・楽しいなんて人それぞれ
どちらでも良い、というのが実際のところだった。
イーブイがポケモンバトルに興味を持っていても、或いは忌避していても。
別にボクはポケモンバトルに全てを捧げているわけではない。
アカリのようにトレーナー一本に道を絞っているわけではない。
だからイーブイがバトルではなくコンテストに興味があるというならそれでも良い。
或いはただ旅をしたいだけだというならそれでも良い。
手持ちにいるからバトルしなければならない、なんてルールはないのだ。
旅をすることすら嫌だというならマサラタウンの実家で母さんに託しても良い。
「別に今すぐ決めろってわけじゃない。ただここまでの旅の道中で何か変わったか、それを知りたいだけなんだ」
まだバトルすることが怖いというならそれでも良い。
けどそれならそれでバトル以外に何か楽しいと思えることを見つけて欲しい。
折角こうして共に旅をしているのだから。
「……いぶい」
「うーん、まだ無理そうだね。うん、じゃあこうしよう。アカリのピカチュウみたいに、イーブイも今日からボールから出しておこう」
「いぶい?」
「イーブイ、キミの楽しいはどこにあるのかな?」
―――世界で一番楽しい旅をしたい。
それが今のボクの目的のようなもの。
アカリと共に行くこの旅を、一番楽しくて、一番素敵なものにする。
それはボクだけではない、ボクの手持ちたちも同じように楽しんでほしい。
いつか旅を終えた時に、最高の旅だった。そう言えるような体験をして欲しい。
「ドキドキしたい。ワクワクしたい。ハラハラしたいし、そんな思いでウキウキしている。ボクはこの旅はそんなものであって欲しい。そしてそれをキミたちと共有したい」
『おつきみやま』でピッピたちのダンスを見た時は最高にワクワクした。
ニビジムでタケシとバトルした時は最高にハラハラした。
『トキワの森』でギャラドスの背に乗って川を泳いだ時は最高にドキドキした。
そんな思い出の全てが、ボクにとってのかけがえのない宝物であり、同時にこれから続く旅へのウキウキとした期待だ。
「だからキミにもそんな期待を持って欲しい。ここから続く旅への期待、楽しい楽しい旅になる、そんな希望を」
「……いぶい?」
良く分からない、と目を白黒させるイーブイに苦笑し、その頭を撫でる。
「いいさ、今はまだそれでも。だからとりあえず今は、ボクの傍にいてよ。ボクも手伝うからさ。一緒にキミの楽しいを見つけよう」
「いぶいっ」
分かった、と言わんばかりにイーブイが勇ましく声をあげる、だがその愛らしい姿にやっぱりボクは笑った。
* * *
・それはおじさんのきんのたまかもしれない
一過性かと思われた雨は連日続いた。
1日目は晴れたらどうしよう、2日目でもまた雨か、3日目になってまだ続くの? と首を傾げ。
そうして4日目、まだ雨は止まない。
「アカリ、今日ジムに行かない?」
「……さすがに、飽きたし。行く」
だよね、と嘆息しながらアカリの言葉に頷く。
3日目降り続いた雨のせいで、ボクたちはずっとこのポケモンセンターで雨宿りをしている。
ざあざあ振りの雨の中を歩いて旅なんて勘弁して欲しい。そう思ってのことだったが、さすがに3日も同じポケセンに留まっているとやることが無くなって来る。
室内のせいでバトルなどもできないし、ハナダシティに来るまでに消費したものなどの買い足しも終わっている。
あとは天候さえ良ければジムに行って、バッジを取りそのまま次の街へ……という流れで行こうと思っていたのだが、肝心の天候がいつまで経っても崩れたままだ。
さすがにもうやることが無い、ということでアカリと2人、ハナダジムへと向かうことにする。
「でもハナダジムって『みず』タイプのジムだけど、アカリどうするの?」
「ん……ピカチュウで、行く」
「ぴか?」
「お願い、ね」
「ぴか!」
「ボクは今回は普通に行こうかなあ。ピチューとピィに実戦の経験積んで欲しいし」
アカリはタケシに引き続き、ハナダジムでも本気のジムリーダーとやるらしい。アカリの頭の上でピカチュウが元気よく返事を返す。
まあピカチュウ以外の手持ちがヒトカゲにサイホーンと『みず』タイプに弱いポケモンばかりなので仕方ないのかもしれない。
例えばボクは『いわ』タイプのジムにシャンデラで挑みはしたが、それだってシャンデラがある程度以上
バトル中の
どうしてもトレーナーの思った通りには動いてくれない部分があり、その隙を不利相性で突かれると一撃でやられてしまう可能性が高い。
逆にボクは今回は有利相性だ。
特にピチューはアカリのピカチュウに憧れのようなものを持っているようで、アカリのピカチュウのように強くなりたいという思いの元で日々鍛錬しているのでレベルの割に動きは良い。
ピィにいたっては本当にトレーナーがいるのかちょっと怪しくなるくらいセンスが高い。なんかその辺のトレーナー相手ならボクの指示無しで普通に勝ってしまいそうなくらいだ。
だがジムリーダーのようなカントーでもトップクラスのトレーナーの相手となるといくらピィでも簡単には行かない。というか野生のポケモンとトレーナーのポケモンは動きからして違う、そういうところをピィには知って欲しい。
「というか……ジム、遠くない?」
「……ん」
ハナダシティというのは高台にある街だ。
北西に流れる川……というより運河とでもいうべきそれを端として街が作られ、ぐるっと高台を囲むように建物が乱立している。
そのせいか、ジムのある高台の上のほうに行くには街を周回するように回りながら坂道を登る必要がある。
歩行者用の階段も時々あるにはあるが、それだって真っすぐ頂上まで続いているわけではなく、ある程度登るとまた次の階段を目指して坂道を進むということを繰り返す。
そのせいか土地の純粋な高低差と比べてえらく遠回りさせられてしまっていた。
雨の降り注ぐ街で傘一つ手にこの距離は思っていた以上に面倒だなあ、と思いながらそれでも仕方なく歩く。
唯一の癒しはボクの手の中で抱っこされているイーブイのもふもふ具合だろうか。
その癒しのもふもふはさっきからすぴすぴと安らかに眠っているのだが……歩きながらなのに良く眠れるなあ、と思う。いや、案外この振動が心地よかったりするのか?
片手に傘を持っているのでもう片方の手で抱っこしているのだが、こうも長時間となるとそろそろ腕が痺れてくる。
「……これバス乗れば良かったね」
「ん、そうかも」
一応街中を走るバスがあったのだ。
でも先も言ったがぱっと見た高低差はそこまであるわけじゃない。だから歩きで大丈夫だとは思ったのだ。
高台の街とは言ってもあまり高低差があると不便なので頂上付近は削られ均されているらしく、一番上の部分まで直通の階段があれば歩いて10分くらいで済むと思っていた。
だが先も言ったが坂道の途中に階段を見つけても途中で終わって、そこからまた坂道、まだ階段を探してを繰り返していてるせいでとっくにその3倍くらいは時間がかかっていた。
「もうちょっとちゃんと確認しとけばよかった」
「……ん、まあ急ぎじゃない、し」
「そうなんだけどね」
急ぎじゃない、まあアカリの言う通りではある。
どうせ雨のせいで今日一日も予定が潰れるのが確定なのだ。
「明日晴れたらどうする? 真っすぐヤマブキシティに行く? それともちょっと街の北とか見てみる?」
「ん、北?」
先も言ったが街の北西には運河があり、街の北側を抜けると運河を抜ける『ゴールデンボールブリッジ』がある。そこでは毎週のように小規模な勝ち抜き形式のバトル大会が開催されている。
何気に優勝賞品の『きんのたま』というのが実機と違い本物の金だけあってゲーム時代より売却額が10倍くらいするので優勝すれば良い小遣い稼ぎになるし、シャンデラやピカチュウならともかく、ピチューやピィ、ヒトカゲにサイホーンなどこれから育成する面子からすれば良い実戦の場となるだろう。
というかゲーム時代だと換金アイテムとしてよく見つかる『きんのたま』だが、結局あれって何なんだろう。
なんであんなつるつるとした純金の玉があっちこっちで見つかるのか、ポケモン世界の不思議である。
でも『でかいきんのたま』のほうはなにげに『なげつける』で最高威力が出せるデメリットの無い唯一の道具だったりするのでちょっと欲しかったりする。
換金用のネタアイテムに見せかけて実機だと威力130の『あく』タイプの物理技という単発とはいえちょっと他にはどうやっても出せない威力を出せるのは使いどころによってはかなり有用だ。
『いじげんラッシュ』とかいう幻ポケモンの専用技より威力が高いとかどういうことなのだろう。
まあそれでも全部ハナダジムで勝利してからの話だが。
「あ、あれかな?」
「……かも」
そうして坂道を登り続けること30分以上。
ようやく見えてきた大きな建物へと向かうと看板に『ハナダジム』と書かれているのを確認し、建物に入った。
* * *
・挑戦ハナダジム!
「よく来たわねアンタたち! 私がこのジムのジムリーダーのカスミよ!」
ずびし、と指を突きつけるのは目の前の少女……自分でも言っていた通りこのハナダジムのジムリーダーカスミだ。
ジムリーダーらしく格好つけてくれるのは良いのだが……まあ、その。
「あ、はい」
「ん」
チベットスナギツネみたいな目になってしまうのは許してほしい。
なにせ今しがたジムに入ってみたら受付のところで。
―――はー、ヒマねえ。今日も雨だし、どうせジム挑戦者も来ないでしょ。ねえ、ジム閉めてみんなでプールで遊びましょうよ。
と暇そうに受付だろうジムの子にダルがらみしているのを見てしまったのだ。
そこから受付の子がボクたちに気づき、それにつられてカスミもこちらを見て……からのこの台詞である。
まあジムが閉められる前で良かったが……それで良いのかポケモンジム、と内心で首を傾げながら早速受付を済ませそのままカスミに案内されてジム内にあるプールに案内される。
「運が良かったわね、今日は私も予定が空いてるから相手してあげられるわ!」
「……ん? さっき暇って―――」
「しー、アカリ。面倒になるからそういうの言わなくて良いって」
「……と、とにかく! ジムバッジ1個の子たちね、ならこっちは2体使わせてもらうわ! そちらは好きなだけ使って良いから、私に勝てたらジムバッジをあげるわ!」
ニビジムみたいに前段階とか無いのかな、と一瞬思ったが直後に気づく。
さては暇過ぎてジムトレーナーで弾かれないように、確実に自分がバトルできるように図ったな……?
まあこちらとしてはさっさとジムリーダーとバトルさせてもらえるならなんでも良い話なので了承して。
「アカリ、先にやっても良い?」
「ん」
今回は先にやらせてもらうことにする。
カスミが本気のバトルを受けてくれるならバトル後は疲れているだろうし、それなら比較的レベルの低いバトルはさっさと終わらせてしまったほうが良いだろう。
そういうわけでカスミが審判としてジムトレーナーの子を呼び、互いにフィールド上で対峙する。
ハナダジムはゲーム時代からそうだったが、バトルフィールドがプール上にある。
カスミ曰く、このプール全体がフィールド扱いになるらしいのでその辺りはニビジムと大きく異なる点だろう。
そしてフィールド扱いになっているということはカスミ側は利用する気満々なのは明白だ。
ゲームだとフィールドの環境なんて技や特性で変える以外には関係無かったが、現実には関係ないはずが無い、この辺は確実に考慮する必要がある。
地形で見ても水中でも動ける『みず』ポケモンと地上でしか動けないボクのポケモンたちでは単純に移動できる面積が異なる。
勿論一方的に不利にならないようにフィールド中央には大きなステージがあって十分動き回れるだけのスペースはあるが……。
「使える範囲は当然相手のほうが広い……となるとスピード勝負はちょっとやりづらい、かな」
「……へぇ、新人のくせにそういうところに気づくのね」
地上ならともかく、相手を追えない水中に入られると地上でどれだけスピードを上げてもあまり意味はない。
いや、全く無意味でも無いのだろうが地上より随分と効果は低くなるだろうことは明白だ。
だが今回メインで出す予定だったピチューの持ち味は未進化ながらに高い敏捷性だ。
それを簡単に捨てるというのももったいない話であるし、なにがしか活かせる場面は無いか、考えておくべきだろう。
あとはプールの上に浮いているフロートも特徴だろうか。
使用用途を考えれば多分絶縁体のゴムか何かができているそれは、浮いているので体重の重いポケモンは無理だろうが、ピチューやピィくらいなら足場にできそうだ。
ただし直径は50センチも無いので飛び移るのには使えてもがっつりそれに乗って戦う、とかはできなさそうではある。
それとプールの中の水は透きとおっている。
仮に『みず』ポケモンが飛び込んでも目で追うことは十分できそうだった。
だが水中で『えんまく』などを使って水を汚し、視界を切るということもあり得る、過信はするべきではないだろう。
そうしてフィールドをしっかりと観察、確認し終えると、ホルスターからモンスターボールを取り出す。
「準備は良いわね! さあ、バトルと行きましょう!」
カスミもまたその手にボールを持ち。
「アンタに私のポリシーってやつを教えてあげる!」
構えて。
「『みず』タイプのポケモンで……攻めて、攻めて、攻めてまくることよ!」
投げた。
ジムの隣にハナダシティ最大の建物『ハナダ水族館』があるとかいう設定にしようかと思ったけど、話が長くなり過ぎる、他にイベントがある、多分出してもイベントやってる暇がない、という理由で無かったことになりました……。
ハナダシティですが、街のイメージがいまいち分からなかったのでネットで『高台の町 川』で検索してでてきたフランスの都市があまりにもイメージ良すぎたのでそれを採用してます。
そのせいか北西の川が運河になりました……。
まあゴールデンボールブリッジって間に5人くらいとバトルできるくらい巨大な橋なんだから川のサイズも推して知るべしだと思う。