・使用率1位だから仕方ない
ジム戦後、プール際であれだけ激しくバトルしていたせいでアカリもピカチュウも濡れていたのでジムの備え付けのシャワーを借り、その間に服を乾かし……30分ほどして戻って来る。
そうして戻って来たアカリにジムリーダーのカスミがジムバッジを渡し、ジムを出ると行きには降っていた雨が止んでいた。
「雨止んでる……これなら明日には次の街へ行けそうだね」
「ん……どこ、行くの?」
「予定だと南に行ってヤマブキシティだったんだけど……」
ゲームだと封鎖されていたので地下通路を通ってクチバへと向かうわけだが、現在別にヤマブキシティ方面が封鎖されているわけではないので順当に進むとヤマブキシティが次になる、はずだったのだが。
「だけど?」
「さっきジムリーダーのカスミさんから聞いたんだけど、今クチバシティでアローラ地方の物産展みたいなのやってるらしいんだよね」
クチバシティはカントー地方で最大の港町だ。
ゲームでもサントアンヌ号が停船していたが、豪華客船が寄港できるだけの広さ、設備があり他の地方からも多くの船がやってくるらしい。
特にカントーから飛行機で海外旅行に行く際に使われる空港があるヤマブキシティと比べ、船旅をしたい時はクチバシティから行き来するらしく、他地方からの旅行客なんかもいて現地には他地方の品々を扱う店なんかも多いのだとか。
その中でも現在港周辺でアローラ地方の品を広く紹介している物産展をやっているらしく、旅の中で興味があるなら行ってみたらどうかとアカリがシャワーに行っている間にカスミに勧められていた。
「アローラ?」
「そうそう、アローラ地方は元々ちょっと閉鎖的な地方だったんだけど最近はちょっとずつ交流も進んでてね。結構人気の旅行スポットなんだよ」
「へー」
「あとアローラ地方にはその地方で独特な生態系を築いたポケモンたちもいてね。他の地方では見られないっていうポケモンもたくさんいるんだ」
「ん……興味ある」
やっぱりというか予想通りというか、アカリはそっち方面にはやたらと食いついた。
まあ実際アローラのポケモンというのはちょっと他では見ないポケモンが多い。
ゲームにおいても『リージョンフォーム』というのは初めて実装された地方であり、アローラの姿と銘打たれたポケモンは須らく原種には無い個性的な特徴を獲得している。
まあ対戦において実際に使えたのは一握りではあるが……リアルポケモンバトルなら話は変わって来るのでボクとしてもアローラのポケモンというのはいつかゲットしてみたいと思っている。
「ミミッキュ欲しいなあ」
「ミミッキュ?」
「ああ、いや何でもないよ。こっちの話こっちの話」
アローラのポケモンと言われて真っ先に思いついたソレが口をついて出てしまったが、まあやってるのは物産展であって別にポケモンをゲットする機会なんて無いだろうからそれは思考の片隅にでも追いやっておく。
「クチバならジムもあるしアカリ的にも問題ないと思うんだけど、どうかな?」
「ん、大丈夫」
「そっか、なら取り合えず今日は荷物の片付けだけやって、明日朝から出ようか」
「分かった」
そういうわけで雨あがりの街を途中にあるお店をアカリと冷やかしながら下っていく。
途中で調べたがハナダシティからクチバシティへ向かうにはゲームにもあった『地下通路』を抜ける必要があるのだが、ゲームのように歩いて抜けれる距離ではないらしい。
まあ現実にはヤマブキシティ一つ分の距離を抜けていくのだ。このカントーにおける最大規模の都市一つ分の距離をだ。
歩けとか言われても何日かかるのかという話であり、中では普通にバスが出ているらしいし、なんだったらヤマブキシティの各地の地下とも繋がっていて渋滞する地上の混雑解消のため日々地下道が開通し多くの自動車が行き来している場所でもあるのだとか。
さらに通路間にはパーキングエリアみたいな場所が何か所もあるらしく、そこから地上のヤマブキシティに出ることもできるらしい。
「まあ『地下通路』までは歩きみたいだけどハナダシティからだいたい2,3時間あれば行けるらしいから朝のうちに出れば間に合うかな?」
『地下通路』を抜けるのにだいたいバスで3、4時間くらい。
さらに抜けた先からクチバシティまでさらに2,3時間。
結構な距離だがそれでも朝の内に出れば夕方くらいにはクチバシティにたどり着ける目算だ。
「心配なのはまた天候が崩れないかってことだけど……大丈夫そうかなあ」
「ん」
宿としているポケモンセンターに戻りながら空を見上げれば空を覆う雲の隙間から日の光が見える。
天候は順調に回復しているし、この様子なら明日も晴れかなと安堵の息を吐いた。
* * *
・クチバへの道のり
翌朝早めに起きて身支度を整える。
どうせ起きないだろうとアカリを起こしに行き、案の定起きなかったアカリをピカチュウに頼んで起こしてもらいどうにか着換えさせて一緒に朝食を済ませる。
必要分以外の荷物を転送して手荷物だけ残すとポケモンセンターを出て街を南下していく。
どうせならハナダシティでもイベントがあれば良かったのだがハナダシティでのイベントはだいたい夏場に偏っている。
水の町というだけあって周辺を流れる大河を使用した水上レースだとか、水中ショーだとか水を使ったイベントが多く、さすがにまだ春の季節にやるようなものでは無いものばかりだった。
そういうわけで夏場になったらまだ来ようと内心で予定を組みながら街を出て『5番道路』を南に進む。
途中やたらと大きな施設があると思えばゲーム時代にもあった『育て屋』らしい。
将来的にゲットしたポケモンがあまりにも多いようならこういう施設を使うのもアリなのかもしれないが現状のボクやアカリでは縁のない施設だった。
そうしてさらに南へ進むと、『地下通路』への入口があった。
ゲーム時代と同じ大きな階段を下っていくのだが、地上周辺にはいくつものホテルやポケモンセンター、フレンドリーショップにその他たくさんのお店が並んでいた。
なんというか……そう、ボクの薄っすらとした前世の記憶でいうところの都会の『駅前』みたいな感じ。
ゲームの頃は入口以外に何も無かった場所だが、やたらと人が多いしアカリとはぐれそうになったので手を繋いで地下へと向かう。
地下は薄暗いので良く落とし物がある、みたいな設定がゲームだとあったはずだが普通にあっちこっちにライトがあり想像していたよりずっと明るい。
というかそれこそ駅の地下街みたいな光景が広がっていて割と本気で迷いそうになりながらバス乗り場にたどり着く。
それからバスに揺られ3、4時間ほど。
あちらこちらに明りがあった地下街と異なり一定間隔に並べられた照明だけが並ぶ道をゆったりとしたペースで進んでいくバスに揺られていたせいか、気づけば隣に座っているアカリと2人で眠ってしまっており、目が覚めたらすでに終点であり、ボクの膝を枕にアカリが器用に寝ていたので二重に意味で驚いた。
とにもかくにもアカリを起こしてバスを降り、ハナダ側と同じような地下街を抜けて地上へと出るとやはり人工の明りとは異なる太陽の光の眩しさに目を細める。
先日までの雨が嘘のような快晴の空の下、クチバまでの道を歩いて進んでいく。
途中でボクたちを追い抜いていく車が行き来するのを見やりながらやっぱりバスを使っても良かったんじゃないかと思うくらいには歩いた先、ようやく目的のクチバシティが見えてきた。
クチバシティに近づくにつれ香ってくる潮の匂いにアカリが首を傾げていた。
マサラタウンも南に行くと海があるのだが、ボクたちの住んでいるところはトキワシティ側……マサラタウンでも最北なので基本的に山と森に溢れた緑の香りに包まれている。
それに海といっても海水浴ができるような場所ではなく、どちらかというと崖と岩礁の多いところに一部を開発してグレンタウンとの連絡船を出すための小さな港を作ったような寂びれた場所であり、基本的に子供の行くようなところでは無かった。
そのためマサラタウンは海辺に面した街であるにも関わらず潮の匂いを知らない子供というのが多い。
ハナダシティも川はあっても海はもう少し北のほうに行かねば見えないため、ボクもアカリもこの世界で海を見るのはこれが初めてになる。
まあボクは記憶の中の知識として海というものを知っているのでそれほど驚きは無いのだが、アカリは初めて見る海に驚いていた。
そうして日が暮れ初め潮の匂いが強まる頃、とうとうクチバシティに到着する。
さすがに今から動き回る元気もないので、今日のところは素直にポケモンセンターで宿を借りることにし、同じくセンターで夕食を済ませるとアカリと明日について軽く話し合って今日はもう寝ることにした。
* * *
・いや、キミもかい
朝起きると思っていたより体調は悪くなかった。
いや、正確には足が筋肉痛で動かなくなるのではと思ったのだが、トキワの森を踏破した時もそうだが若さのお陰か、或いは単純にこの世界の人間ってやっぱちょっとどこかおかしいのか、昨日トータルで6時間か7時間くらいは歩いたはずなのだがそれほど疲労は溜まっていない。
シャワーを浴びて寝る前は結構疲労していたと思っていたのだが一晩ですっかり回復していた……というか疲れていつもより早く寝たせいか、起きる時間もいつもより少し早いくらいだ。
まあポケモンセンターは基本24時間営業なので朝食にしようと思えば別にできなくもないのだが、まあアカリは間違い無くまだ寝ているだろうし、先に食べるのも寂しいのでもうしばらく時間を潰すことにした。
折角なのでセンターのロビーに置いてある物産展のパンフレットを読んでみる。
昨日見つけていたのだがさすがに疲れていたので明日読もうと思っていたのだ。
そうして目を通してみると案外トレーナー関連に品は多くないようで、だいたいがアローラの伝統工芸品だとかそういうのばかり。
あとはまあゲームでもあったマラサダの店とかもあるらしく、多少興味があったので行ってみようと思う。
そうしてロビーで時間を潰しているとなんとアカリが現れた。
自分で起きたの?! と驚いていたのだが、どうやらお腹が空いたピカチュウに起こされたらしい。
さすがに寝巻のまま出てくるようなことはしていなかったようだが、それでも頭に寝ぐせをつけたままのその姿に嘆息し、ロビーのソファーに座らせると手荷物の中から櫛を出してその髪を梳いてやる。
最低限の身支度だけ整えてやるとアカリと連れ立って朝食に向かう。
それから今日の予定を軽く話し合い予定通り物産展のほうを先に行くことを決めながら朝の運動がてらセンターの裏庭のバトルコートを借りて手持ちたちとトレーニングをする。
特に先日初のジム戦で勝利したばかりのピチューは意気軒昂でありアカリのピカチュウのようにもっと強くなりたいと意欲的だった。
対称的にピィはまあほどほどに、と言いたげな様子だがやることはしっかりやっているのでこちらも問題ない。
イーブイはバトルの訓練はまだ怖い様子なのでボールを使った玉遊びをした。別にバトルをしないのは良いのだがポケモンだって動かないのに食べてばかりなら太るのは当然なのである程度の運動は必要だ。
おデブちゃんなイーブイも丸々とした毛玉みたいで可愛いのかもしれないが、それはそれとして体には悪いのでその辺の管理はしっかりやっている。
ここ数日は雨続き、昨日は雨は止んでいても移動の日だったし、久々の屋外で走り回れるということもあって手持ちたちも心なし生き生きとしているのを感じながら最後にピカチュウとシャンデラで軽くバトルをする。
まあこれから出かけるので本気のバトルというわけではない、互いの何度か技を交換しあい調子を確かめる程度のやり取りに止めておく。
こういうウォーミングアップはできれば毎朝やっておくと手持ちたちの健康管理もできて良いのだが、旅をしている最中だと中々タイミングが難しい、だからできる時には必ずやっておきたかった。
そうして特に手持ちたちに問題が無いことを確認しながら時間を確認すればそろそろ良い時間でもある。
クチバシティはヤマブキやタマムシほどの大都会というわけではないが、港湾都市としてそれなりに賑わっているし規模も大きいのでクチバの入口にあたるここから最奥にあたる港区まで歩いていればちょうど良い時間になるだろうと計算しながらアカリと出発する。
スマホで地図を確認しながら途中でポケモンジムの場所もしっかり把握し、歩くこと30分ほど。
「すっごい賑わいだね」
「……ん」
目の前に広がる光景に圧倒される。
人、人、人。カントーってこんなにたくさんの人がいたんだと驚くほどに多くの人が行き来する。
あっちこっちに物産展の看板と共にカントーでは見ることのない品々が並ぶ店があり、それでもまだ足りないとばかりに屋台も多く出ている。
まるでお祭りか何かかのような騒ぎに驚きながらも歩いているとどこかから甘い匂いが漂って来る。
アカリの肩に乗ったピカチュウもそれに気づいたのかくんくんと匂いを嗅いではふにゃりと顔を綻ばさせていた。
どこかなあ、と匂いの元を探ればどうやら食べ物関係の店舗や屋台が集中した場所があるらしく、そちらに向かって進んでいくにつれさらに匂いが強くなってくる。
「良い匂いだねえ」
「ん……」
「いっぶいっ!」
アカリも満更でもなさそうに頷く。心なしいつもより表情が柔らかいような気がする。
ボクの頭の上でイーブイがさっきから忙しなく右へ左へと頭を動かし、それに連動するように尻尾がぶんぶん振られているのがちょっとくすぐったい。
そしてボールの中で匂いなんて感じないはずなのに突如ボールからピィが出てきて早く食べたいとボクの袖を引っ張って来る。
「ぴ! ぴぃ!」
「分かった、分かったから」
さすが暴食の権化だ……本能で甘いものを察知したか。と内心で戦慄していると、ふと反対の手を引っ張って来る感覚。
視線を降ろすとそこに口からだばだばとヨダレを流しながら目をキラキラさせてボクを見つけるピチューの姿が。
「……いや。キミもかい」
少しだけ呆れ、嘆息し。
そして苦笑した。
これ言ったっけ? って思って確認して多分言ってなかったから言うけど、リンくんちゃんのゲットするポケモンにはちゃんと法則性があります。
正確には統一パです。
これはリン君ちゃんの裏設定の類に関するものですが、今はそれは良いとしてその統一性に従って使えるポケモン探してたらミミッキュ使えるだって昨日気づいた。
ただカントー編だとミミッキュは無しかな……。
ちょっとこの現実仕様とリンくんちゃんのスタイルとミミッキュって全部組み合わせると強すぎることになりそうだから。