ。

 

 熱いシャワーを浴びて文明の利器に感謝を覚えながらさっぱりとした気分になると、新しい服に着替えて部屋を出る。

 隣のアカリの取った部屋をノックするとすぐにアカリが出てくる。

 そうして間近でよく見ればその髪がまだ湿っていることに気づき、嘆息する。

 

 ―――また髪ちゃんと拭いてない。ドライヤーかけて乾燥させないと、濡らしたままじゃ痛むのに。

 

 嘆息のままにアカリをぐいっと引き寄せてボクの部屋まで連れていく。

 そうしてベッドに座らせてタオルで優しく髪を拭きながらドライヤーで乾かす。

 途中でヘアオイルを塗って馴染ませ、合間に櫛で解かしながらしっかり乾かすと、最後に少しだけ触れてさらさらとした触感に満足気に頷く。

 

 そんなボクを面倒そうな表情でアカリが見ているが、こういうのを疎かにすると将来困るのはアカリ自身なのでちゃんと覚えて欲しいところだ。

 アカリのお母さんと2人がかりでようやくトリートメントやリンスを使うことを学ばせたのだからここで妥協してはならない。

 まだ若いからと油断していると髪はあっという間にボロボロになる、そうなってからでは遅すぎるのだから。

 

 髪のケアが終わったのでこれで良し、と安堵しかけてよく見るとまだ終わっていないことに気づく。

 

 ―――化粧水つけてないじゃん! あれだけ言ったのに!

 

 朝に顔を洗った後と夜にお風呂に入った後の2回は絶対につけろと言ったのにどうやらまたサボっているらしい。

 アカリの頬っぺたはもちもちしっとりの赤ちゃん肌だがそれだってまだ10歳という若さに許された特権である。

 肌も髪と同じ、若いからで油断していればあっという間にダメになってしまうのだ。

 というわけで面倒という表情を隠しもしないアカリの頬っぺたをむにむにしながら化粧水と乳液でスキンケアをしていく。

 

 ついでとばかりに指先のネイルケアもしてやろうと手を取るが、どうやらこっちはちゃんとやっているらしい。

 

 ―――トレーナーに関係することだけはまめなんだから!

 

 あまり意味があるようには思えないかもしれないが、指というのはトレーナーにとって非常に重要だ。

 例えばの話、バトル中にポケモンを捕まえようとモンスターボールを投げる。

 当然ボールをポケモンに命中させる腕が必要とされるわけだが、指の手入れを怠っていると上手くボールが投げれない、なんてこともある。

 そうでなくてもポケモンバトルの際中に自分の手持ちのポケモンを出す際にもボールは投げる。

 

 こうしてポケモンバトルが現実のものにならないと分からなかっただろうことだが、バトル中に味方のポケモンを出すのにボールを投げるが、どこにポケモンを出すかというのは実は規定されていない。

 正確にはトレーナーより前に出せばどこに出しても良いのだ。

 

 だから接近戦の得意なポケモンはなるべくフィールドの中央に出したいし、逆に遠距離が得意なポケモンは相手から遠くに出したい。

 

 一件して意味のないような拘りだが、その僅かな距離の違いが技を先に出せるか否か、にも繋がるのだからバトル中のボールを投げる位置というのは時に勝敗を左右することにもなりかねないほどの重要な要素だ。

 

 故に腕の良いトレーナーは指を大事にする。

 指先を痛めてうっかりボールを暴投してしまった、なんてことにならないように毎日ケアするのだ。

 

 アカリはポケモンバトル大好きかつガチ勢なのでこういうトレーナーに関係することだけは本当にきっちりやっているのだが、逆にそれ以外がなんとも手抜きだ。

 

 ―――女の子なんだからもうちょっとこう、さあ。

 

 お洒落とか、気を使って欲しいなあ。

 

 とは思うのだが……若い子っていうのは難しいものだ。*1

 

 

 * * *

 

 

 ・雨の日の団欒

 

 

 ざあざあという雨音が耳朶を打ち、ゆっくりと目を開くと窓の外はカーテン越しにも分かるくらいにどんよりと暗い。

 まだ起きるのに早かったかとまだ眠気の残る頭で考えるが、視線が壁に掛けられた時計に向けられると時計の針が示していたのは7時過ぎ。

 

「……もう朝かあ」

 

 さすがに山登りはきつかったかなあ、なんて思いながら少しだけ疲労感の残る体を引きずりながら寝巻を脱いでシャワーを浴びる。

 そうしてさっぱりとした気分で眠気も吹き飛ばせばあっという間にいつも通りの体調になる。

 10歳児の体なんてこんなものだ。といっても子供からすればそれが当然なので、この若さの素晴らしさにしみじみとしてしまうのはボクのような転生者の通過儀礼のようなものかもしれない。

 

 相変わらず部屋の中にいても聞こえてくるほどの雨音に部屋のカーテンを開けてみれば、外はざあざあ降りの雨模様。

 見上げた空に広がるどんよりとした曇天は少なくとも今日一日はまるで晴れそうになく。

 さすがにこんな空模様の中で旅を続けるほどの急ぐ理由も無く、アカリとも相談はするがまあ雨が止むまでハナダシティに滞在することになるだろう。

 

「ちょうど良い機会だし、手持と遊ぶのも良いかもね」

 

 シャンデラはもう2年の付き合いだし、ずっと一緒だったから良いとしても、イーブイもピチューもピィも出会ってからまだそう日が経っていない。

 雨で旅の足も止まっているのだから、これを機に手持ちたちとのんびりしても良いかもしれない。

 

 まあそれはさておき、まずは朝ご飯だ。

 

「アカリは……まあ起きてないよね」

 

 朝風呂で濡れた髪をしっかり乾かし、一通りの手入れをしたら新しい服に袖を通して部屋を出る。

 一緒に朝ご飯にしようと隣のアカリの部屋をノックしてみるがアカリが出てくる様子は無い。

 そうしてさらに2度、3度をノックを続けると、やがてかちゃりと鍵が開く音がするのでドアノブを捻れば扉が開く。

 

「おはよう、ピカチュウ」

「ぴーかーちゅ~」

 

 扉の向こうには今目覚めたばかりなのか、まだ眠そうに欠伸をしながら目を擦るピカチュウの姿。

 どうやら鍵を開けてくれたらしいピカチュウにお礼を言いながら部屋に入るとベッドの上ですやすやと眠るアカリの姿。

 いつものことというか、案の定というか、正直予想はできていた。

 

 まあ昨日のキャンプ泊では野生環境の中での宿泊ということもあってか上手く寝付けなかったらしいので柔らかいベッドと安心できる街中での就寝にいつも以上に爆睡していることは仕方ないのかもしれない。

 もう少し寝かしてやりたいとは思いつつも、とはいえもう朝だし朝食に行くのにボク一人で行ったら寂しそうな雰囲気を醸し出すのはアカリ自身なのだから、心を鬼にして起こすことにする。

 

 そうしてまだ半分寝ている状態のアカリを着換えさせながら朝食に引っ張っていく。

 

 ポケモンセンターの食事は資格持ちのトレーナーなら無料だが量も味もそこそこ良い。

 一つだけ問題があるとすれば朝昼晩いつ見てもだいたい同じようなメニューということだけだ。

 さらに別にレストランではないので料金を払えば美味しいものを食べられるというわけではない。

 なのでニビシティにいた頃から昼と晩だけは別の場所で食べていたが、朝だけはポケモンセンターで食べている。

 さっきも言ったが味もそこそこ良く、量もそこそこある。さらに場所が場所だけに栄養価なども非常に優れていて、バランスの良い食事が提供されている。

 

 アカリは放っておくとズボラ飯をしたがるし、外食させるとジャンクフードになりがちなのでその辺で調整していた。

 

 アカリのお母さんからもアカリのことを頼まれているので、いつかマサラタウンに里帰りした時にジャンクフードばかり食べさせて太ってました……なんてことには絶対にさせない、させないのだ。

 

 因みにアカリは自分の食べるものに関しては適当だが、ポケモンの食べさせるものは割と気をつかっている。

 ポケモンだって生物なので成長と育成には食事に気をつかう必要があるのは当然だからだ。

 ポケモントレーナーの手持ちというのはある意味アスリートのようなものなので、下手なものを食べさせては正しい育成には繋がらないのだ。

 

 ―――ホント、その気遣いを半分でもいいから自分にも向けて欲しいなあ。

 

 と常々思っているのだが、こればかりは本人のやる気次第なのがなあ……。

 

 

 

 そうして朝食を終える頃にはアカリも目を覚ましていて、食後にロビーでドリンクを飲みながらこれからの話をする。

 アカリもさすがにこの雨の中、外に出るつもりは無いらしくあっさりと今日一日はポケモンセンターに留まることになった。

 

「リンくん、今日はどうする、の?」

「この辺で一回仲間になった子たちと仲良くなっておこうかなって」

「……そっか」

 

 アカリも以心伝心レベルのピカチュウはともかく、まだニビで少しバトルしただけのヒトカゲや、ゲットしたばかりで信頼関係を十分に築けていないサイホーンなどがいる。

 ボクの言葉になるほどと思ったのか自室に戻って行った。

 それを見送りながらボクも自分の部屋に戻り、ベッドの上に腰かけると早速ボールからポケモンたちを解放する。

 

「シャンデラ、自由にしてて良いけど燃やさないようにね」

「シャシャ」

「ピィ、お菓子なら机の上にあるから味わって食べるんだよ……まあ、ほどほどにね?」

「ピ~♪」

「ピチューは……え、まだ眠いの? じゃあそこの枕使って良いよ」

「ピチュ」

「いっぶい!」

「おっと、イーブイ元気だね……ちょっと重くなった?」

「いぶい!」

 

 ボールから出すと飛びついて来るイーブイを抱きかかえながら、研究所でもらった時より少し重くなった気がして尋ねてみれば元気いっぱいの返事がきた。

 まあなんて言っているかは分からないが、笑顔なので多分ヨシ!*2

 しかしこうして抱えていると大分懐いてくれたなあ、というのが良く分かる。

 最初の時のように触れ合うことに一瞬だけ躊躇することが無くなったのもそうだが、何より笑顔が増えた。

 

 人はポケモンの言語を直接理解することはできないが、だからこそトレーナーはこうしてポケモンに触れてその動きや仕草などから感情を読む必要がある。

 特に表情というのは一番ポケモンの感情を素直に表している。

 

 だから笑顔が増えたというのはそれだけイーブイがボクに心を許しているということなのだが。

 

「毛艶良くなってきたね」

「いっぶい~」

 

 ボクの膝の上で目を細めて丸くなるイーブイの尻尾の毛を櫛でゆっくり溶かしながら問いかければ、イーブイがリラックスした様子で緩い鳴き声をあげる。

 ポケモンフーズに加えていくつかの『きのみ』をブレンドした食事、それにお風呂に入れてドライヤーからのブラッシング。あとはちょっとしたポケモン用のコンディショナーなど。

 まだ日は浅いが最初に出会った頃よりふわふわのふさふさになったイーブイの毛並みは撫でているだけで幸せになれる触感だ。

 

 実機のポケモンでも昔の作品で『毛づくろい』をすることでポケモンのなつき度が上がるシステムがあったなあ、なんて思い出しながら耳の後ろをこしょこしょとくすぐればイーブイがくすぐったそうに身をよじる。

 

「いーぶいっ!」

「うわ、っと」

 

 イーブイがぶるぶると体を震わせ、それからボクに飛び掛かって来るとそのふわふわな体をボクの頬にマーキングするかのようにこすりつける。

 

「うわあ……幸せ過ぎて拒否できない」

 

 なんとも恐ろしい『あまえる』攻撃にタジタジになりながらもその体を両手で掴んでベッドの上に降ろす。

 

「いぶい?」

「うーん、ちょっとね、真面目な話がしたいんだ」

 

 信頼関係は十分にあると思う。

 実機的にいえばなつき度最大、といったところか……いや本当に最大かどうかは分からないが、それでもそれなり以上に懐かれている自負はある。

 そんな今だからこそできる話。

 

「あのね、イーブイ」

 

 少しだけデリケートな話。

 でもこれからも旅をするのに避けては通れない話。

 

「まだポケモンバトルは怖い?」

 

 その言葉に、イーブイの表情が強張った。

 

 

*1
※10歳児の台詞です。

*2
現場ネコ感。




Q.若さって何だ?
A.振り向かないことさ!

因みにリンくんちゃんは前世の自分のパーソナルデータ……つまりどんな人間だったかってのをあんまり覚えていない。
ただ断片的に覚えている知識や感情から多分こんな人間だったんじゃないかな、という予想は経ててる。
予想として20代後半の人間。男か女かは分からないけど多分今の自分と同じ男だけど女みたいな恰好してたんじゃないのかな? と思ってる。

さらに因みに大抵の転生者は前世の自分のパーソナルデータを覚えてる。
例えばヒマワリちゃんとかは前世の自分が服飾関係の仕事だったことを覚えてる。だからその時の経験で裁縫とか得意。

リンくんちゃんみたいに前世の記憶が曖昧な転生者はいないわけじゃないけど、実は少数派だったりする。
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