「アンタが新人とか絶対嘘でしょ!?」
結論だけ言えば2体目のアズマオウとの決着はヒトデマンの時よりもあっさりと終わった。
というのもカスミが出したアズマオウだが『すいすい』特性の個体であり、プールの中では猛スピードで泳いで相手を翻弄する……というのがコンセプトなのだろうと思う、のだが。
「まあ……うん、なんというか、それってもうアカリとのバトルで慣れてるんだよね」
絶叫するカスミに頬を掻きながら苦笑する。
だって日頃から
でまあ、ピチューもヒトデマンから『バブルこうせん』の直撃ダメージを受けているので一端戻してピィの初バトルとなったわけだが。
何ともまあ……本当にセンスの塊みたいな子だった。
あっという間にボクの指示にも慣れてアズマオウの進路上に『リフレクター』を設置、『リフレクター』は物理技の威力を半減するだけではなく単純に障壁のようにして設置することもできるのだが、そうして猛スピードで泳いでる最中に目の前に突如透明な壁が出来上がるわけで……アズマオウが頭をぶつけて目を回している僅かな間を突いて『くさむすび』で全身を拘束してそのままプールから引きずり出し、何もできないままに『うたう』であっさり『ねむり』状態に落としてしまった。
例え目を覚ましたとしても地上適性の低いアズマオウが全身を蔦に縛られたこの状態で何ができるのかという話であり、そんなこんなで最初のカスミの絶叫に繋がる。
アズマオウってそこそこレベル上げないと進化しないので多分ジム戦用の面子としてはかなり強いほうだと思うのだが、ボクがハイスピードでのバトルに慣れ過ぎていたのと、やっぱりピィの天才過ぎたのが勝因だろうか。
うがー! と叫びながら頭を抱えるカスミだったが、やがて嘆息しつかつかとこちらにやって来る。
そうしてずい、とその手に持ったバッジをこちらに突きつけた。
「アンタみたいなの相手にハンデ戦*1とかおかしいと思うけど勝ちは勝ちだから、私に勝った証としてブルーバッジを渡すわ!」
突き出されたバッジを受け取り、バッジケースに仕舞う。
因みにバッジケース自体はトレーナーになった時にもらうことができるが、実は地方ごとにバッジのサイズって違ったりするのでバッジケースも地方ごとにあったりする。
シンプルなプラスチックケースのこれはカントー版のバッジケースということになる。
そうしてケースに収めたバッジの数はこれで2つ。
ゲームだとまだまだ序盤、だがそれはボクたちの旅に確かな記録でもある。
「……楽しいねえ」
残るバッジが6個。
その間にまだまだ楽しいことがきっとたくさんあって。
そして8個集めたその先で……。
「キミと全力で勝負できるのかな?」
呟き、フィールドでカスミと対峙するアカリへと向けた。
* * *
先ほどのジム戦とは異なる1対1とはいえジムリーダーとの本気のバトル。
当たり前だが文字通りの
「ピカチュウ」
「ピ~カ~チュ~~~!」
「
「ヘァ!」
アカリのピカチュウはとにかく速い。
文字通り視界から消えるくらいの速度で動き回るせいで単純なスピード勝負に付き合えば一瞬で裏を取られて叩き潰される。
最初はカスミもその速度に面食らっていたがすぐにスターミーに指示を飛ばして対応していた。
だが単純な種族値を比べるとピカチュウはスターミーより『すばやさ』が低い。
とするとスピード勝負をするスターミーに負けるのではない……と思うが、アカリのピカチュウは推定『相棒ピカチュウ』だ。
主役補正とでもいうのか通常のピカチュウと異なり進化できないという縛りの代わりに種族値が全体的に盛られており、元は『すばやさ』種族値90だったものが120まで上がっている。
スターミーの『すばやさ』種族値が115なので最速に育成すればピカチュウのほうが速くなる。
ただしそれは同じだけの育成を施せば、という条件が付く。
実際目の前の光景を見ていると分かるが、単純なスピードではピカチュウよりもスターミーのほうが速い。
その理由は恐らくレベルの違いだろう。
といってもこの世界だとレベルという概念が無いので経験の蓄積、或いは育成度合いの違い、とでもいうべきか。
スターミーの推定レベルは80……いや、下手すれば90に達するかもしれない。
この辺り本当に旅の当初に想定していたよりずっとレベルが高い。
正直ジムリーダーとの本気勝負だろうとアカリのピカチュウなら一方的になると予想していた。
だがタケシとの戦闘でも思ったがジムリーダーですら現状のボクたちの相棒よりも一回り能力が高い。
ボクはヒトモシがランプラーに進化した時の能力から考えて現状をレベル70くらいだと思っているが、そうだとするとこの世界のトップトレーナーたちというのはレベル100の限界を超えている可能性すら十分にある。*2
さらにいうなら慣れの問題もある。
アカリのピカチュウはボクのヒトモシ……今となってはシャンデラだが、とばかりバトルしていきた。
だからスターミーのようなスピードタイプのアタッカーとバトルした経験が足りないのだ。
一つ一つの行動の後の切り返し、後隙とでもいうものがスターミーのほうが少ない。行動の後の次の行動への迷いが無い。
些細な違い、だが何度も何度も繰り返される中でそれが違いとして出てきている。
それができるのは恐らくカスミとスターミーが同じレベルの相手と戦ってきているから。
つまりピカチュウのようなスピードアタッカーとのバトルにも慣れがあるのだ。
つまりピカチュウはスターミーよりも単純な速度のみならず根本的な動き方の部分で劣っている……にも関わらず現実的にはスターミーはピカチュウに裏を取られて、その攻撃を避けるのに精いっぱいだ。
それはゲーム時代には無い思考だ……いや、アカリはゲームを知らないのだから当然なのかもしれない。
『ばちばちアクセル』という『しんそく』並に出の速い突進技を移動に使用することで直線距離を『すばやさ』の差を無視して超スピードで移動する、これを連発することでピカチュウは自分より速く動くスターミーの裏を取っている。
だがスターミー……否、カスミとスターミーも単純な速度に加えて『サイコキネシス』を使って移動の補助をしたり、突っ込んでくるピカチュウの進路をずらしたりして上手くその攻撃を躱している。
先ほども言った、だが本当に思う。
まさしく、レベルの違うバトルだ。
「よく目が追いつくなあ」
1秒たりと同じところに立ち止まらない激しく動き回り、目まぐるしく状況が二転三転するそんなバトル。
だがアカリもカスミも常に目を動かし、思考を巡らせ、二の手、三の手を繰り出している。
先ほどのバトルもそうだが、ボクはバトル中に結構考え込んでしまう……或いは考察してしまうタイプなので
相手を詰ませる状況までの明確な道筋が出ないと大きな勝負に出られないとでもいうのか。
こういう状況が動き回るバトルだと明確に保守に回ってしまって相手の隙ができるのを待ってしまうので、アカリのように、或いはカスミのようにこちらから状況を動かすために打って出るというのがどうにもできない。
といってもこういうのは単純な不向きの問題であり、同時にトレーナーとしての傾向の問題でもある。
できないから駄目、できるから良い、という問題ではないのだ。
例えばボクなら受けに回って相手の隙を作り、その瞬間に反撃に移る。
受け身に回る分相手をよく観察することができるし、その観察によってより受けを盤石にできる……ボクはそういうタイプだ。
そしてそういう受け回しはアカリにはできない。アカリはあまりバトル中に深く考えるタイプではないから。
その代わりにアカリには無鉄砲さを支える天賦がある。
それこそがボクが思うアカリの最も厄介な強みだ。
* * *
・なんでって聞かれたらだいたいは勘って返って来る
ピカチュウとスターミーの高速戦闘が続く。
均衡は崩れる様子も無く、縦横無尽にフィールドを飛び回るピカチュウと時に逃げ、時に追うスターミーの図式。
何度となく繰り返される攻防にアカリの目が少しずつ細まっていく。
逆に終わらない攻防にイラつきを抑えられないのがカスミだった。
「あーもう! このまんまじゃ千日手だわ! スターミー!
そんなカスミの言葉にスターミーがピカピカと中央のコアを発光させて応える。
同時に強力な『サイコキネシス』でピカチュウとの距離を強引に引き離す。
絶対に近寄らせないという気迫すら感じられる強烈な念動力に思わずピカチュウが退避した直後、スターミーがふわりと浮き上がり―――。
「『バブルこうせん』!」
ぱちん、というカスミが弾いた指の音と共に無数の泡が噴き出し、フィールドを覆い始める。
それはまるで先ほどのバトルでヒトデマンがやったのと同じような光景であり、当然それを見ていたアカリも同じことを警戒する。
いざという時いつでも視界を覆えるように備えるのを視界に収めながらカスミは気にした様子も無く。
「さあショウタイムよ!」
そんなカスミの声と共にアカリの視界の中で
「……っ!」
「ぴ、ぴか?!」
さすがにアカリちピカチュウもフィールド上から対戦相手のポケモンが消えるという事態に一瞬動揺する。
その直後、ぱちん、とフィールドを漂う泡が一つ弾けて。
―――その背後にスターミーが姿を現す。
「ヘァ!」
その姿に気づいた時にはすでに相手は攻撃の態勢に入っていて、こちらの行動の出を潰すかのように放たれた強烈な『サイコキネシス』がピカチュウをフィールドに叩きつける。
「ぴっかぁ!」
「……ピカチュウ」
一瞬早く反応できていたが故に辛うじて受け身を取ったピカチュウがダメージを軽減させるが、お返しとばかりに直後に放った『10まんボルト』はふっと再び姿を消したスターミーを捉えられない。
だが消えた瞬間を見たことでアカリが理論は分からずとも原理を理解する。
「……ピカチュウ、泡、注意」
「ぴか? ぴっか!」
先ほど放たれた『バブルこうせん』によってフィールド漂う無数の泡。
どうやってかは分からないがその泡の後ろに隠れている時、スターミーの姿が見えて無くなってしまっているらしい。
「……どこ」
「さあ、どこかしらね! こっちはそろそろとっておき、いくわよ!」
好戦的な笑みとは対称的に冷静にアカリの様子を観察するカスミの姿はさすがジムリーダーの貫禄というべきか。
優勢の状況に勢いづいても無鉄砲に飛び出さないだけの冷静さを残すのはこのカントー地方でも有数のトレーナーとしての経験の賜物なのかもしれない。
だから……それを油断とは言わないだろう。
スターミーの特性『はっこう』と『バブルこうせん』の泡を利用した光の屈折を操り姿を消すこの戦法はカスミとその相棒たるスターミーの渾身の力作だ。
先のフラッシュの時のように簡単に攻略できるはずが無い。
そう、普通なら。
視認されていない状態からなら大技を溜めていても気づかれにくく、そして相手からすれば泡が弾けた途端に突然技が飛んで来るのだから避け辛い。
だからこの一撃をフィニッシュに持ってこようとカスミがスターミーに合図を送り、スターミーが最大打点の『ハイドロポンプ』を溜め始めた。
直後。
「ピカチュウ……そこ」
何気なく、アカリが指さす方向。
そこには何もない、ただ泡がふわふわと浮かぶだけの空間があるだけであり、少なくとも見える範囲に他との差異は無い。
だがアカリの声に、指示に、ピカチュウが一瞬の躊躇も無く、全身に『10まんボルト』をチャージしながら『ばちばちアクセル』でもってして突撃する。
ぱちん、とピカチュウの纏う電気で泡が弾けて―――その向こう側にスターミーの姿が現れる。
「なっ!?」
「ヘァ?!」
カスミは驚愕に一瞬呼吸を止め、スターミーはまだ技の溜め中。
つまりすでに目の前まで肉薄したピカチュウのこの一撃を避ける術は存在しない。
「撃って」
「ぴーかー! ちゅうーーー!!!」
渾身の『10まんボルト』が放たれ、スターミーの全身を電撃が駆け巡る。
前方に溜めていた『ハイドロポンプ』を避けるように左右から襲い掛かった電撃のせいで相殺すらできないままに直撃ダメージを受ける。
まさか姿すら見えていない状況で攻撃を受けると思っていなかったスターミーであるが故に、その攻撃が無防備に『きゅうしょ』へと命中し、耐えることすらできない致命的ダメージにスターミーが墜落し……そのままプールの中に水没した。
『はっこう』とかいうゴミみたいな特性も何かの活用方法があってもいいじゃない。
ということで泡と発光で屈折を操って姿を消すとかいう謎理論。
でもアニポケってそういう謎の理論で成り立ってるからこれもセーフだと思うんだ(暴論